追放された時間魔術師による独裁国家建国青図

黒飛清兎

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1話

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『スキル至上主義』


 これは僕が住む国、が掲げているものだ。

  スキル至上主義は有能なスキルを持つものが大多数の人間からの迫害によってその力を発揮出来ずに埋もれてしまうという事を防ぐ為に初代国王が作ったものだった。

  そのお陰か、我が王国は他国と比べ強力なスキルを持つものが多い。

  スキルは親から子へとある程度継承されるものな為、弱いスキルを持つものが淘汰され、強いスキルを持つものが子を成すという事が起こった結果だろう。

  確かにそれによってこの王国は非常に発展した。

  世界最強の魔術師も、世界一の建築士も、百戦錬磨の武将も全てうちの国が抱えている。


 非の打ち所が無い完璧なシステム。

  そう評価する人物も居るくらいだ。


「…………けど、この国は美しくないな。」


  俺はこの国から追放されるその瞬間、そう呟いた。

  その声は俺を拘束している屈強な兵士に届いてしまったのか、俺を縛り付けていた拘束具が更にきつく締められ、肺から空気が漏れる感覚に陥る。

  確かに、このシステムは非常に合理的だ。

  しかし、現在ではそのシステムは強者の都合のいい様に更に改変され、強者が迫害されないようにする為のものでは無く、弱者を迫害する為のものに変わってしまっていた。

  僕は兵士に連れられ、我が国の最東端に来た。
 
  我が国を守る最後の関門である防壁にはその威光に少しでもしがみつこうとする弱者達の姿が見えた。

  弱者だとしても働ける場所はいくらでもある。

  農業をすれば少なくとも生きていけるだけの金銭は稼げるし、運搬業や清掃業など、人がいくら居ても良いような仕事は腐るほどある。

  しかし、この国の弱者達はそれをしない。

  幼少期から弱者として迫害され続け、お前は無能だと周りの人から罵られ続けた者達は働く気力も、生きる気力も失ってしまい、ただその日を怠惰に過ごす為に強者からの慈悲を求めてここに集っているのだ。

  そんな歪んだシステムを当たり前と思い生きている人間の事を僕は心底軽蔑視していた。

  しかし、そんな僕を迎えるのは僕よりも更に冷たいルール王国民からの軽蔑の目だった。

  僕がそんな目で見られている理由は、ただ一つだ。

  それは、からだ。


  16年前、僕はこの国の王子としてこの世に産まれた。

  ルール=ミーシュハベルと名ずけられた僕は史上最強と謳われるスキル『時間停止』を持ったルール王国国王ルール=アルフと聖女であったルール=フェリスの息子として、最強を約束された神童とまで言われていた。

  しかし、現実はそう甘くはなかった。

  僕が獲得したスキルは未だ前例のないスキル『時間操作』
であった。

  当初は皆、僕のスキルがどんなものか分からなかったため、どういう扱いをしたらいいのか困っていたが、あの親から産まれた子だからきっと物凄いスキルなのだろうと思われていた。

  しかし、僕の物心がつき始めた頃から状況は一変した。

  僕のスキル『時間操作』はアルフ王のスキル『時間停止』の下位互換のようなスキルだということが判明したのだ。

  僕の物心がつくと早速僕のスキルがどんな物なのか調べ始めた。


 そのスキルの内容とは、と言ったものだった。

  それだけならまだアルフ王の下位互換ではあるが、まだ有用ではあった。

  しかし、僕のスキルには他にも欠点がいくつかあった。

  1つは魔力消費の多さだ。

  時間操作の効果はアルフ王の時間停止よりも弱い効果であるにも関わらず、アルフ王の時間停止よりも魔力消費が多かったのだ。

  そのため、アルフ王がスキルを使える最大時間である24時間に対して、僕は魔力の総量もまだ少ないため、1分程度しか効果を持続させることが出来なかった。

  魔力総量と回復速度をあげればまだ使えるようになるかもしれないが、この速度では一生かけてでもまともに使う事は出来ないだろう。

  もう1つは効果範囲の狭さと効果の弱さだ。

  アルフ王の時間停止の範囲は自分以外の全てという広大な範囲だったが、僕の時間操作は範囲を広げれば広げるほど効果が落ちてしまい、自分の周りだけに範囲を限定してやっと周りの速度を2分の1から2倍まで操作出来るというものだった。

  時間を2倍にしても2分の1にしてもその範囲だけでは何も出来ない。

  人々は皆、その結果に落胆した。

  当時無垢に父の背中を追っていた僕は人々の落胆に気付きながらも、それでも懸命に時間操作を使えるスキルにしようと励んだ。

  しかし、弱いスキルを獲得した俺はそれすらも許されなかった。

  一応王子であったため、最低限の衣食住は提供されたが、少しでもスキルの練習をしていると従者や家族から殴られたり、罵られたりし、少しでもスキルを有用にしようという試みすら出来なかった。

  そして、16歳になったある日、僕は父にある頼み事をする事にした。

  父は僕に失望していたのか、殆ど話した記憶は無い。

  僕はそんな父に僕怯えていたが、それよりもこのまま何も出来ないまま、まま過ごすことの方がもっと怖かった。

  だから僕は誰の邪魔も入らない場所で修行をしたいと考えたのだ。

  意を決して僕は父の部屋の眩しい程に煌びやかな装飾があしらわれた重厚感のある扉をノックした。


「…………誰だ。」

「…………ミーシュハベルです。面会の許可を貰いに来ました。」
 

 僕は、その扉に相応しい音色を奏でる父の声に少々怯えながらも、恐る恐る声を上げた。

 しかし、父は僕の声を聞くと扉の外にいる僕にも聞こえる程の大きな声で深くため息をついた。

 そして、さっきよりもさらに重々しい声が発される。


「…………お前に用など無い。大人しくしていろ。」


 父は僕を冷たく追い払うような態度で僕にそう言い放った。

 そんな態度に僕は酷く萎縮してしまうが、それでも諦めずに声を上げ続ける。


「お願いします! 1度だけでいいのでお話をさせてください!」


 僕は物心着いて初めて父に対して大声をあげた。

 暫しの沈黙が流れる。

 冷たい感触が額を伝っていった。
 
 今にも逃げ出したい感覚に陥るがグッと堪えていると、扉の奥から何かを呟く声が聞こえた。

 僕にはなんと言っていたのかは聞き取れなかったが、少なくとも前向きな検討をして貰えていないことはその声色で何となく察してしまった。

 僕は絶望した。

 このままでは僕はこんな世の中で能力を発揮出来ないまま潰されてしまう。

 そう思うだけで吐き気を催す程の嫌悪が身を包んだ。

 しかし、そんな僕の感情とは打って変わって扉の奥からは軽快な笑い声が聞こえてきた。


「いいだろう、聞くだけ聞いてやろう、ただ、くだらん内容だったらわかってるな…………?」

「っ! も、もちろんです!」


  僕は歓喜した。

  僕の話をまともに聞いてくれるなんて何年ぶりだろうか。

  この機会を逃せば次に聞いて貰えるのは何年後になるか分からない。

  もう一生聞いて貰えないなんていう可能性だってある。

  だからこそ僕は全身全霊をかけて父に話した。

  父は僕の話を相槌ひとつうたずにただ黙って聞いているようだった。

  その沈黙が酷く攻撃的な音律を奏でているようにさえ感じてしまうほどの緊張が身を包む。

  それでも僕は僕の伝えたい事を言い切った。

  

  

  
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