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第一章 俺とお嬢様
18 パーティーへ ③
しおりを挟む「お久しぶりです。ルウ様……といっても麻酔弾ブレスレットを作っていた時にお会いしてたじゃないですか」
「ははっ、そうだったね」
ルウ様はそう言って元から少し細い目を、更に細くしてフワッと笑い掛けた。そう、この優しげな雰囲気のお方が麻酔弾ブレスレットを作るときに手伝ってくれた魔道具に詳しい人だ。ルウ様は俺達と同い年で『スルス館』の長である「オリバー・シモン」の息子で侯爵家の三男だ。
「あ、久しぶり♡ノア君♡私もいるよぉ」
そう言ってルウ様の後ろから、ひょこっと侍女が出てきた。彼女はアーシャというルウ様のところの侍女だ。彼女もまた『スルス館』の魔道師だ。しかし俺は彼女を見たその瞬間、思わず「うっ」と少しだけ顔をしかめた。
「あ、ところで今年は君もグロブナー家のレイラ様も学園に入学するんだろう?」
「え、ええ。そうですね」
そう言えば……確かお嬢様の前世の話では、ルウ様はお助けキャラ?的な人だって言っていたな。
「君と一緒に学園生活を送れるなんて嬉しいよ。凄く楽しみだ。それにあの子も一緒だし……」
「あの子……?ですか」
俺がそう訊ねると、ルウ様はハッとして慌てた表情で「しまった」と呟いた。
「いや、まだ他の人には言っちゃいけなかったんだった。ごめんね、その子と約束していたんだった」
「も~ルウ様はオマヌケさんですねぇ~」
アーシャさんにそう言われると、ルウ様は頭をポリポリと掻いて笑いながら再び口を開いた。
「はははっいや、でも入学したらまた紹介するよ。あ、それじゃあ、僕はそろそろ会場に向かうとするよ。また入学式で会おう、ノア君」
「ええ。楽しみにしております、ルウ様」
「あ!じゃあ~じゃあ~私と控え室に行きましょぉ、ノ~ア君!」
アーシャさんはそう言って俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「えっ!ちょ、待って!」
「待たないよーん」
「ははっ、2人とも仲良しだね。ぶつからないように気を付けて、アーシャ」
「はぁーい♡」
アーシャさんは腕を組みながら、ヒラヒラとルウ様に手を振った。どこが仲良しなんですか!どこが!!?
「ふふ♡実は今日、ルウ様について行ったらノア君に会えるかなぁって思ってついてきたんだぁ。私も『リベルテ学園』の卒業生だからいっぱい、いろぉんな事、お姉さんが教えてあ・げ・る・ね♡」
アーシャさんはそう言って俺にウィンクをした。あーだから、苦手なんだよ。この人は。俺はそのままアーシャさんにズルズルと引きずられていった。
********************
俺はなんとかアーシャさんから逃れて王城の中庭へとやってきた。俺は中庭の大きな噴水のところで座り込んだ。
最悪だ。なんだか、どっと疲れた。
アーシャさんに連れられて、控え室の方へ行くと何故かアーシャさんだけではなく、他の侍女や控え室で休んでいた貴族のご令嬢やらに揉みくちゃにされ、なんとかここまで逃げてきたのだ。
俺は先ほどまでの出来事を思い出し、深くため息をついた。俺、今日何回ため息ついているんだろう……
俺はふと空に浮かんでいる、上品にキラキラと輝く満月を見つめた。
「……あー……レイラ様に会いたい……」
補充したい。
俺の心の充電をさせてくれ。
俺がそう思いながら呟くと、後ろから「ノア~!」と微かに俺の名前を呼ぶレイラ様の声が聴こえてきた気がする……
「~~ノア~~~~!」
!?
気がするじゃない!本当に呼んでた!
俺はパッと立ち上がり後ろを振り返った。振り返るとドレスで走ってくるレイラ様の姿があった。
「あっ……いた、ノア!はぁはぁ、……っん……ノ、ぁ……」
俺の元へたどり着くと、レイラ様は少し髪が乱れて息を切らしていた。息を切らして身体と胸が上下に動いている様子が、なんというか、どこか色っぽく感じて……エ、エロイ。走ってきたせいか、顔も少し火照っていて汗ばんでいる。
俺の心は今、十分過ぎるほどに充電されたが、充電どころか思わず理性が振っとんでそのまま押し倒して襲ってしまいそうだ。
しかし、俺は従者。俺は紳士。これくらいでは動揺を表になんて出しはしない。そう自分に言い聞かせて俺は手を差し出した。
「だっ……だだだいじょうぶ、デスカ、お、じょう……」
「お、おじょう?」
……失敗した。めちゃくちゃ動揺してた。
俺が少し心に傷を負っていると、レイラ様はくしゅんと可愛らしい声を上げてくしゃみをした。そんな薄着で走ってきたんだ。汗が冷えてしまったんだろう。
俺は自分のジャケットをレイラ様に羽織らせた。
「まだ夜は肌寒いです。羽織っていて下さい」
「あ、ありがとう。ノア」
「袖に腕も通して下さい。なんなら、前も全部閉じて下さい。俺が過ちを起こす前に」
「え?わ、分かったわ。でも前全部はちょっと厳しいわよ。このドレスじゃ」
「まあ、譲歩しましょう。というか、どうしたんですか?まだパーティーの途中じゃ……ハッまさかあのエロ殿下が?」
「まあ、それもあるわ。だいたいの人に挨拶し終わったら急に人気の無い部屋に無理やり誘導されて、いきなり覆い被さろうとしてきて……ムカついて思わず、一発殴っちゃったから麻酔弾発射して眠らせてやったわ」
俺はレイラ様の話を聞いた瞬間、頭がぶちギレそうになった。
「あの糞エロ小僧。麻酔弾に毒でも混ぜておくんだった」
「そ、それは捕まるから!なんなら、ギロチンフラグ回収しちゃうわよ!」
レイラ様は慌てて俺を宥め始めた。
「あ、あと、それだけじゃなくて……そのあとルウ様と会場でお会いした時に、ノアがルウ様の侍女に連れて行かれたって聞いて……」
「え」
「ル、ルウ様の侍女が『今日、ノア君、色んな女の子に狙われてるから急いで奪われないようにしなきゃ』って……ルウ様から聞いて、私慌てて探しにきて……それで」
レイラ様は頬をさっきよりも濃く紅く染めて、モジモジしながら話している。俺は胸がキュッと掴まれる感覚を覚え、レイラ様の顔を覗き込んだ。
「……心配、して来てくれたんですか?」
「っ!う、うん」
レイラ様は顔を近づけられて、更に顔を真っ赤にさせた。俺はそんな姿が愛おしくて、そのまま顔を近づけたまま優しく微笑んで「ありがとうございます」と答えた。俺がそう言うと、恥ずかしくなったのか、コクンと頷いて俺から顔を反らしてしまった。
しかし俺はすかさず、そのままレイラ様の手を取って、そっと腰に手を回した。レイラ様は思わずビクッと身体を弾ませ、少しだけ顔を上げて俺の顔を見つめた。
「……踊りません、か?」
「え」
「いや、ほら、ここからなら微かに音楽が聴こえますし。お嬢様もそんなに今日踊れてないでしょう?」
「そ、そうね!折角だしね!!」
レイラ様は少し慌てた口調で答えた。
そして微かに聴こえる音楽に合わせて、俺達は踊り始めた。自分から誘っておいてなんだが、密着したレイラ様の柔らかい身体が妙に生々しくて、変な気分になりそうだ。心臓がバクバクして飛び出てきそう。
「久しぶりよね。ノアと踊るの」
「え、あぁ。そう言えば、そうですね」
昔はダンスの練習の度に付き合っていたが、最近は全く踊っていなかったかな。
「なんだか昔よりも背が伸びて、ちょっとだけドキドキしちゃうね」
レイラ様は頬を紅く染めたままそう言って、俺に笑い掛けた。
「……お嬢様。お願いですから、この状態で色々と煽らないでもらってもいいですか」
「え、どういうこと?」
俺は紳士。俺は紳士。俺は紳士……
そう言い聞かせながら、俺は自分の理性と自分のムスコを落ち着かせた。
少しでもこの2人だけの時間を、長く過ごす為に。
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