この世界に2人ぼっち

えだ

文字の大きさ
12 / 22

第11話

しおりを挟む
 軽トラの後ろに発電機、米俵、簡易調理セット(鍋とかカセットコンロ等)、その他生活に必要なものを諸々バッグに入れて詰め込んだ。
 意気揚々と助手席に乗り込んだ私は、民家にあった女物のTシャツとジーンズ、合成樹脂でできた軽いサンダルという超ラフスタイルだ。元々着ていたオフィスカジュアルファッションは探検するのには不向きだったから新しく拵えさせて貰った。ちなみに蒼くんも黄色いアロハシャツとハーフパンツとサンダルだ。
 民家には夏の眩しい日差しを防ぐサングラスまであった。勿論2人とも装着し、荒廃した世界には似合わないパーリーピーポーの出来上がりである。

「いやー、楽しい!私楽しいよ蒼くん!」

「‥記憶ないのにこんな世界でよく楽しめるよね」

「そういう蒼くんだって、なんだかんだ楽しんでるでしょ?」

 なんとなくそんな気がする。なんか全然この世界に参ってないというか、すごい軽い感じというか‥。

「まぁ正直楽しいけど」

「やっぱり!!」

 イェーイ!と蒼くんにハイタッチを求めると蒼くんは軽トラを発進させながら左手でタッチに応えてくれた。

 秋田から神奈川までの地図はない。ナビもない。道路も所々陥没しているから軽トラで何処まで行けるかわからない。一体何日くらいかかるんだろう。本来なら高速使って1日で辿り着くんだろうけど‥高速乗れるのかな?ETCバーを無理矢理押し開いちゃえば行ける?でもそもそも信号もなんもないから下道も高速道路みたいなもんか、多分。

「俺ね、思うんだよね」

「なにを?」

「秋田にいる理由」

 蒼くんがハンドルに両手と顎を乗せながら言った。全開にしている窓からは生温かい風が入り込んでくる。

「え、理由あるの?」

「‥物事にはね、何事も理由があるんだよリカさん」

「あ、そういうのいらないから」

「‥‥お前食べたがってたんだよ、稲庭うどん」

 い、稲庭うどん!!確かに蒼くんの口から稲庭うどんというフレーズを聞いた途端に、私の脳内は稲庭うどんで埋め尽くされた。右も左も上も下も全て稲庭うどんだ。食べたい。

「‥‥私が稲庭うどん食べたいって願ったからここに飛ばされてきたの?」

 ブロロロロ、と軽トラのエンジン音だけが響く世界。そういえば夏だというのに蝉が鳴いてないな。

「‥いやわかんないけど、そうかもね」

「な、なにそれ‥超能力者じゃん!」

「は?」

「いや、こんな荒廃した世界だっていうのに、願い通り秋田に来たわけでしょ?ミラクルパワー通り越してるよね」

 あぁ‥やっぱり私と蒼くんは選ばれしヒーローなのかもしれない。だからこんな凄技が使えてしまうのかも‥
ーーは!!それなら『神奈川』に行きたいと念じたら瞬間移動するのでは?!
 両手を突き出して謎のハンドパワーポーズを取って念じてみる。だけど残念ながらどこにも飛ばされなかった。何故だ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...