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第三章 俺とおとめげーむの攻略対象達
39 シェフとの関係 ②
しおりを挟む「はぇ~!そんな事があったんですね」
フローレス嬢はそう言って、自分の右手を口元に当ててフムフムと頷いた。
結局、俺達はあの後すぐに店を出て、再びマルセイル領の市場を少しだけ散策してから別荘へと戻っていった。因みにマードゥン様はというと、お店に来る前の子犬系男子というヤツに戻っていて、レイラ様にベッタリだった。
とりあえずフローレス嬢と情報を共有したかった為、俺とレイラ様は別荘に帰るや否や、フローレス嬢をレイラ様の部屋へと呼び出した。そして、お店で起きた事やリースから聞いた話をフローレス嬢に全て話終え、今に至る。
「はぁ、そうなのよねぇ」
レイラ様は溜め息混じりに返事を返した。そんなレイラ様に対して、フローレス嬢は「うーん」と呟き口を開いた。
「ん~乙女ゲームでのマードゥン様は幼少期時代にそんな過去がある設定なんてなかったしなぁ」
「あ、やっぱりそうなんですね。じゃあ、おとめげーむとは違う行動をマードゥン様はとっているという訳ですか」
「あ、はい。そうなりますね。うーん。ゲームのマードゥン様と少し違う原因で、今、一番怪しいのは……まぁ、そのシェフですね。あの『和食 幸』とかいうお店もゲームでは登場しなかったですし……まぁでも、正直このまま放っておいても良さそうですけど」
「え」
「いやだって、レイラ。正直、マードゥン様とはこれ以上関わらない方がいいと思う。今回は……まぁ、海鮮丼についつい惹かれてここまでノコノコと来ちゃったけど……でもわざわざ、これ以上深入りする必要性はないと思う」
「う、うーん。そう……だよね」
フローレス嬢の言葉に、レイラ様は少しだけ目を逸らし俯きながら返事を返した。
フローレス嬢に視線を移すと、彼女はいつになく真剣な様子だった。恐らく危険な人物として認識しているマードゥン様と、これ以上レイラ様が関わる事に不安を感じているのだろう。彼女の意見には、俺も賛成だ。俺も正直、これ以上関わってほしくはない。それに個人的に目の前でイチャイチャされるのも、我慢の限界がきそうだ。
しかし、その反面でレイラ様の気持ちも少しだけ理解出来る。明らかに普段とは違ったあのマードゥン様の姿、それに「お願い致します」と言って頭を下げたリースの姿。それらを思い出すと、少し心が傷んだ。レイラ様も恐らく、そう思っているのだろう。
「……でも」
俺がそんな事を考えていると、レイラ様は俯いたままボソッと呟いた。そして、次の瞬間バッと顔を上げ口を開いた。
「でも、私、仲直りさせてあげたいの。マードゥン様とあのシェフって呼ばれている人を」
「レイラ……でも、分かってるの?マードゥン様は毒殺とか考えるようなサイコパスなんだよ?ゲーム通りに話が進まなくても腹黒なのは変わりないし、レイラにとって危ない奴かも知れないんだよ?」
フローレス嬢はレイラ様に訴え掛けた。
「うん、そうかも知れない。でもねお店で食べてる時のマードゥン様、凄く嬉しそうだったわ。本当にあのお店の料理が大好きなんだなって……そんなマードゥン様がゲームの『リオ』みたいに大事な料理を使って人を陥れようなんてしないと思うの。それに……もう関わっちゃってるもの。マードゥン様とあのお店の人達とも……放っておけないわ」
「それは……」
真剣な眼差しで話すレイラ様に対し、フローレス嬢は言葉を詰まらせた。そんな状況の中、俺は深く溜め息を漏らした。
「う……ノア?」
そんな俺に対し、レイラ様は俺の顔を伺うように声を掛けてきた。
「フローレス嬢、折れた方が賢明ですよ。だってお嬢様は誰が何を言ったって聞かないでしょう?」
俺は溜め息混じりにそう訊ねた。
「……うん」
レイラ様はそう言って、力強く頷いた。
まぁ、レイラ様ならそんな事を言い出すんだろうなぁとは思ってましたけどね。
本当、お人好しというかお節介というか……まぁ、この状態のレイラ様は何を言っても聞く耳を持たないであろう。なんせこの方、実は意外と頑固なのだ。しかも変なところで頑固なのだ。
「まぁ……でも、考えてみて下さい。もしも、あのおふたりが仲直りをすれば、おとめげーむとは違ってマードゥン様は本当に自分のやりたいことと向き合って更生するかもしれません。それにそちらに集中すれば、今みたいにお嬢様に対して、ベタベタ媚を売ってくるような行為もなくなるかも知れません」
俺はそう言ってフローレス嬢へと視線を移した。
「どうでしょうか?フローレス嬢」
俺がそう訊ねると、フローレス嬢は先程の俺みたいに深い溜め息を漏らして口を開いた。
「……仕方ないですね。折れますよ、私が」
フローレス嬢はそう言って、溜め息混じりに笑い掛けた。
「けど、どうします?明日には私達帰らないといけないですし」
「……そうなのよね、その辺はまだ考えないわ。でも、まずはあのお店のシェフと話してみないと」
「うーん、まぁ……でも、どうやって?」
「う……うーん……」
レイラ様は唸りながら頭を抱え始めた。俺はそんなレイラ様に「お嬢様」と声を掛けた。
「お嬢様ならきっと、あのおふたりを仲直りさせたいと言い出しかねないなぁと思いまして、実はもう一度だけ話ができるように明日の昼に店を予約しておいたんです」
俺はにっこりと微笑みながら、人差し指を立てて口元へと当てた。
「それに実はリースさんから、こっそり裏メニューを教えて貰いまして気になっていたんです。『たいめし』というご飯とその鯛めしを使った『おちゃづけ』?というメニューがあるようです。明日はそちらのメニューを出して頂けるよう手配致しました」
俺がそう言うと、レイラ様とフローレス嬢は目をパァ輝かせた。レイラ様に至っては、俺に手を合わせながら拝み始めていた。
「ノア、ナイスゥ~~!!!ありがとう~~~!流石ノア~~~!!」
「マーカス様、いつの間に……流石ですね!ありがとうございます。というか、鯛めしのお茶漬けなんて最高じゃないですか!」
「そうなんですね。私はやはり生の魚が乗っている海鮮丼は苦手だったので、こっそりリースさんが教えてくれたんですよ」
俺がそう言うとレイラ様は「よっし!」と言って、気合いを入れ自分の右拳を突き上げた。
「じゃあ、仲直り大作戦開始よー!待ってなさいっ!鯛めしぃー!」
「おー!鯛めしー!」
フローレス嬢はウキウキとした表情を浮かべながら、レイラ様と同じように右拳を突き上げた。
「……」
おいおい、本当に仲直りをさせる気あるんですか?なんだか不安になってきた。
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