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第一章 俺とお嬢様
16 パーティーへ ①
しおりを挟むコンコンコン
「お嬢様、ノアでございます」
「入っていいわよ!」
レイラ様にそう言われ俺は扉をゆっくりと開けた。
「ノア!どお?似合ってる?」
扉を開けると、濃い藍色のドレスに金色のレースと刺繍が施されているドレスを纏ったレイラ様が立っていた。そして、俺が以前『星の夜祭』で買って差し上げた安物のネックレスが、首もとにあしらわれていた。というか、ネックレスよりもパックリと開かれた胸元の昔よりもだいぶ、ご成長されたおっp……お胸様が気になって気になってしょうがない。なんというか、これは……
「……ちょっと妖艶すぎてませんか」
「ちょっと、どこ見て言ってるのよ」
「おっと、失礼」
俺はそう言ってレイラ様のおっp……お胸様から目を反らした。いやいや、でも、だって。健全な男からしたら、こんなの見ちゃうに決まってるでしょうに。
「で?どうなのよ」
レイラ様はずいっと顔を近づけ俺に訊ねた。
駄目だ。駄目だ。冷静に。紳士的に。
「とてもお似合いです。完璧です。お嬢様」
俺はそう言ってにっこりと微笑んだ。
すると、レイラ様は満足そうに「ふふ、ありがとう」と言って微笑み返した。
「けど……建国記念のパーティーなんですから、ネックレスはもっとドレスに合う高価な宝石がついている物の方がいいんじゃないですか?」
俺がそう言うと、レイラ様は「いーの!これがいいの!」と子供のように仰った。……くそ、かわいい。
そんな事をしていると、突然後ろから咳払いをする声が聞こえた。後ろを振り返ると、執事長のアルフレッドが立っていた。
「お嬢様。ジェイコブ皇太子殿下がお見えになりました」
「あぁ、もうそんな時間ね。ありがとう、アルフレッド。もう準備はできたからすぐに向かうと伝えて頂戴」
「かしこまりました」
執事長はそう答えるとその場を後にした。
執事長の姿がなくなると、俺はあることに気が付き口を開いた。
「あ、忘れるところでした」
俺はそう言って胸ポケットからあるものを取り出した。
「ノア?」
「お嬢様、お手をお借りしてもよろしいですか?」
「え?まあ、いいわよ」
「ありがとうございます」
そう言って俺は、あるものをレイラ様の手首に丁寧に着けた。
「わぁ!とっても綺麗ね。どうしたの?これ」
レイラ様はそう言って手首に着けられた、金色と水色の石が装飾されているブレスレットを眺めた。
「プレゼントです、お嬢様。実はですね、この金具の小さな突起を押すとですね、小さくて細い針サイズの麻酔弾が発射されます」
「……はい?」
「『スルス館』の魔道具に詳しい人に教えて貰って、僭越ながら私が作らせて頂きました。名付けて麻酔弾ブレスレットです。因みにですけど、魔道具の魔法の効果で眠らした相手は眠る直前の記憶が消されますのでご安心下さい」
「ぶ、ぶぶ物騒!ご安心下さいじゃないわよ!どっかの探偵アニメのやつよりも強化されてるじゃない!」
「はい?何言ってるんですか」
「あ……いいえ、こっちの話よ。って、そうじゃないわ!どうしてこんな物騒なもの……」
「だって今回のパーティーは会場まではお嬢様をお守りできますが、パーティー会場には俺、入れないじゃないですか。なので、護身用です」
「護身用って……一応エスコートして下さる殿下もいるし、大丈夫よ」
「何言ってるんですか。そのケダモノが一番危ないでしょう」
俺は食いぎみにそう言った。以前から自己中心的で横暴な殿下だったが、最近はそれに加えて、レイラ様という婚約者がいるにも関わらず女遊びも激しいらしい。そんなケダモノがこんな魅力的なレイラ様を見たら、何をしでかすか分かったもんじゃない。
「……俺が心配なんです。どうか、受け取ってくれませんか」
俺は身体を屈めて上目遣いでお願いした。すると、レイラ様は「うっ」と言って頬を紅く染めながら右手を口元に当てた。……俺は知っている。レイラ様はこうやってお願いをする俺に弱いのだ。
「わ、分かったわよ!」
「ありがとうございます、お嬢様。これで私も安心です」
俺は満足気にそう言うと、レイラ様は頬を紅く染めたまま少し不服そうな表情を浮かべていた。が、すぐに諦めたように「ありがとう、ノア」と仰った。
「では、今度こそ参りましょうか。お嬢様」
「ええ、そうね。殿下がお待ちしてるし、急ぎましょう」
そうして俺とレイラ様はその場を後にした。
***************
俺とレイラ様は赤いカーペットが敷かれた階段を足元に気を付けながら、ゆっくり下りて公爵邸のロビーへと到着した。すると、少し不機嫌そうに腕を組んでいる殿下の姿が見えた。
「お待たせ致しました」
「お待たせしましたわ。殿下」
「おい、遅いぞ。俺をあまり待たせるな」
「……あら、気の短い男はモテませんわよ?」
「ハッ。生憎、俺は女に困ったことはない」
殿下は鼻で笑いながら、何故か自慢気にそう言った。目の前に自分の婚約者がいるのにも関わらず、婚約者本人にそんな事をいうなんて本当に屑やろうだな。だいたい、さっき着いたばかりだろう。そんな待っていないだろうが。
俺はそんな事を思いながら殿下に冷ややかな視線を送っていると、その視線に気が付いた殿下が口を開いた。
「あ?ハッ。相変わらず、こんな生意気そうなやつを従者にしているんだな、お前は」
殿下はそう言いながら、俺を睨み付けた。そうやって俺達がお互いに火花を散らしていると、レイラ様は思わず俺の裾を引っ張って口を開いた。
「ちょっと、ノア!」
「……失礼しました。お嬢様」
俺はそう言って一歩後ろへと下がった。
「ふん……さっさとそんな目障りなやつ解雇してしまえ。いずれお前は俺様の妃になるんだからな。全く……目障りでしょうがない」
「……私の従者は私自身が決めることですので。殿下にあれこれ言われる筋合いはございませんわ」
そう言うと今度は殿下とレイラ様が火花を散らし始めた。あれ、このやりとり、なんだかデジャブってやつ?
俺が呑気にそんな事を考えていると、殿下の御付きの者が殿下の後ろから気まずそうに声を掛けた。
「で、殿下。そろそろお時間が……」
「あぁ、そうだな。おい、早く行くぞ」
殿下はそう言って背を向け、そのまま足早に進んでいった。
「相変わらずですね。殿下は」
「ええ。むしろパワーアップしているわ。もうサクッと行ってサクッと帰りましょう」
「そうですね」
俺とレイラ様はそう言いながら、顔を見合わせお互いにため息を漏らした。
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