俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

文字の大きさ
36 / 41
第三章 俺とおとめげーむの攻略対象達

34 リオルート ①

しおりを挟む


 ガタガタガタガタガタガタ


 俺は今、馬車に揺られている。
 ついに、今日はマードゥン様の別荘へとお邪魔させて頂く日だ。マードゥン子爵家への手土産もよし。レイラ様のお着替えもよし。お泊まり道具もよし。うん、完璧なはず……

 俺はそう思いながらウンウンと頷き、ふとカーテンが掛かっている窓へと視線を移した。カーテンを少しだけめくると、窓の外は少し薄暗い道を通っているようだ。うーん、まだトンネルを抜けていないみたいだな。

 別荘があるマルセイル領へと向かう道中には、『オルツィトンネル』という長いトンネルがある。そのトンネルを抜けるとマルセイル領が見えてくると言う情報が下僕②から入っていた。が……かれこれ数十分ほどトンネルの中を通り続けていた。

 俺は少しだけ馬車の窓を開けて、顔を外へと出した。
 すると、前の方に少しだけ外の光が見え始めていた。そろそろトンネルを抜けるみたいだ。
 馬車は歩みを止めることなく走り続け、ついにそのまま薄暗いトンネルを抜けていった。トンネルを抜けると、そこには綺麗に澄んだ海が一番に目に入ってきた。太陽の光が反射して、キラキラと輝いている。俺は海を見るのは初めてで、思わず「わぁ」と呟き感動した。

「あ」

 美しい海から海岸沿いに俺は視線を移すと、近くに街が見え始めていた。恐らくあれが『マルセイル領』だろう。

「お嬢様、やっとマルセイル領が見えてきましたよ!窓の外を見て下さ……もー、お嬢様」

「うぅ……なによぅ」

 俺が後ろを振り返り声を掛けると、膝を抱えて隅の方で半べそをかいているレイラ様がこちらを睨んだ。もー、また半べそかいちゃって。仕方がない人だなぁ。

「その格好、淑女としては少々はしたないですよ」

「うぅ……窓を主人の断りもなく勝手に開けて、はしゃいでる従者もどうなのよ」

「大丈夫です。ここには旦那様も執事長もララさんもいません」

「私がいるんだけど?貴方のカーストどうなってるのよ!」

 レイラ様はそう言って俺に近づき、俺の胸をポカポカと殴り始めた。正直、そんなに痛くない。かわいい。

「もう!もう!もう!もう!人の気も知らないで~!ノアのバカ!あんぽんたん~~!」

 うん。ばかって何だ?あとあん……?
 いや、恐らくまた前世の言葉なんだろう。怒ってるし、とりあえず適当に流しておこう。うん。

「はいはい。スミマセン、お嬢様。というか先程からしょげているのって、もしかして昨日フローレス嬢が話していたことを気にされているのですか?」

 俺がそう訊ねると、レイラ様はピタッと動きを止めて顔を上げた。

「うぅ……そうよ!当たり前でしょ!毒殺されるかもしれないんだからぁ!」

 そう、昨日のフローレス嬢の話によると、レイラ様はトゥルーエンドの『リオルート』に入ると毒殺されるらしい。

 というか、他の攻略対象達のトゥルーエンドも、ほとんどの確率で悪役令嬢のレイラ様は即死するという事実が発覚した。

 簡単にまとめると……
『ジェイコブルート』ではギロチン処刑。
『マーシュルート』では事故とみせかけて殺害。
『ノアルート』では俺自身が暗殺……

 いや、俺は暗殺なんてしない。するわけがない。

 そんな中、唯一レイラ様が即死しないルートがある。それが『ジャックルート』。最終的な場面で聖女として立派に成長を遂げるひろいんに対し、レイラ様は嫉妬をしてひろいんを陥れようとする。しかし、それに気がついたジャック・ラオネル様はレイラ様を捕えて牢獄送りに。国唯一の聖女を陥れようとした罪は重く、げーむの中でのレイラ様はそのまま終身刑となった。即死ではない結末だが、それはそれで死んだも同然の処罰が下る。

 そして、今最も警戒しなければならないのがマードゥン様。『リオルート』だ。

 確かフローレス嬢の話によると……


 ******



「えっと、リオルートのリオはですね……実は幼い頃から父親に、子爵家の後ろ盾を少しでも作れと言われ続けて、より爵位の高い貴族に気に入って貰って取り入ろうとしていたんです。あの子犬系あざとキャラもその為です。それで、学園に入学してからは公爵家のご令嬢、レイラに目をつけて近づくんです。おだてて気分を良くさせ、あざとく甘えてくるリオを高慢ちきなレイラもそれなりに気に入ってました。リオも殿下の婚約者と知ってはいましたが、公爵令嬢であれば爵位の高い貴族の人脈もありますし、気分を良くさせれば上手く利用出来ると考えていたのです。けれどそう考える一方で、心のどこかでは自分のやりたい事は本当になんだろうかとリオは葛藤します」

「……ふむ、なるほど」

 まぁ、これはリオに限っての事ではない。貴族に生まれれば、そういった家柄同士の関係を築いていくことも幼い頃から教育され、重要にもなってくるだろう。まぁ、うちのお嬢様はその辺少し無頓着だけど。

「でもですね!そんな学園生活の中で出会ったのが、ヒロインなんです!最初は聖女候補と噂されるヒロインを利用できないかと思って興味を抱くんですが、心優しいヒロインと接していく内に二人の距離が縮まっていくんです。そして、距離が縮まっていくとヒロインはリオの胸の内を聞き出せるイベントが発生します。そのイベントでリオの心の内に秘めている想いを知ったヒロインは、『私は貴方の事を応援する』と約束を交わします。ここでリオのヒロインに対する好感度が爆上がりするんです!」

「そしてふたりの恋が成就……ですか?レイラ様は序盤にしか出てきていないようですが」

「ええ、ノーマルエンドではそのままラブラブしてエンディングを迎えますけど、トゥルーエンドではまだ続きがあります。ここで悪役令嬢レイラがまた登場するんです」

「う……私ね」

 レイラ様はそう言ってゴクリと唾を飲み込み、真剣な眼差しをフローレス嬢に向けた。

「うん。そのイベントが終わってからふたりの距離はより一層縮まるから、ふたりが何だかいい雰囲気だと言う噂をレイラが耳にしてしまうんです。元々レイラはただの平民の小娘が聖女候補として、周りからチヤホヤされている事に苛立ちを感じていました。そんな中でその噂を耳にしたレイラは激怒します。可愛がっていたペットが自分の気に食わない女に盗られるのが悔しかったみたい」

「ワァ。お嬢様、ペットって」

「いやいや、私はそんな事思わないわよ!」

「ふふ。そうだね。でも乙女ゲームの中のレイラは違ったの。悪役令嬢のレイラは、ますますヒロインに対して嫌悪を抱いて、そのまま身勝手にもヒロインに毒を盛ってやろうと企てるの」

「……え?」

 予想外のフローレス嬢の言葉にレイラ様は思わず聞き返した。

 おっと、これはまさかの展開だ。


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...