ツンデレ坊っちゃん物語(完)

えだ

文字の大きさ
7 / 26

第6話 ロン、学ぶ

しおりを挟む
 サラ達が帰った後、俺は腕を組んで唸った。何度考えても意味がわからない。

 大木の下で「歪んでいる」と言って以降、サラに歩み寄るような言葉なんて一言たりとも掛けていない。声を掛けられても適当に流すだけで、まともに関係を築いていなかったのに。
 いつの間にサラに好意を持たれていたんだ。それに何故俺がウィステリア公国の婿候補にされなきゃいけないんだ。

 公爵家の息子だし、そりゃあもちろん若いうちに婚約者を決めたりしなきゃいけないんだろうけど‥もうずっと前から俺にはジェシーしかいないんだよ。ジェシーしか考えられない。

 家柄的にも問題ないし、きっと母も叔母さんも大喜びだし、俺だって超大喜びだし、それでいいじゃないか。

 ‥‥‥‥ジェシーは、喜んでくれるかは分からないけど‥。でもいつか、その時までには何とか振り向かせるし。ジェシーの可愛さに慣れて、ツンツンしないで話せるようになってる筈だし。

 だから、俺はサラを断固拒否しなきゃダメなの。

「俺、婿なんていかないからね」

「そんなの当たり前じゃない。貴方はドレイパー家の跡取りなのよ。‥‥‥まぁ、一国の次期君主として迎え入れられるのも悪くない話ではあるわね。ジュリアのところの三男坊あたりをうちの養子にすれば、まぁ何の支障もないわ。‥‥って、冗談に決まってるじゃないの。顔が真っ青よ」

 母は扇子で口元を隠しながら俺を見て愉快そうに笑っている。恐らく本当に冗談なんだろうけど、正直全く笑えない。貴族に恋愛結婚なんて望めないけど、は家柄的にも環境的にも認められるべきだと思うんだけど?!
 ーーふぅ、仕方ない。ここは少しやんわりと、と伝えないと。
 絶対に後悔だけはしたくないから‥‥!!


「ーーお、お、俺、もう、心に決めた人がいるから!」

 あぁぁぁぁあ、手汗がすごい。動悸もすごい。火照りがやばい。突然吹き出した汗のせいで金色の前髪が額にくっ付く。こんな一言だけでここまで乱れてしまうなんて、一体全体どういうことだ。‥あ、でもこれじゃあ心に決めた相手がジェシーだとは伝わらないか‥!あぁ、でも、今これ以上は言えない!喉まで出かかってるけど、喉の奥で「ジェシーだ!」という台詞が両手両足を広げて意地でも飛び出すものかと引っかかっている。

「へぇ?‥フッ‥‥そうなの。‥まだ‥10歳なのに‥‥フフッ‥オマセさんね。‥相手はどこの‥ブフッ‥どんなご令嬢かしら?」

 何故か途中で吹き出しそうになりながら母はそう言った。扇子で口元を隠していた筈なのに、言い終える頃には顔全体を隠していた。
 母はスーザンと一緒になって「ジェシーのこと好きなんでしょ?」と弄ってきたことはあったけど、それももう数年前。まさかまだジェシーのことを好いているとは思っていないだろうし、俺も態度には微塵も出していないつもりだから、母は気づいていない筈だ。
 だから伝えなきゃ伝わらないのに‥恥ずかしくて伝えられない!

「こ、こ、」

「‥こ?」

「こう、公爵家の」

「まぁ!ブフッ、公爵家の方なの?」

 母の肩は細かく揺れているが、俺はそれどころではなかった。公爵家は数少ない。正直俺が交流してる公爵家なんてジェシーの家しかない。そんなのジェシーだと言っているようなもんじゃないか。って、違う。それが正解なんだよ。俺が好きなのはジェシーだって、伝えるんだから。

「こ、公爵家クラスな感じの」

「え?」

「だから、まぁ、同格くらい、うちと」

 違う違う違う。公爵家。公爵家クラスとかじゃなくて、公爵家!

「‥‥‥まぁいいわ、公爵家クラスということにしておきましょう。それで、どんなご令嬢なの?」

「っ、か、かわっ」

「まぁ。可愛い子なの?」

「ち、違う!」

「え?」

「か、可愛くも見えなくもない感じ!!」

「‥‥‥そう‥それで?」

「や、優しい感じもしないでもないし、健気な感じもしないでもない!!ど、どんくさいけど、真っ直ぐな感じもしないでもない!!!」

 真っ赤になりながら半ば叫び気味に言い切ったことで、何故か俺は「言ってやった‥!」と満足していた。伝わったと思い込んでいたのだ。

「本当誰に似たのかしら‥」

 母はやれやれと部屋を去っていき、その去り際にスーザンが俺の前で立ち止まった。

「‥ロン様。公爵家クラスのお家柄で、可愛く見えなくもなくて、優しい感じも健気な感じも真っ直ぐな感じもしないでもない、と。その方がロン様の想い人なのですか?」

「え?うん」

「それは‥‥サラ様のことでしょうか?」

「はぁ?!」

「違いましたか?ロン様の仰った条件に合致すると思いますが」

 俺はサーッと血の気が引いていくのが分かった。言った気になっただけで、もしかして何ひとつ伝わってない?!

「違う!俺は、」

「‥それ程までに想っている方ならば、ここぞという時には素直にならないといけませんよ。伝わるものも伝わりませんから」

 スーザンはそう言って小さく笑った後、母の後を追うようにして部屋を出て行った。


 ーーーアリーの自室にて。

「あ~お腹痛い!見た?!あの真剣な顔。ーー俺、もう、心に決めた人がいるから!!(キリッ)‥だって‥ブフッ、あぁぁなんて可愛いのかしら」

「10歳にしては少々愛が重いのでは」

「まぁ、ジェシーはジュリアに似てぽわぽわしてるところもあるから大丈夫よ、きっと。たぶんロンの重い部分に気付かないんじゃないかしら」

「‥確かにそれはあり得ますね。まぁある意味お似合いと言うべきでしょうか」

「そうね!はぁぁ。笑い堪えすぎてお腹が捩れるかと思ったわ」

 ーーロンが真剣に言葉の重要性について考え込んでいた間、アリーとスーザンは愛息子の成長を喜んでいたのだった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...