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第一章
第三十七話 配下
しおりを挟む「おい茜鶴覇ァ」
茜鶴覇達が地面に着地すると、翼の音と共にに圓月の声が聞こえた。見上げると、崖の中間辺りで留まっている圓月が居た。
「お前ら先に行け。俺はこの辺の雑魚吹き飛ばしてから行くわ」
茜鶴覇はじっと圓月を見つめていたが、ふと前を向く。
「分かった」
それだけ答えて走り始める茜鶴覇。その後ろを風牙と武静が追っていく。それを視界の端で見ていた圓月は呆れたような笑みを見せた。
「怪我するなよとか、死ぬなよって言えねぇのかあいつは…」
普通こういう時って言うもんじゃねぇの、と愚痴を零す圓月だったが、すぐに口元に弧を描く。
「まあ、あいつらしいこった。俺達を信じて疑わねぇ」
圓月は、けたましい鳴き声を上げて取り囲む地獄の番兵を見据える。次々に現れるその数は、およそ五十体前後。
だが圓月は笑みを崩さなかった。
「俺は一人でフラフラするのは好きだがなぁ」
そういいながら着物の袖から手を出す。
「誰も、仲間が居ねぇとは言ってねぇ」
何かを察した地獄の番兵たちは一気に圓月へ飛び掛かった。その瞬間、パチンという指を鳴らす音が響き渡る。
「地獄の狗にしちゃあ良い判断だ。だが一歩遅かったな」
喉の奥を鳴らして圓月が笑うと、背後に黒い靄が現れ太い蜘蛛糸が勢いよく飛び出た。近寄ってきていた地獄の番兵たちは、その半分以上の数が拘束される。そして次の瞬間バキバキと音を立てて急激に凍っていき、番兵ごと凍結した。
「おおおおおおおおらァッ‼」
糸が全て凍るや否や、間髪入れずに上空から巨大な掛け声とともに、これまた巨大な人影が落下する。その影は凍った糸にぶつかり、地獄の番兵は氷共々砕け散った。
残された半分以下の数は、ギィギィと叫びながら仲間を増やし、再び圓月へ立ち向かってくる。だが圓月含め、他の誰にもその爪に触れる事は無かった。
崖の上から無数の火の玉が降り注ぎ、地獄の番兵達を燃やし尽くしていく。甲高い断末魔と共に燃えると、黒い霧となって体が崩れていった。
地獄の番兵が全滅するのを横目に見ると、上空から降ってきた男が口を開く。
「おい主よ。とんでもねぇ場所に呼び出してくれたな……」
砕けずに残った氷の上に立ち、軽く眉間にシワを寄せた。その男の頭には大きな角が二本あり、上背が兎に角大きい。恐らく圓月よりも高いだろう。
「わりぃな、嶄。ちっとばかし緊急事態なもんで」
嶄と呼ばれた男は圓月の言葉を聞いて、呆れたように大きくため息を吐いた。
口元に笑みを浮かべた圓月に、しっとりとした声音の女が話しかける。
「……私の能力だと地獄では相性が悪いのですが」
女は燃え盛る業火を見ながらそう言った。右目を手のひら程の大きさの覆面で覆い、白髪の髪を後ろで流している。髪と同じく真っ白な肌に、水色の瞳が良く映えた顔立ちだ。
「六花は炎だって凍結させるだろ、今更相性なんてもんがお前にあるのか?」
「流石に地獄の業火相手では不可能です」
「いけるいける、大丈夫だろ」
ワハハと笑い飛ばす圓月。崖に蜘蛛の糸を張り、腰をくっつけて空中に留まっていた男が蟀谷に青筋を浮かべて呟く。
「相変わらず適当さが腹立たしいなクソが。これが主だと思うと頭が痛ぇ」
「そりゃいけねぇな、辿李。頭でも撫でてやろうか」
「そういうとこだわ馬鹿が」
威嚇するように目尻を吊り上げる辿李の左頬には、蜘蛛の巣のような入れ墨が入っていた。琥珀色の髪が、地獄の業火に照らされて赤く反射している。
「悪かったって、そんな顔するなよ。からかっただけだ」
まるで子供をあやす様に言うと、圓月は悪人のような笑みを浮かべた。
「でもお前ら考えてもみろ。地獄で真っ当な理由を盾に暴れる機会なんて、もう二度と来ねぇぞ」
圓月がそう言うと、にやりと笑った嶄が口を開く。
「真っ当な理由ねぇ。俺達はその理由とやらを全く知らないんだが、大丈夫か?」
「ああ、問題ねぇ。知りたきゃあとで教えてやるよ」
「主、何でもいいですが来ますよ、敵」
崖の上から声を掛けたのは、狐の耳と尻尾をもった男だった。銀髪の短い髪に白い毛皮の肩掛けが特徴的な美青年は、前方を指さす。そちらを見ると、再び軍勢を引き連れてきた地獄の番兵がこちらに突っ込んできていた。
「まだ来るんか。つーかさっさと言え火響。上から見てたんだろーが」
辿李が噛みつくように言うと、「話に夢中になっている方が悪い」と淡々と言ってのける。辿李は実際その通りだという事を知ってか、唸るようにして上を見上げた。
「まあ……来ちまったもんは仕方ねぇ。向かってくるやつら全員蹴散らして、茜鶴覇達を追っかけるぞ」
圓月がそう言って目を細めて笑うと、先ほどまで文句を垂れていた嶄たちの表情が落ち着き、「御意」と素直に返事を返す。
けたましい鳴き声を上げながら迫って来る地獄の番兵達を、片っ端から撃破し始めた。楽し気に巨大な翼で薙ぎ払う圓月。薫子が見たら、まさしく悪魔のような形相だと潰れたカエルでも見るような目で見ていそうである。
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