71 / 116
第二章
第二十九 致命的な仲の悪さ
異形のその姿に薫子は言葉を失う。
「あれ、もしかして来る時期外した感じかな」
ポリポリと頬をかいて周りを見渡した青年の顔は恐ろしい程に整っており、その頭には雄鹿のような角が生えていた。
「嗚呼!史さんお久しぶり!相変わらず美しいねぇ」
「ありがとうございます」
淑やかに笑って礼を言うと、隣に居た雀梅が眉間にシワを寄せて見上げる。
「お前来てすぐ女に声かける。気持ち悪い」
「そんな冷たい雀梅ちゃんも可愛いね」
「キモい。雀梅、お前苦手」
史の後ろに縮こまって隠れる雀梅。あの辛辣な言葉を真正面から受けて立つとは、中々の猛者である。
「六花ちゃあん」
「お久しぶりです。話しかけないでくださると光栄です」
「そんなに照れなくても大丈夫だよ、僕はいつでも話し相手になるからさ」
猛者というより、獅伯とは違った意味で狂っているかもしれない。
薫子が呆然としたまま辿李に抱えられていると、彼と視線がかち合った。ぱっと花を咲かせてこちらに近寄ってきた男。辿李はザリッと砂を踏んで一歩下がる。
「やあ、はじめまして。君が噂のカオルコちゃんだよね?僕は寿鹿。岩神だよ、よろしくね」
そういって手を差し伸べる寿鹿。薫子はおずおずと手を乗せると握手をして上下に軽く振られた。
「ダァーー。馬鹿あんま触んな辞めろ薫子」
ペッと辿李に繋がっていた手を外される。
「ちょっとー。僕の交流を遮らないでよね、辿李君」
「コイツにだけは手出すなよ寿鹿。後がめんどくせぇから」
辿李はイライラした様子で茜鶴覇へ視線を向けた。寿鹿が振り返ると、眉間にシワを寄せている茜鶴覇が見える。
「……え、なに?この子もしかして神女?」
「………」
少し目を見開く寿鹿。その後ろの方で獅伯が目を細める。辿李は何も答えず助けを求めるように隣に居た虎文へ視線を向けた。
「まあまあ、なんだっていいだろー。てかそれより薫子殿が可哀想だから、そろそろ下ろしてやれって。犬っころじゃねぇんだからよ」
「……わりぃ」
小さい声で謝りつつ、静かに地面に下ろしてくれた辿李に薫子は頭を下げる。虎文は寿鹿へ視線を戻すと、ニッと笑いながら話しかけた。
「お前も国で暴れてるあやかしぶっ飛ばして来た口か?」
「お前もってことは、あそこでしょげてる猫も同じ感じってこと?」
「だれが猫だ!!ふざけんな」
グルグルと喉を低く鳴らして遠くから反論するが、寿鹿は全く気にせず話し続ける。
「……まあ、概ねそんなところだよ。岳詠穿が僕に任せてさっさと出ていっちゃうから仕方なく片付けてきたんだ」
「…お前、あやかし共を殺したわけではないだろうな」
岳詠穿がそういうと、寿鹿は少し笑って首を横に振った。
「まさか。いちいち戦ってたらこちらの神力が勿体無い。だから封印してきたんだ」
そう言いながらチラリと獅伯を見て勝ち誇ったような顔をする。
「脳みそまで筋肉の阿呆はきっと片っ端から倒していたんだろうけど、それじゃあ美しくないからね」
「よくわかった。てめぇからぶっ飛ばす」
バチバチと火花が散る二人の間に風牙が入った。
「よせ、そんなくだらない話をしている暇はない」
「はぁ⁉くだらねぇだと?俺はいつだって大真面目だッ!スカしてんじゃねぇぞ風牙」
「やれやれ、風牙のこの落ち着きを一回見習ってほしいよ獅伯。とても美しいじゃないか」
「誰のせいだと思ってんだ寿鹿。いつまでも自分が優勢だと思うなよ」
「いい度胸だ。褒めてあげるよ獅子のクソガキ。おいで、僕に勝てる自信があるなら遠慮なくかかってこい」
そういうと、どこからともなく槍を召喚する寿鹿。それを見るや否や獅伯は足と拳に炎を纏って身を低くした。
その時。
「よせと言っている」
風牙はダンッと地面を一歩踏みしめた。その途端足元から暴風が吹き上げ、寿鹿と獅伯の体が宙に放り出される。桜の花弁が勢いよく舞い上がり、ボロボロになって宙を漂った。二人は目を見開いて着地すると、唖然とした顔で風牙を見つめる。
「今がどういう状況か分かっていながらこれか。寿鹿、獅伯」
普段温厚で大人しい風牙とは思えない様子に二人は冷や汗を流して押し黙る。ビリビリと肌で感じる威圧に、薫子は思わず生唾を飲み込んだ。
「はい、そこまで」
そんな緊張状態の中、凛とした亜我津水尊の声が通る。
「あんたもいい加減になさい。一刻を争うって時に自分の都合で動くのは三流よ。どれだけ力があろうとその使い方を誤ればただの迷惑でしかないの。今一度、神としての立場をちゃんと考えなさい」
「……承知」
苦虫を噛み潰したような顔で頷いた獅伯。亜我津水尊は「まったく…」と腰に手を当ててため息を吐いた。
「お前もだ。立場をわきまえろ」
「……御意に」
寿鹿も少しシュンとした顔で頷く。
(この二人は犬猿の仲ってやつなんだろうな)
初対面だが、彼らの関係性がなんとなく把握できた。ツンケンとした態度が目立つのは辿李もそうだが、流石にここまで誰かと致命的に合わないわけではない。
(寿鹿様と獅伯様が組んで行動しなければ問題は起きなさそうなんだが)
とはいえこの先どういう事態になるか分かったものではないので、二人が噛みつき合わないように各々で気を使ってほしい所だ。
「ま。ひとまず中に戻ろうぜ。日も暮れる」
夢幻八華は西の空をみる。燃えるような真紅の太陽が地平線に身を落とし、群青色の空が天を覆った。
あなたにおすすめの小説
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜
まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。
継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。
気づいていなかったのだ、あの人たちは。
私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。
ある夜、私は静かに荷物をまとめた。
怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。
三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。
「リーナを探せ」
今更、ですか。
私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。