ある王族のはなし

及川雨音

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ユイト編

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 ベットに寝そべっているその姿を見て僕の顔は緩んだ。

「おつかれ」

 レイの美声が疲れを癒してくれる。

 「ミルトは寝たかい?」
 「ぐっすりだ」

 六歳の息子はあのぽんぽんの誘惑に勝てなかったらしい。確かにあれはすぐ眠くなる。

 「じゃあ今レイは僕だけのものだ」

 そのもふもふのおなかに顔をうずめた。
 スーハースーハー匂いをかいで肺をレイでいっぱいにする。
 レイのフェロモンに頭がクラクラする。
 僕は完全にレイに酔っている。

 「レイは麻薬みたいだね」
 「したことあんのか」
 「ふふ、例えだよ、例え」

 気を抜けば今にもレイにぶち込んでしまいそうだ。
 着ていたものを脱いでレイの隣に横たわる。
 頭からしっぽまでゆったりと撫でて愛でる。
 ふるふる、とレイが震えた。

 「気持ちいい?」
 「ああ……イイ」

 レイのイイところはすでに把握済みだ。
 耳もしっぽもくたりとしている。
 目はとろんとこちらを見ていてまるで誘惑されているかのようだ。

 「レイ、このままされるのと人とどっちがいい?」
 「これ以上変な性癖増やすな」
 「父さんにはそのまま犯されたこともあったのに」
 「お前らは父親の変なとこばっかマネすんだから」

 しっぽでぺしんと叩かれた。可愛い。

 「……しょうがないよ、レイを愛しているんだから」

 レイの上に乗りマウントをとる。

 「だからレイのすべてを知りたいんだ。他の人間が、たとえこの世にもういない人であっても知っていたことを俺が知らないことが許せないんだ」

 ちゅぷ、とレイの毛に隠されている秘所に指を入れる。

 排泄とは違う、穴。

 「だからいいでしょう……お母さん」

 あれは、そう。まだ子供で夜中に目が覚めて寂しくてレイを探しに行ったとき。

 父さんとレイのセックスを見た。

 父さんは女の部分に入れていた。
 僕はそれまでレイが両性具有だと気づかなかった。
 そしてそうだと知ったときに悟ったのだ。

 僕は父さんがレイに産ませた子だ、と。

 だって僕ならレイが子を産める体なら当然自分の子を孕ますだろうから。
 考えることは皆一緒だ。血のつながりは恐ろしい。

 この王族は代々、近親相姦を繰り返してきた。

 僕も王になってレイを抱いてミルトを産ませた。
 もうそろそろ息子も自分の血の秘密に気づくだろう。
 そして王になったら代々そうしてきたように禁忌など気にせずレイを抱くだろう。
 母親だろうがなんだろうがレイはレイだからだ。

 二回目は人化したレイを抱いた。
 男の部分をしゃぶると、たまらないのか太ももで頭を挟まれた。
 それがもっとと強請っているようで強く吸い上げイかせた。
 ハァハァとレイの胸が上下している。
 乳首がビンビンにたっていてつん、とつつくと体をしならせた。

 「母乳はさすがにもう出ないよね」

 昼間したみたいにちゅーっと吸ってみる。
 ミルトを産んだ時、母乳を与えていたので僕も便乗して飲んでみた。乳児の頃など覚えてるはずはなかったが懐かしいと感じた。
 やはり当たり前だが出なかったので、自分のものをしごいて胸にぶっかけた。
 あの時も胸を揉んだらミルクまみれになったので見た目は同じだ。
 白濁まみれのレイはエロティックでよく似合う。
 皮膚に吸収されればいいのにと馴染ませるように肌に広げた。

 レイは僕の好きにさせてくれながら気だるげに煙草を手に取った。
 昔は吸うときは傍にいさせてもらえなかった。
 自分の知らない姿があるなんて嫌で煙を吸っても大丈夫だとアピールするために葉巻を嗜むようになった。するとこうして目の前で煙草を吸ってくれるようになった。
 ミルトも不満のようで、大きくなったら吸うようになるだろう。

 淫靡な匂いを打ち消すように紫煙が漂う。

 レイが纏っている香り。それだけでひどく愛しい。

 この国に煙草はない。
 煙草は魔族の嗜好品だからだ。
 レイはいつもどこからか出している。

 「おいしい?」

 満足そうに煙草を吹かしている姿が様になっていてカッコいい。

 「うまくもないが昔からのクセでまぁ習慣みたいなもんかな」

 ふぅーっとレイの肺から出た煙を全部吸いこんでしまいたい。
 臓器の中に入れるなんて気に食わない。
 でも僕のほうが勝っている。なんたって子宮にいたのだから。
 優越感で機嫌が戻った僕はレイにキスした。

 「ねえ、久しぶりに話を聞かせて」

 ちゅ、ちゅ、と口づけながら強請る。

 最近忙しくて聞けていなかった。

 「お前にはどこまでだっけ」

 にはってことはやはりミルトもレイの過去を聞き出しているんだな。

 父さんもそうだった。
 死の間際までレイのすべてを知ろうと足掻いていた。
 もう手の施しようがなくなったとき、最後の力で部屋に結界を張って内外出入りできないようにした。
 そしてレイを監禁してふたりっきりの最後の蜜月を過ごしたのだ。
 結界が消滅して父さんが亡くなったことを知った。今思えばレイくらい強い魔力の持ち主なら結界を破ることは容易かっただろう。
 あれはレイの父さんへの最後の甘やかしだったのだ。

 「弟さんに襲われたところ」
 「そのあと妊娠した。俺の子を産んでくれってしつこいから」
 「産んだ?」
 「ああ。それから何人も産んだ」

 妊娠するかはセックスの回数に関係なくレイの意思で決まる。
 王の座を巡って戦争になること必須なので僕らは一人しか跡継ぎを残さない。

 「そんで成長したらこぞって子供を産んでくれって迫ってきた」
 「ふふ、そうだろうね」
 「産んでもよかったが誰が先に産んでもらうかで戦争になりかけた。アホかこいつらって思った。しかも弟も立候補しやがるし。軍事力桁違いなのに大人げないわ、あいつ」

 まあそうなるよね。当然の結果だと思う。

 「さすがに戦争はマズイから落ち着いてもらうために姿を消した。目の前から消えれば正気に戻るかと思って」
 「うん、逆効果だね」

 そのおかげで今があるからいいんだけど。

 「はは、血眼になって探してるだろうね」
 「どうだろうな。あれからずいぶん経ってるし」

 レイは自分の魅力に無自覚だ。
 永遠に地の果てまでだって探すに決まってるのに気づかない。

 「どこに行こうかと考えた時、ふとこの国を思い出した。お忍びで一回遊びに来たことがあったんだ。そん時に一人の子供に懐かれてな。帰ろうとしても泣きじゃくって足にしがみついて離れなかったんだ。どんな大人になってるかな~って会いに行ったら王になってた。しかも権力使って長年俺のこと探してたらしい。忘れてると思ってたんだけどな」

 こんなに強烈な存在を忘れられるはずがない。

 「まあそこからまた色々あった。そいつの息子に犯されかけたり王妃に殺されかけたり。でももう眠いからおしまい」

 くあ、とレイがあくびする。

 聞けば聞くほどレイの魔性さを思い知らされる。
 そして不安になる。

 どこにも行かないよね。

 傍にいてくれるよね。

 僕は無力だ。
 どんなに偉くてもレイの気持ちには干渉できない。
 レイ次第なのだ。

 「レイ、レイ、れい……」

 涙が溢れてくる。
 何十年生きてきてもレイの前では幼子のようになってしまう。
 レイを強く抱きしめる。
 自分の放ったものがべたりと付いたが気にならなかった。

 まるで母親に縋る子どもだ。その通りなのだけど。

 「どこにも行かないで。傍にいて。俺を看取って。死ぬまで愛させて」

 必死に懇願する僕をレイが頭を優しく撫でてくれる。

 「はぁ……んで同じことを……」

 レイが何事かを呟いた。僕には聞こえなかった。
 嗚咽が部屋に響く。
 涙が止まらない。
 頬に伝う涙をレイが舐めとってくれる。

 暖かい、舌。

 目を開けると間近のレイと目が合う。

 この瞳だ。

 魅せられて魅せられて、ずっと焦がれ続けている、今も。

 「愛してる、レイ」

 愛してるんだ。誰よりも。何よりも。
 言葉だけでは伝えきれない想い。

 「わかったから……もう寝ろ」

 しっぽでぽんぽんしてくる。
 昔に戻ったみたいだ。

 「ずるいよ……」

 それではすぐ眠ってしまう。
 まだ起きてたい。

 レイを感じていたい。

 「おやすみ、ユイト」
 「……おやすみ、レイ」


 眠りにおちる寸前、お前が死ぬまで傍にいると聞こえた気がした。




 ユイト編おわり
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