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4話
しおりを挟む吐き気がし、お腹が痛い。
とにかく体調が悪い。
このままだと確実に動けなくなる。
そこまでなってしまえば流石に生かすためにちゃんとした食事を与えられるかもしれないが、その確率よりもそのまま放置して殺される可能性も高いだろう。
僕の父としてもそちらの方が都合がいいことだろう。
だからこそ、僕はここから逃げ出すことを決意した。
決行の時は次の食事を与えられる時だ。
僕は牢の中で静かに横たわりながら、牢の隙間から外の動きをうかがっていた。
時間が経ち、鉄の扉が開く音がし、兵士が入ってきた。
兵士は嘲笑うような視線を向けながら、よく分からない虫のようなものをを僕に渡そうとしてきた。
「さっきそこら辺で死んでた虫だ、まぁ、虫は美味いっていうやつもいるし、いつものやつよりかはいいんじゃないか?」
兵士は下品に笑いながらそういった。
兵士がそのよく分からない虫を牢の中に投げ入れ、僕の目の前に落ちた瞬間、僕は冷静に兵士の動きを観察した。
僕が兵士を無視していると、兵士は舌打ちをし、牢の鍵を持ち、鍵を閉める準備をしていた。
脱出のチャンスは今しかない。
僕はすぐさまスキル『時間操作』を発動し、僕の時間を早くした。
こうすることによって結果的に兵士の動きが遅くなる。
更に兵士の時間を時間操作を使い遅くする事で更に兵士の動きは鈍化した。
僕は静かに立ち上がり、兵士がこの部屋から出ようとしている間に、牢の扉の近くに近づいた。
兵士はまだ僕が逃げ出そうとしていることに気がついていない。
僕はこのチャンスを逃すまいと兵士の真後ろに忍び寄った。
そして、兵士が牢から出た瞬間、僕も一緒に牢から出た。
当然普通に出るだけではバレてしまい、また殴られて牢に放り込まれるだけだ。
だが、それは兵士もわかっているはずだ。
だからこそ、身体能力の低い僕がそんなことをするはずがない、そう思い込んでしまうはずだ。
僕はそこを狙う事にした。
兵士と共に牢から出ることに成功した瞬間、そのまま兵士の横をぬってそのまま走り出した。
「はあぁぁぁっっっ!?」
かなりゆっくりになった兵士の驚きの声が聞こえる。
作戦は成功したみたいだ。
僕の時間操作のお陰で兵士の速度は遅くなっている。
このまま逃げ続ければここから逃げ出すことだってできるはずだ!
僕は脇目も振らず無様に逃げ続けた。
洞窟の中は薄暗かったが、ずっと洞窟の中にいた僕はその暗さにある程度慣れている。
だからこの程度で僕の足は遅くなったりはしない。
最高速度で洞窟内を走り抜け、遂には洞窟の入口の場所を知らさんとばかりに輝く太陽の光が僕の目に入ってきた。
その希望の光に僕は涙が出るような思いだった。
僕はそれでも油断せず、走り続け洞窟から脱出する…………はずだった。
次の瞬間に僕の頭に飛び込んできたのは感じた事の無いほどの痛みだ。
背中の部分が焼けるかのような激しい痛みが僕を襲った。
慌てて背中をまさぐると、次の瞬間背中を探っていた手にも激しい痛みが生じた。
どうやら手が切れてしまったみたいだ。
僕はその痛みのおかげで今どのような状態になっているか理解した。
どうやら僕の背中には刃物のようなものが刺さってしまっているようだ。
しかし何故?
僕はハッとして振り向いた。
すると、そこにはニヤリと笑みを浮かべる兵士の姿があった。
くそっ!? ここまでスキルをフル活用しているのにもかかわらずまだ振り切ることすらできないのか!?
僕は深い絶望と共にそれを上回る程の怒りと悔しみを感じた。
それらが絶対に逃げ切ってやるという固い決意に繋がった。
僕は痛む背中を無視してそのまま走り始めた。
兵士が追いかけてきているかなど関係ない。
僕はただ逃げるだけだ。
体から血の気が引いていくのを感じつつ僕は走り続けた。
木々を避け、靴を履いていない足がどんどんと血まみれになっていくのを気にもかけずに走り続けた。
僕はこの命が続く限り走り続ける覚悟を持っていた。
しかし、その覚悟は自分以外の要因によって打ち砕かれる。
森の中を駆け抜け、足の感覚が無くなってきた頃、僕の視界が一気に開けた。
「っ!? 崖だって!?」
僕は森の中を駆け抜けた末、どうやら崖の所まで来てしまっていたようだ。
慌てて後ろを振り向くもそこには僕の事を追いかけてきた兵士が迫っている。
僕が崖の前で立ち止まることしかできなくなっていることを悟ってか、兵士の顔には笑みが浮かんでいた。
僕は究極の選択を迫られていた。
兵士に捕まって殺されるか、このまま崖から飛び降りて殺されるか。
まぁ、答えは決まっているだろう。
俺は兵士に向かって不敵な笑みを浮かべて叫んだ。
「お前ら全員、末代まで呪い殺してやるからな! 特にお前だ!」
僕はそう叫んで今まで使っていたスキルを反転させた。
僕の周りの時間を早くし、僕自体の時間を遅くした。
そうして僕は崖から飛び降りた。
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