67 / 116
第二章
第二十五話 神器の危険性
翌朝。茜鶴覇と十六夜が社の結界を張り直し、夢幻八華たちが集う居間へ戻ってくると、今後の予測と対策を話し合い始めた。
薫子は普段の仕事をこなそうと思っていたのだが、呆気なく勾引された身なので、一人で庭には出させてもらえなかった。その点に関しては、薫子に反論の余地はない。
とはいえ、口を出せるような立場でもないので、ひたすら茶を啜り続ける。そんな薫子を置いて、話は着々と進んでいた。
「しかしまぁ、爪雷はこれからどうするつもりだ?魂だけ奪還して、肉体はどうすんだ」
圓月はあぐらを掻き、後ろに手をついて眉間にシワを寄せる。それに対して茜鶴覇は目を細めた。
「死した者を復活させる方法が無いわけじゃない」
「方法だって?肉体は四千年に失ってるはずだぞ」
圓月は怪訝そうに口を開く。
「…この世界には、けして表に出してはならぬ神器が三つ存在する」
茜鶴覇はそう言うと、袖の中で腕を組んだ。その傍らで同じ事を考えていたのか、十六夜がぐっと眉を寄せて口を開く。
「逆戻りの神器、甦生の神器、天性挽回の神器…」
「…それが天界に伝わる神器の名前か?」
「ああ、そうじゃ」
存在自体はあやかしである圓月も知っていたようだ。圓月は「へえ…」と思考を巡らせながら相槌を打つ。薫子は勿論初耳なのだが、他の者達もさして驚いた様子は無いので、恐らく圓月と同じく存在だけは知っているようだった。
「神器がその復活方法ってことか」
「正確に言えば、三つある内の二つ目の神器だ」
圓月の質問に風牙が答える。一晩休んで体力を回復させたからか、昨日よりも顔色が数段良くなっていた。とはいえ、兄の事が余程精神的に来ているのか、以前よりも元気はない。
「二つ目…甦生の神器か。それどういう物なんだ。やべぇのか?」
「まあな。元より、使われるはずのなかった神器なんだよ。最悪の事態になった場合の為に、太陽神と月神が作ったんだ」
机に肘をついて答える夢幻八華。それに続いて蛇歌が鬱陶しそうに口を開いた。
「作られた工程はこの際どうだっていい。問題はその神器が持つ、世界の常識を覆す力だ」
(なんだ、それは)
薫子は話を聞きながら頭を抱えたくなる。そもそも薫子にとってはここにいる全員が常識外れなのだが、その神々達も一応は世界の理念に従って存在している。その神たちが常識外れだと口を揃えて言うのであれば、相当のものなのだろう。できるなら関わり合いにはなりたくないものだが、そうもいかないのが現状らしい。
「……その三つの神器の力について詳しく訊ねてもよろしいでしょうか」
部屋の隅に正座していた六花が小さく挙手をすると、十六夜は「ああ」と頷いた。
「一つ目の逆戻りの神器。これは輪廻を通して数多にも分かれてしまった魂を、再び一つに集結させる神器じゃ」
「集結させる?しかし、輪廻を通ったということはすでに全くの別の魂の一部となっているはずです。そんな事が可能なのでしょうか」
六花の最もな質問に、一部の者たちは頷く。しかし十六夜は嘘はないという面持ちで六花に答えた。
「可能じゃよ。この理を超えた力こそが、良くも悪くも圧倒的な力を有する理由なのじゃ」
十六夜がそこまで説明すると、茜鶴覇が変わって話を切り出す。
「魂の一部を集めるということは、同時にその一部を失う者たちも居る。魂とは記憶。抜き取られた者たちは、自身が大切にしていたものすらも忘れ、思い出すこともなくその生を終えるだろう。場合によっては、多くの者が廃人と化す」
茜鶴覇の見解に皆が押し黙った。薫子は自身の生前の話を聞いたからか、記憶を失うという事の重大さがより重く感じる。
「…そうして集められた魂は、二つ目の甦生の神器によって復活が可能になる」
静まった部屋に、あくまで冷静に言葉を紡ぐ夢幻八華。それを聞いた圓月は思わず前のめりになって目を見開いた。
「……なん、だって?もう一度言ってくれ」
「集められた魂に、甦生の神器によって生前の肉体を与えることができる」
夢幻八華は補足を付け加え、しっかりとした口調で圓月に答える。ドッと汗を掻いた圓月は、奥歯を噛み締めた。
「もし雷神がその復活の神器を使えば、奴はこの世のどこかで息を吹き返し、生前の体で再び大きな戦火を焚きつけるだろうな」
そういった瞬間、圓月は夢幻八華の胸ぐらを掴んで引き上げる。
「そんな馬鹿な話があってたまるか…!あいつは、あいつだけは……現世に放っちゃいけねぇッ!よりにもよってなんで…!!」
「落ち着け圓月、夢幻八華に当たってどうする!」
風牙がすぐにふたりの間に割り込んで引き剥がすと、圓月を諌める。初めて見る動揺を隠しきれない圓月の姿に、薫子は冷や汗を垂らした。
(たしか、最後に懴禍にとどめを刺したのは圓月様だった)
どれほど激しい戦いだったのかは実際見ていないので薫子には知る由もない。だが彼の様子を見ていれば、想像するには容易かった。
「クソ、わりぃ…」
顔を歪め、苦虫を噛み潰したように謝罪しながら圓月は拳を握りしめる。何も言わずに彼を見ていた夢幻八華は、静かに瞬きをして小さく息を吐いた。
「いいさ、お前の焦りも尤もだよ。酒呑童子の最後については俺も聞いた。一人きりでよくやり遂げたと思うぜ」
夢幻八華は襟元を正しながら淡々と話し始める。
「だが事実は事実。社へ来る前に一通り神央国は見渡してきたが、邪気が濃く漂っている場所が数か所が見えた。恐らくそのどこかに酒呑童子の魂が潜んでるんだろうな。強い邪気と妖力に引き寄せられたあやかしが群れを成してる」
「邪気ねぇ…そこに近づけそうなのかい?」
「多分な。見たところ結界のような防壁は無かった。だが中途半端な神力しか無いやつは辞めたほうがいい。邪気に蝕まれる」
蛇歌の質問に肩を竦めて答えると、茜鶴覇が顎に手を置いて口を開いた。
「ひとまず、警戒と牽制をしつつ人間たちへの被害を抑える事に専念する。迎撃はしても追撃はするな」
「具体的に何をするつもりじゃ」
十六夜は羊羹を手で摘んで口に含む。昨日と違い十六夜は少年の姿をしており、口いっぱいに甘味を頬張る姿は幼く見えた。
「残りの守護神がここへ来るまでに結界を貼る。東西南北の都はお前達に任せる」
そう言いながら、四神へ視線を流す茜鶴覇。普段間抜けな一面がある四神だが、やはり上級神と言わざるを得ない。その面構えは凛としたものだった。
「御心のままに」
四人が同時に頭を垂れると、茜鶴覇は風牙と蛇歌を見る。
「お前達も手を貸して欲しい。風牙は南を。蛇歌は北の村を回ってくれ」
「それは構わないが、残りの東西はどうするつもりだ」
風牙の質問に茜鶴覇は面持ちを変えずに「心配は要らぬ」とあっさり答えた。
「東西は私が直接貼ろう」
「わかった」
(いやいや)
薫子はさらりと流される会話に戸惑いを隠せない。東西の巨大な都を除いたとしても、数多とある村にひとつひとつ結界を貼るなんて、普通に考えたらどうかしている。しかし誰もその点について不思議に思っている者は居ない。これが彼らの普通というものなのだろう。
(慣れんな、やっぱり)
薫子は神たちの規格外の力に、スンとした顔で再び茶を啜った。
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜
まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。
継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。
気づいていなかったのだ、あの人たちは。
私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。
ある夜、私は静かに荷物をまとめた。
怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。
三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。
「リーナを探せ」
今更、ですか。
私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。