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第一章
第二十話 信じたい事
賑やかな人混みの中を、カラカラと車輪を弾ませて走る馬車。引いているのは純白の美しい馬と、それを操る見目麗しい茶髪の男。周囲の人間はその馬車を見てはコソコソと耳打ちしていた。
(かなり目立つな)
分かってはいたが、やはり注目の的である。茜鶴覇は気付いていないのか、はたまたどうでもいいのか、現実離れした顔を惜しみもなく窓の外へ向けていた。女共を殺すつもりなのだろうか。ある意味迷惑な顔である。
(冗談はさておき)
薫子は気になっていた事を聞いてみる事にした。正直これを人間風情に教える必要は無いのだろうが、訊ねるくらいなら許してくれるかもしれない。薫子は思い切って話を切り出した。
「…先程の女性は、一体何者なのでしょうか」
薫子は蛇歌と名乗った妖艶な女を思いだす。外を眺めていた茜鶴覇は、長い睫毛を伏せた。しんと水を打ったように静まる車内。人々の喧噪と車輪が回る音がただひたすらに流れていく。
(聞かない方が良かったかもしれない)
重苦しくなった空気に耐え切れず、謝罪を入れようとしたその時、ゆっくりと茜鶴覇が口を開いた。
「彼女は、堕神だ」
「堕神…というのは、悪の道に堕ちた神様の事で間違いありませんか」
現世で故意に災害を引き起こしたり、極悪非道な行いをして道を外れた神。それらの事を総じて堕神と呼ぶ。遥か昔から言い伝えられている話だ。実際に居るのかどうか知らなかったが、その伝説がある事だけは神央国の誰もが知っている。幼い子供には「悪い事をしたら堕神様が来て、連れて行かれてしまうよ」と冗談交じりにしつける程だ。
(まさか、本当に実在するとは)
しかし何故その堕神と茜鶴覇がこうして面会し、繋がりを持っているのだろうか。彼女がどの程度の罪を犯したのかは分からないが、神とて不死身ではない。見た目は変わらずとも確実に衰え老化し、気が遠くなる程の長い生の果てに輪廻へ還るという。
つまり明確な終わりが存在する以上、他者が強制的にその生を終わらせる事だってできたはずだ。堕神になるほどの罪を犯したのに、死罪にならなかったのだろうか。
(…悪い人には見えなかったんだけどな)
むしろ蛇歌の目は、茜鶴覇にも薫子にも分け隔てなく深い愛情が映っていた。死罪にならないのであれば薫子としては嬉しい限りだが、その辺りの詳しい事情を知る術は無い。
茜鶴覇は再び静まる馬車に揺られ、何も応えず薫子と目を合わせた。そして衝撃の事実を突きつける。
「……彼女を堕神へ堕としたのはこの私だ」
薫子は頭を鈍器で殴られたような感覚に陥り、思わず「は…?」と声を漏らした。彼は蛇歌の家で「償い」と言っていた。何がどうしてそうなったのか理由は知らない。ただ一つ分かることと言えば、噓をついているような歪んだ瞳ではないという事だけ。
もしこの話が本当だと仮定すると、茜鶴覇の何らかの行動のせいで蛇歌は濡れ衣を着せられている、又は嵌められている事になる。本人達の現在の関係を見るにこの話に終止符を打っては居そうだが、今も尚堕神と呼ばれ続け、罪が消えていないとなると、かなり大きな事件があったのかもしれない。
「……そうですか」
何とか振り絞って出たのはそれだけだった。薫子は視線を外して足元を見る。茜鶴覇も同様に視線を逸らし、再び外へと向けた。ひとつひとつ会話が終わる度、どんどん重く深くなっていく静寂。山頂でもないのに、なんだか空気が薄く感じた。
「失望したか」
ぽつりと投げかけられた問いに、薫子は答えを出しあぐねる。なんと言っていいのか分からないというのもそうだが、今までの茜鶴覇を見ていて故意に蛇歌を陥れるような神には思えない。何かただならぬ事情を抱えていそうだ。
「……わかりません、ただ」
薫子は自分の気持ちを素直に言葉にする。
「出会ってから今までの貴男様を見ていて、どうしてもそのような愚行に走るような方には思えません。何か私には分からない事情がおありなのでしょう。だとすれば、私が真実すら知らずに貴男様を非難し、失望するのはあまりにも勝手」
薫子は足元から茜鶴覇へ視線を移し、まっすぐ見つめ返す。
「私には何があったのか、全てを知る術がございません。できるのは私が信じたいと思った事を信じるのみでございます」
「信じたい事…」
繰り返して呟く茜鶴覇。薫子は頷いた。
「はい。私は信じています、茜鶴覇様」
もやもやとしていた気持ちと頭を整理するように薫子は心の中の言葉を全て吐き出した。真っ直ぐ過ぎる瞳に見つめられ、茜鶴覇の漆黒の目が揺れる。
「……今、名を」
「…あ、申し訳ありません。無礼をお許しください」
(自分の中で整理するのに夢中で気が付かなかった)
深く頭を下げたまま、どっと冷や汗が出る薫子。茜鶴覇は気が抜けたように少し笑った。
「好きに呼ぶがいい」
薫子は頭を上げ、優しい声音で話す茜鶴覇を見る。彼は窓枠に肘を置いて頬杖をしていた。
「……お前は、本当に変わらない」
人間がそんな数日で変わってたまるかと、薫子は心の中で突っ込みを入れそうだったが、自分と見つめあう茜鶴覇の視線の違和感に気付く。彼が見つめる先には、薫子は居なかった。
(一体、”誰”を見て―――)
ガタンと車体が急に揺れて止まり、中に居た二人は馬車に合わせて体が動く。どうやら到着したらしい。窓から外を見ると、そこは大通りの一角に店を構える呉服屋だった。暁が戸を開き、主である茜鶴覇を先に下車させる。薫子も次こそはと一人で降りようとしたが、大勢いる人たちの前で転んで恥を晒したくはなかったので、大人しく差し出された茜鶴覇の手を取ることにした。
(うわぁ、これはすごいな…)
店内に入ると、かなり繁盛してることが分かった。身なりの良い人間しか居ないところを見ると、ここは恐らく高級呉服屋なのだろう。自分がかなり場違いだと薫子は思った。とはいえ、茜鶴覇の二歩後ろを歩いていればなんら問題は無い。暁も薫子の更に一歩後ろを歩いているので、傍から見ればそれなりに下男下女に見えるはずだ。
(それにしても、こんな場所に連れてきて何するつもりなんだろうか)
荷物持ち位にしか役に立たなさそうだ。しかも力仕事ならば文字通り馬力のある暁がいる以上、薫子が来る理由は余計に無い。
目的も分からぬまま広い店内を歩き、茜鶴覇が立ち止まったのは美しい着物が飾られた若い淑女向けの売り場だった。煌びやかな反物で作られた着物は、貴族や金持ち向けに作られたかなりの上物である。
(どれもこれも仕立てるのに苦労しそうな物ばかりだ)
不思議な視点から着物を眺めていると、茜鶴覇が振り返った。
「薫子」
「はい、何でしょうか」
「この中から選べ」
「は?」
思わず飛び出た声に、薫子は自分の口を押さえる。
「申し訳ありません。……選べ、というのは?」
「今日ここに連れてきたのは、お前の着物を揃えるためだ。先ほどの茶葉は史からの頼み事であり、本来の目的地はこれだ」
(私の着物…)
普段薫子は掃除を主にしている関係で、比較的汚れても構わないような着物を着用して過ごしている。なのでこのような外出用の着物は正直必要ない。もしかしたら要らぬ気を使わせてしまったのかもしれない。
「しかし、私は常に掃除をしているので汚れてしまいます」
「普段用にも何着か選べば問題なかろう」
(高級呉服屋で?)
色々ぶっ飛んでいる茜鶴覇。馬に金銭感覚があるのかどうか知らないが、暁は煌びやかな着物を見てどこか楽しそうだ。
「それに、社には度々客が訪ねて来る。その時に何かしら着飾れる着物があっても無駄ではなかろう」
「来客…?」
神の来客と言えば天界関係の物しかおるまい。確かにそんなやんごとなき神々の前でみすぼらしい格好は失礼に値する。
(なら一番手ごろな物を…)
薫子は手前に飾られた着物の値段が書かれた札を見る。そして静かに視線を外した。桁がひとつどころか二つ程狂っている。
(どうしろと)
薫子も一応財布を持っては来たが、屋台で串焼きが買える程度の些細なお小遣いだ。買える訳がない。
薫子が悶々と悩んでいると、手を擦り合わせて笑顔を浮かべた女が寄ってきた。
「何かお探しでしょうか、旦那様」
どうやらここの店の者らしい。頭から湯気を出しそうな勢いで悩む薫子を一瞥すると、茜鶴覇は口を開く。
「彼女に見合う着物を見立ててやってほしい」
店員はきらりと光る眼で薫子の頭の先から爪先まで見ると、にっこり笑った。
「承知いたしました。さあ、お嬢様。こちらへ」
(お、おじょうさま)
聞きなれぬ呼ばれ方に動揺しながら薫子は誘導されるがまま、店の奥へと入って行った。
(かなり目立つな)
分かってはいたが、やはり注目の的である。茜鶴覇は気付いていないのか、はたまたどうでもいいのか、現実離れした顔を惜しみもなく窓の外へ向けていた。女共を殺すつもりなのだろうか。ある意味迷惑な顔である。
(冗談はさておき)
薫子は気になっていた事を聞いてみる事にした。正直これを人間風情に教える必要は無いのだろうが、訊ねるくらいなら許してくれるかもしれない。薫子は思い切って話を切り出した。
「…先程の女性は、一体何者なのでしょうか」
薫子は蛇歌と名乗った妖艶な女を思いだす。外を眺めていた茜鶴覇は、長い睫毛を伏せた。しんと水を打ったように静まる車内。人々の喧噪と車輪が回る音がただひたすらに流れていく。
(聞かない方が良かったかもしれない)
重苦しくなった空気に耐え切れず、謝罪を入れようとしたその時、ゆっくりと茜鶴覇が口を開いた。
「彼女は、堕神だ」
「堕神…というのは、悪の道に堕ちた神様の事で間違いありませんか」
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(まさか、本当に実在するとは)
しかし何故その堕神と茜鶴覇がこうして面会し、繋がりを持っているのだろうか。彼女がどの程度の罪を犯したのかは分からないが、神とて不死身ではない。見た目は変わらずとも確実に衰え老化し、気が遠くなる程の長い生の果てに輪廻へ還るという。
つまり明確な終わりが存在する以上、他者が強制的にその生を終わらせる事だってできたはずだ。堕神になるほどの罪を犯したのに、死罪にならなかったのだろうか。
(…悪い人には見えなかったんだけどな)
むしろ蛇歌の目は、茜鶴覇にも薫子にも分け隔てなく深い愛情が映っていた。死罪にならないのであれば薫子としては嬉しい限りだが、その辺りの詳しい事情を知る術は無い。
茜鶴覇は再び静まる馬車に揺られ、何も応えず薫子と目を合わせた。そして衝撃の事実を突きつける。
「……彼女を堕神へ堕としたのはこの私だ」
薫子は頭を鈍器で殴られたような感覚に陥り、思わず「は…?」と声を漏らした。彼は蛇歌の家で「償い」と言っていた。何がどうしてそうなったのか理由は知らない。ただ一つ分かることと言えば、噓をついているような歪んだ瞳ではないという事だけ。
もしこの話が本当だと仮定すると、茜鶴覇の何らかの行動のせいで蛇歌は濡れ衣を着せられている、又は嵌められている事になる。本人達の現在の関係を見るにこの話に終止符を打っては居そうだが、今も尚堕神と呼ばれ続け、罪が消えていないとなると、かなり大きな事件があったのかもしれない。
「……そうですか」
何とか振り絞って出たのはそれだけだった。薫子は視線を外して足元を見る。茜鶴覇も同様に視線を逸らし、再び外へと向けた。ひとつひとつ会話が終わる度、どんどん重く深くなっていく静寂。山頂でもないのに、なんだか空気が薄く感じた。
「失望したか」
ぽつりと投げかけられた問いに、薫子は答えを出しあぐねる。なんと言っていいのか分からないというのもそうだが、今までの茜鶴覇を見ていて故意に蛇歌を陥れるような神には思えない。何かただならぬ事情を抱えていそうだ。
「……わかりません、ただ」
薫子は自分の気持ちを素直に言葉にする。
「出会ってから今までの貴男様を見ていて、どうしてもそのような愚行に走るような方には思えません。何か私には分からない事情がおありなのでしょう。だとすれば、私が真実すら知らずに貴男様を非難し、失望するのはあまりにも勝手」
薫子は足元から茜鶴覇へ視線を移し、まっすぐ見つめ返す。
「私には何があったのか、全てを知る術がございません。できるのは私が信じたいと思った事を信じるのみでございます」
「信じたい事…」
繰り返して呟く茜鶴覇。薫子は頷いた。
「はい。私は信じています、茜鶴覇様」
もやもやとしていた気持ちと頭を整理するように薫子は心の中の言葉を全て吐き出した。真っ直ぐ過ぎる瞳に見つめられ、茜鶴覇の漆黒の目が揺れる。
「……今、名を」
「…あ、申し訳ありません。無礼をお許しください」
(自分の中で整理するのに夢中で気が付かなかった)
深く頭を下げたまま、どっと冷や汗が出る薫子。茜鶴覇は気が抜けたように少し笑った。
「好きに呼ぶがいい」
薫子は頭を上げ、優しい声音で話す茜鶴覇を見る。彼は窓枠に肘を置いて頬杖をしていた。
「……お前は、本当に変わらない」
人間がそんな数日で変わってたまるかと、薫子は心の中で突っ込みを入れそうだったが、自分と見つめあう茜鶴覇の視線の違和感に気付く。彼が見つめる先には、薫子は居なかった。
(一体、”誰”を見て―――)
ガタンと車体が急に揺れて止まり、中に居た二人は馬車に合わせて体が動く。どうやら到着したらしい。窓から外を見ると、そこは大通りの一角に店を構える呉服屋だった。暁が戸を開き、主である茜鶴覇を先に下車させる。薫子も次こそはと一人で降りようとしたが、大勢いる人たちの前で転んで恥を晒したくはなかったので、大人しく差し出された茜鶴覇の手を取ることにした。
(うわぁ、これはすごいな…)
店内に入ると、かなり繁盛してることが分かった。身なりの良い人間しか居ないところを見ると、ここは恐らく高級呉服屋なのだろう。自分がかなり場違いだと薫子は思った。とはいえ、茜鶴覇の二歩後ろを歩いていればなんら問題は無い。暁も薫子の更に一歩後ろを歩いているので、傍から見ればそれなりに下男下女に見えるはずだ。
(それにしても、こんな場所に連れてきて何するつもりなんだろうか)
荷物持ち位にしか役に立たなさそうだ。しかも力仕事ならば文字通り馬力のある暁がいる以上、薫子が来る理由は余計に無い。
目的も分からぬまま広い店内を歩き、茜鶴覇が立ち止まったのは美しい着物が飾られた若い淑女向けの売り場だった。煌びやかな反物で作られた着物は、貴族や金持ち向けに作られたかなりの上物である。
(どれもこれも仕立てるのに苦労しそうな物ばかりだ)
不思議な視点から着物を眺めていると、茜鶴覇が振り返った。
「薫子」
「はい、何でしょうか」
「この中から選べ」
「は?」
思わず飛び出た声に、薫子は自分の口を押さえる。
「申し訳ありません。……選べ、というのは?」
「今日ここに連れてきたのは、お前の着物を揃えるためだ。先ほどの茶葉は史からの頼み事であり、本来の目的地はこれだ」
(私の着物…)
普段薫子は掃除を主にしている関係で、比較的汚れても構わないような着物を着用して過ごしている。なのでこのような外出用の着物は正直必要ない。もしかしたら要らぬ気を使わせてしまったのかもしれない。
「しかし、私は常に掃除をしているので汚れてしまいます」
「普段用にも何着か選べば問題なかろう」
(高級呉服屋で?)
色々ぶっ飛んでいる茜鶴覇。馬に金銭感覚があるのかどうか知らないが、暁は煌びやかな着物を見てどこか楽しそうだ。
「それに、社には度々客が訪ねて来る。その時に何かしら着飾れる着物があっても無駄ではなかろう」
「来客…?」
神の来客と言えば天界関係の物しかおるまい。確かにそんなやんごとなき神々の前でみすぼらしい格好は失礼に値する。
(なら一番手ごろな物を…)
薫子は手前に飾られた着物の値段が書かれた札を見る。そして静かに視線を外した。桁がひとつどころか二つ程狂っている。
(どうしろと)
薫子も一応財布を持っては来たが、屋台で串焼きが買える程度の些細なお小遣いだ。買える訳がない。
薫子が悶々と悩んでいると、手を擦り合わせて笑顔を浮かべた女が寄ってきた。
「何かお探しでしょうか、旦那様」
どうやらここの店の者らしい。頭から湯気を出しそうな勢いで悩む薫子を一瞥すると、茜鶴覇は口を開く。
「彼女に見合う着物を見立ててやってほしい」
店員はきらりと光る眼で薫子の頭の先から爪先まで見ると、にっこり笑った。
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