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第4話 ロン、棘る
しおりを挟む帰りの馬車の中、ジェシーはサラについて話してくれた。
馬車に乗るなり昼休みの一幕を思い出した俺が「あいつら何なの」と述べたからである。
あの時俺がジェシーに釘付けになっている間に予鈴がなってしまった。サラはポニーテールの方の腕を掴んで「ふんっ!」と息巻いて去っていってしまい、ジェシーも「戻ろうか」と言って俺たちはそれぞれの教室に戻ったのだ。
「サラはね、ウィステリア公国からの留学生なの」
ウィステリア公国は俺たちの国であるリコリス王国の友好国だ。
確か今年はウィステリア公国の姫が入学するとか聞いていたけど。‥‥まさか、サラがその姫?そう考えるとあの態度も納得できないわけじゃないけど‥
「‥あいつはウィステリアの姫なわけ?」
「うん」
「‥‥すっごい嫌なやつだよあいつ」
「‥‥‥サラくらいだったの。気さくに話しかけてくれる人」
ジェシーが伏せ目がちに言う。
俺はいま珍獣扱いされて人が寄ってくる。たぶんみんなより頭ひとつ背が低いことや、年下だというハードルの低さも相まって近寄りやすいのかもしれない。
でもたぶんジェシーには近寄り難いんだと思う。まぁジェシーに対する周りの反応が通常の反応の筈だ。
この学校はみんな貴族の子どもたちだし、時間が経つにつれてすぐに打ち解けられるようになるんだろうけど。
「‥すぐにできるでしょ」
「え?」
「友だち」
あんなやつに執着する必要なんて全然ないんだし。
「ふふ、励ましてくれてるの?」
「‥全然」
ジェシーは小さく笑って、「ほんと可愛くない」と言った。
俺は口元に手を当てながら窓の外に目をやる。素直にジェシーを励ませたらどんなにいいかと思う。でも優しい言葉をかけたりはできないから、やっぱり陰からジェシーを支えるしかない。
サラみたいな奴がこれからもいっぱい現れるかもしれない。
サラがウィステリアの姫ってのは予想外だった。ウィステリアを無碍にはできないけど、向こうだってジェシーの家と俺の家を相手に騒ぎ立てられるわけでもない筈。だから問題になることはないだろうけど、やっぱり思い返すと腹が立つ。
そういえばサラは俺を紹介して欲しがってた。それを目的にジェシーに近づく奴が多くて、そのせいで今回みたいにジェシーが傷付くなら‥
俺は逃げたり無視するだけじゃなく、徹底的に拒絶しよう。珍獣扱いをして群がってくる奴らを、片っ端から遠ざけよう。俺への興味を絶たせるんだ。
そうすればきっと、今回みたいなことはなくなる筈だ。
次の日から俺は早速作戦を決行した。元々友だち作りをしたかったわけじゃない。ジェシーと離れたくなくてわざわざ飛び級したのに、俺のせいでジェシーが嫌な思いするなんてあってはいけないことだろ。
「きゃー!!ロンくぅん!!」
いつもはここでシュバババッと逃げていたが、今日は逃げなかった。俺を取り囲む女子たち。自分よりも大きいやつらに囲まれるとなかなかの迫力を感じるが臆してる場合ではない。
「きゃ!逃げないの?嬉しいー!」
「本当可愛い~!お目目宝石みたぁい!」
可愛いとか、お目目とか‥俺はお人形かなんかか?
「うるさい」
「えっ?」
俺のひとことに女子たちの目が丸まった。
「うるさいって言ってるの。毎日毎日飽きずに追いかけてきて、俺が迷惑してないとでも思ってた?」
「‥‥えっ、あの‥め、迷惑だった‥?」
女子のひとりが困惑気味にも返答してきた。俺は表情も変えず、声のトーンも変えず、素直な思いを伝えていく。そう、俺はジェシーに関すること以外ならぺらぺらと素直に話せるのだ。
「え、逆に迷惑じゃないと思ってたの?俺が喜んで逃げてるとでも思ってた?すごいね。人の顔色、もう少し読めるようになった方がいいよ」
「ご、ごめん、ロンくん‥私たち、全然気付かなくて‥!
私たちただロンくんとお友達になりたいだけなの‥!」
「鬼ごっこしたいだけのお友達なら他探してくれない?俺、君たちとお友達ごっこするつもりないし、できることならもう話しかけないでほしい」
「っ‥‥!!」
様々なひとたちに囲まれるたびにその都度伝えた。そうすると次の日には追いかけ回されなくなり、俺はやっと静かな休み時間を過ごせるようになった。
馬車の中でジェシーは真っ青な顔をして言った。
「ねぇ、ロン‥‥氷の王子とか毒吐きプリンスとか言われてるけど‥一体何をやらかしたの‥」
「別に。飛び級した分授業についていくのも大変だし、集中したかっただけ」
「ま、周りにひどいこととか言ってないよね‥?何かあった時に誰も助けてくれなかったら困るのはロンなんだよ?!」
「‥‥俺のこと珍獣扱いしてくる奴らなんて必要ないもん」
「私にロンのこと聞いてくる人も急速に減ったよ、本当びっくり‥」
それを聞いて、“よかった“と思う。
ジェシーが誰かに心を開くのは複雑だとも思ったけど、ジェシーは俺と違って友だちが欲しいから‥どうせならサラみたいな奴じゃなく、良い奴と仲良くなってほしい。
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