俺のお嬢様はおとめげーむ？の『悪役令嬢』らしいです

第二章 学園生活始動

19 ヒロインとエンカウント ①

　ガタガタッガタガタガタガタッ


　俺達は窓の外から朝日を浴びながら、馬車に揺られていた。

「ついに、この日が来ちゃいましたね。入学式の日が」

「ええ。そうね……あああぁああああ！！行きたくないいいいいぃぃぃいいい！！！」

「駄々をこねないでください、お嬢様」

「だってぇ！！ギロチンが掛かってるのよ！」

「もうここまで来たら、覚悟決めて下さいよ。子供じゃないんだから」

「むぅ……ふんっ！何よ！前世の年齢と合わせたら、私の方がずっと年上なんだからね！」

「じゃあ、年上らしくして下さいよ」

　俺がそう言うとレイラ様は、更にむぅうと頬を膨らました。

　今日は『リベルテ学園』の入学式。そう、いよいよ『おとめげーむ』のメイン舞台となるストーリーが始まるのだ。その為か、レイラ様は昨日から、ずっとこのように子供みたいに駄々をこねている。まあ、ギロチンが懸かってるし気持ちは分からなくもないけれど。

　俺がそんな事を思っていると、さっきまで駄々をこねていたレイラ様が、何故か腕と足を組んでこちらをジーと見つめていた。

「今度はなんですか？お嬢様」

「ん？あぁ、あのね、やっぱりノア、その制服似合ってるなぁと思って！あの乙女ゲームの制服、けっこう人気で、コスプレイヤーの間でも流行ってたのよね！クラシックな感じだけど、オシャレだし」

　こす……また変な単語が出てきた。

「えっと、ありがとうございます。お嬢様もお似合いですよ」

「ほんと？ふふふ、良かったぁ。本当はちょっと心配してたのよね」

　レイラ様はそう言って、嬉しいそうに微笑んだ。相変わらず、レイラ様はコロコロと表情が変わる。そこが、かわいいんだけども。
　レイラ様も着ている女子生徒の制服は、薄い茶色のワンピースのような制服で、焦げ茶色の丸く大振りな襟とワインレッドのリボンがつけられている。俺が着ているものも、基本の色は同じ感じで薄茶色のブレザーに焦げ茶色のチェック柄をしたパンツ。そしてワインレッドのネクタイをしている。

「ていうか、結局『ヒロイン』ともあれ以来会えなかったわね……『ヒロイン』の子、誰のルートを選ぶのかしら」

「まあ、あの『星の夜祭』の様子じゃあ、殿下はなさそうですけどね」

「そ、そうね。あの様子だと『ヒロイン』も転生者の可能性が高そうだったし」

「でも『ひろいん』が殿下を選ばないとなると……レイラ様はこのまま殿下とご結婚されるという事ですよね」

　俺がそう言うとレイラ様はキョトンとした顔でこちらを見つめた。

「…………え！？そうじゃない！そうなるじゃない！！あの殿下と結婚……嫌嫌嫌、無い無い無い！！」

「まぁ、そうですよね」

　俺も嫌ですし。

「そうよね、そうなるわよね……ど、どうしましょう。どうにかして『ヒロイン』を説得してあの殿下を押しつけ……ううん、殿下と結ばれるようにしなくちゃ！！そして、平和に婚約破棄よ！平和に！！」

「うーん、上手くいきますかね」

「いく、いかないじゃないのよ。上手くやるのよ、上手く！」

　レイラ様はそう言って、凄い形相で顔をずいっと近づけた。

「レイラ様、悪役令嬢っぽい顔になってますよ」

「あら、失礼」

　レイラ様はそう言って、軽くウェーブが掛かった長い金髪の髪を右手でブンッと後ろに払った。そして、そのまま立ち上がって右手の拳を上に突き上げた。

「そうと決まれば、まずは目指せ、『ヒロイン』と再びエンカウントよ！ノア！」

「え、えんか……よく分からないけど、そうですね。頑張りましょう」

　俺はそう言ってため息交じりに微笑んだ。
　それから俺は、学園に着くまでレイラ様から「エンカウント」の説明を受けながら馬車に揺られて行った。



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　そうして俺達は今、校門の目の前で……


「「「あ……」」」

『ひろいん』とエンカウントした。

「あ……え～と……ど、どうする！？ノア！！」

　エンカウント……つまり、『ひろいん』と遭遇したはいいが、その後の事を考えていなかったようでレイラ様はテンパった様子で俺の方を振り向いた。

「どうするって……まあ、ここは、とりあえず挨拶しましょ」

「そ、そうよね！えっと……ご、ごきげん……あ、あれ！！？いない！？」

「先に行ってしまったみたいですね。ほら、あんな遠くに」

　あの『ひろいん』、レイラ様が視線を反らした瞬間にめちゃくちゃ全力で走っていったな。

「つ、次よ！次！これからまだチャンスはあるわ！特にノア！」

「え、俺ですか？」

「当たり前じゃない。貴方、『ヒロイン』の攻略対象なのよ？」

「えぇ……」

「ノアに懸かっているわ！これから『ヒロイン』はね……」


　レイラ様の話によると、攻略対象を選ぶ前の、この入学式のお話が『おとめげーむ』で全員共通の『ちゅーとりある』の話になるらしい。うん、よく分からん。

　ともかく、このお話で攻略対象全員と出会うようなので当然、攻略対象の俺とも出会う訳だ。

　そして俺は……


「やぁ、さっきはどうも」

　この入学式の会場で『ひろいん』と隣同士になるようだ。

「……っ！ど、どうも……」

　俺のにこやかな挨拶に対し、『ひろいん』は先ほどのレイラ様のようにテンパった様子で返事を返した。
　それもそうだろう。何故なら『おとめげーむ』での俺は『ひろいん』に対して挨拶なんてしなかったらしい。むしろ『おとめげーむ』では『ひろいん』の方から声を掛けるようだ。

　会場の少し離れた席から、レイラ様が「上手くやるのよ！」とさっきから目線で訴えてくる。
　ハイハイ、ワカリマシタヨ。


　さぁて……どうしようかな。