桜咲く社で

鳳仙花。

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第二章

第三十話 懴禍の居場所




 「成程。邪気が点在していて、その内のどれかに懴禍がいるって事か…」
「いや、既に目星はついている」
寿鹿の呟きに茜鶴覇が答えた。それに続くように虎文が挙手して口を開く。
「その話は俺からします。元々西は四千年前にあった圓月殿と懴禍の戦いで、かなり濃く邪気が残っている土地でした。それによって西はあやかしの数も多く、治安も悪い。そんな中、更に濃い邪気が西の地で発生しています」
虎文がそういうと、圓月は少し申し訳無さそうな顔で「あー…」と声を漏らした。
「あやかしにとって邪気は滋養に繋がる氣。つまりこの国で最も濃く溜まっている西に、懴禍と爪雷は潜んでいます」
そう言い切った虎文。獅伯は片眉をあげる。
「わかってんなら突っ込めばいいだろ?なに呑気に様子見てんだよ。時間がねぇんだろ」
「馬鹿ね、獅伯。もっと頭を使いなさい」
「はぁ?」
腕を組んで話を聞いていた亜我津水尊が口を開いた。
「そんなのに決まってるでしょう。わかりやすい罠よ」
ため息混じりにそういうと、虎文は肩をすくめて頷く。
「流石ですね。亜我津水さんの言う通りです」
「まったくもう。回りくどい事しないでちゃんと話しなさい」
虎文は「はいはい」と頷いて真剣な面持ちに戻った。
「恐らく西に邪気を多く漂わせているのは布石でししょう。高確率で懴禍は別の場所にいると思います」
「しかし、そうなると懴禍はどこに居るのでしょうか…?」
顎に指を掛けて首を傾げる六花。虎文は顔を曇らせる。
「実は西以外の邪気は、正直大したこと無い」
「ということはやっぱ目星は着いてないってことか」
嶄がそう言うと、今度は風牙が口を開いた。
「いや、そうではない」
「…どういうことだ。お前らこの数刻で何が分かった」
圓月は怪訝な顔で訊ねる。茜鶴覇は圓月へ視線を流した。
「予想はついた。しかし証拠がない。不確定な憶測で動ける程、こちらに余裕はない」
その返答にもどかしそうな表情を浮かべる圓月達を見て、茜鶴覇は目を細める。その面持ちはまるで確信に近い何かを持っているようだった。
「だが、すぐに分かるだろう」
そう答えた瞬間、カラリと引き戸が開く。全員が振り向くと、そこには蛇歌が立っていた。
 黒い艷やかな髪をサラリと後ろへ払うと、不機嫌そうに入ってくる蛇歌。空いていた座布団に座り、ジットリと茜鶴覇を見つめた。
「結果は」
「フン、流石は鳳凰神と褒めた方が良いか?」
嫌味のようにそう言う辺り、茜鶴覇が求めていた証拠が見つかったらしい。彼女の返事を聞いて、茜鶴覇は「要らぬ」とだけ答えた。
「何だよ、説明しろって。お前ら揃いも揃って口数少な過ぎだっての」
「こんなカタブツと一緒にするんじゃないよ圓月。だがアタシはコイツにこき使われて疲れてるんだ。説明なら茜鶴覇から聞きな」
袖の中で腕を組んで顔を背ける蛇歌。圓月は茜鶴覇を見る。
「どーゆーこった」
「先程西の地を虎文と回っている際、地獄の門が開門していた痕跡が見つかった」
茜鶴覇の短い説明を聞いて、なんとなく察しがついた圓月達は顔を歪めた。
「現世に逃げてきたから、てっきりこちらで潜伏してると思ったんだけどな」
これは予想外だ、と寿鹿は首筋に手を置いて少し不機嫌に言う。
(確かに寿鹿様の言うとおりだ)
地獄から逃亡し、せっかくわずらわしい地獄の業火から逃れて来たというのに。
(しかし詮索物眼の前にあり、というべきか)
存在すらしていなかった選択肢がここに来て増えたわけだ。
「なら今から地獄でもなんでもいって燃やせばいいだろ。次は魂の欠片すら残さねぇ」
拳を手のひらに打って喉を低く鳴らす獅伯。だが茜鶴覇は首を振る。
「地獄へは暫く行けぬ」
「んでだよ」
「先日、こやつらが地獄と天界で結んだ契約を破ったばかりじゃからの。無断ではもう乗り込めまい」
あー、と声を漏らしてから代わりに説明する十六夜に、獅伯は青筋を立てて言い返した。
「そんなもん関係ねぇだろ。緊急事態ってやつじゃねえのか?あ?」
「今正式な通行許可を申請して乗り込んだとしても、あの過酷な状況下で現世のあやかしを気にしながらヤツと交戦するのは分が悪過ぎる」
茜鶴覇がそういうと、嶄も腕を組んだまま頷く。
「わざわざ向こうの土俵に乗ってやる義理はないしな」
(確かにその通りではある。恐らくこれも茜鶴覇様達が誘いに乗ってやってきたら好機くらいの軽い罠なんだろう)
薫子はそこまで考えてふと思う。そういえば、爪雷は大丈夫なのだろうか。
 神にとってあやかしの邪気、即ち妖力は毒も同然。逆もまた然りなのだが、体を蝕む毒素を懴禍の側で触れ続け、しかも邪気が濃く漂う地獄へと逃げている。正直無事とは思えない。
(大丈夫……ではないだろうな)
心配しているわけではないが、風牙の事を考えると少し複雑である。
 「近い内に必ず懴禍は動く。それまでにこちらも手を打ちたい」
「手を打つって、どーすんだ?」
圓月が茜鶴覇に訊ねると、茜鶴覇は視線を伏せて考えを巡らせた後にスッと前を向いた。
「三大神族と手を組み、迎え撃つ」
「人間と?正気か鳳凰神。歯が立たねぇぞ」
夢幻八華がそういうと茜鶴覇は続ける。
「無論前線には我らが赴く。彼らには四方に散ってもらい、都の護衛と結界の維持、そして全体の状況を式神を通して報告して貰う」
「成程。確かに俺達が全員、手が空いていない状況で不測の事態が起きた場合、伝達はできない。方法はあっても懴禍はさせてはくれ無いだろう」
風牙の呟きに茜鶴覇も軽く頷いた。そして円になって座る面々に淡々と告げる。
「明日の正午、ここへ三大神族を招集する。各自時間になったら再び集うように」


    
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