50 / 51
50話 バルナ村
しおりを挟む俺たちの目的には商業都市ヴァルメリアと言うところだ。
距離でいえば聖なる源と俺たちが出発した廃村のちょうど半分くらいだ。
ここは聖なる源のすぐそばにある王都とほかの街を繋ぐ位置にあるため様々な品物が集められている、なのでここを探せば十中八九エリクサーの材料もあるだろうとの事だ。
地図などを見て旅の経路を考えたりしていたが、どうやら人族の街を通らないルートだとかなりの時間がかかってしまうみたいだった。
街から街へと向かう道はある程度整備されたりしているが、それ以外となるとかなり道が悪かったりもするのだ。
…………しかも、一番の近道となるルートはロイの領地を通る場所となってしまうようだ。
そのルートを通ればだいたい1週間ほどで着くことが、そこを迂回していけばその倍の2週間はかかってしまう。
さらに人族の街を全て迂回して行こうとすれば更に時間がかかってしまう。
俺達は2人とも子供にしては明らかにおかしい程の身体能力を持っているが、それでも無理なものは無理なのだ。
そうして2人で相談した結果、多少人族の街を経由するルートを選ぶ事にした。
もちろん、ロイの街は完全に迂回した上でのルートである。
レインをひとりで放置しておくというのはかなりリスキーな事なので、その時間は少しでも減らしておきたい。
その為にはできるだけ急ぐ必要がある。
俺達は足早に歩みを進めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数日歩くと、やがて土の街道が見えてくる。
遠くには小さな街の影があった。
地図によれば、あれは『バルナ村』という村らしい。ヴァルメリアまでの中継地として有名な場所だ。
「んー、ここも一応ヴァルメリア程じゃ無いけど商品が集まったりするみたいだし、一応確認していく?」
「……リリンが良いなら私は構わないよ」
リリンは元気な様子は見せてくれているが、それでもやはりまだトラウマは消えていないだろう。
その証拠にバルナ村へ近づくにつれてリリンの表情が暗くなっていくのを感じていた。
「ねぇ、思ったんだけどさ、本当にこのフードだけで隠せるかなぁ?」
森の道を歩きながら、リリンがぽつりと不安そうに呟いた。
「正直、バレる可能性は高いと思うよ、けど……」
俺はリリンが被っているフードを更に深く被らせる
「何かあったら私が助けるよ、最悪、私達なら走れば逃げるくらいは出来ると思うしね」
「ふふっ……そうだね、僕達2人なら大丈夫だよね!」
お互いに少しだけ笑ってから、俺たちは街道を進み、徐々に近づいてくる村の門を見据えた。
けれど、俺の中には小さな不安があった。
(……人族の中に、ロイの手の者がいなければいいけどな)
ロイという領主がどれほどの力を持っているかというのはぶっちゃけそこまでよくわかっていない。
俺たちが元々居た廃村にある本にはそこまでの詳しい事は書いていなかった。
リリンの記憶の中から推測するしかないが、少なくともロイは多少の空間転移能力などを持っていることなどは確認できる。
となると、こういった場所に現れる可能性だって十分に有り得る。
もしそんなことがあった時には…………俺が絶対にリリンを守る。
内心そんなことを考えながら、俺たちはバルナ村の門をくぐった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
バルナ村に入ると、昼間ということもあり、村の中心には露店が立ち並び、多くの人で賑わっていた。
行商人が声を張り上げ、子供たちが笑いながら走り回っている。
リリンはフードを深く被り、俺の袖をぎゅっと掴んでいる。
「……人族が、いっぱいいるね……」
「…………大丈夫、なるべく目立たないように行動しよう」
俺たちは目立たないように行動しつつ、行商人に声をかけてみることにした。
「……あの人に聞いてみよう」
リリンが指差したのは、年配の行商人だった。
その屋台には瓶詰めの薬や乾燥した草がずらりと並べられている。
「こんにちは!」
「おぉ、いらっしゃい。どうした?」
リリンが元気に挨拶をする。
「エリクサーを作るための材料を探しているんです、扱ってませんか?」
「エリクサー?……珍しいもんを探してるな、お使いか何かかい? 素材の一部なら、あるにはあるが……」
そう言って男は後ろから小さな木箱を取り出し、俺たちに見せた。
中には、数枚の乾燥した葉と、赤黒い粉末が入った小袋が入っている。
「これが『聖薬草の葉』と『黒樹の粉』だ、この前まではもうちょっとあったんだが…………」
行商人は忌々しそうに顔を顰める。
「最近、村の外れに盗賊が出てな……そいつらが行商人の荷を狙っている。俺の仕入れたばかりの荷も、昨日やられた」
「盗賊……」
ここで済ませられればそれで良かったのだが、仕方がない。
「それで……金はあるのかい? 」
行商人は少し疑うように俺達のことを見定める。
すると、リリンが少しムッとして懐から1枚の硬貨を取り出した。
「これで文句ないでしょっ!」
「っ!? リ、リリン、一旦しまって」
キョトンとするリリン。
こんな公衆の面前でそんな行動とってしまったら危ないだろう………。
リリンもそれに気がついたのか慌てて硬貨をしまう。
「…………ふむ、すまなかった、ちょっと待っててくれ、お釣りを用意してくる」
行商人は奥の方へと行き、そして直ぐに戻ってくる。
リリンは行商人に白金貨を一枚渡し、その代わりに麻袋のようなものをひとつ受け取る。
「ほら、気をつけて帰れよ」
行商人はホクホク顔でまた奥へと引っ込んでいった。
これで少しは目標に近づいたな。
そう思い喜んでいると、不意にリリンが俺の袖を引っ張った。
「…………ネムちゃん、あの人たち、さっきからずっとこっち見てる」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
おじさんと戦艦少女
とき
SF
副官の少女ネリーは15歳。艦長のダリルはダブルスコアだった。 戦争のない平和な世界、彼女は大の戦艦好きで、わざわざ戦艦乗りに志願したのだ。 だが彼女が配属になったその日、起こるはずのない戦争が勃発する。 戦争を知らない彼女たちは生き延びることができるのか……?
妻が家出したので、子育てしながらカフェを始めることにした
夏間木リョウ
ライト文芸
植物の聲を聞ける御園生秀治とその娘の莉々子。妻と三人で平和に暮らしていたものの、ある日突然妻の雪乃が部屋を出ていってしまう。子育てと仕事の両立に困った秀治は、叔父の有麻の元を頼るが……
日常ミステリ×ほんのりファンタジーです。
小説家になろう様でも連載中。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる