桜咲く社で

鳳仙花。

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第三章

第四話 兄弟の決別


 圓月は刀を召喚したのを横目に見ると、空に飛び上がる。茜鶴覇はそれを合図に懺禍に向かってその刀を振るった。真っ直ぐに飛んでいく橙色の炎は大気が揺れる間もなく燃え上がる。
「ハハッ」
嬉しそうに笑った懺禍は黒い炎を飛ばして相殺しようとしたが、何かを察してその場から離れた。黒い炎を打ち消し、真っすぐ飛んでいった茜鶴覇の炎は巨大な大木に当たり、一瞬で炎上させる。灰になっていく大木を見た後、茜鶴覇を振り返る懺禍。その直後、圓月が茜鶴覇の炎を風に纏わせて頭上から拳を振り下ろした。
「…!」
懺悔は赤い瞳を見開いて後ろに飛ぶ。着地をした彼の顔に、真っ赤な髪がパサリとかかった。髪の間から覗く瞳には、先程まで無かった光が宿っている。まるで子供のように、玩具を手渡されたように、その瞳を輝かせていた。
「来い、懺禍」
「面白くなってきた…!」
懺悔は黒い炎を弾き飛ばす。茜鶴覇はその炎を切り払った。火柱が上がる中、懺悔は突っ込んでくる。その手には黒刀が握られていた。禍々しいその炎を纏わせた刀は、四千年前には握られていなかったものである。刀から痛いほど感じられる妖力に、茜鶴覇と圓月は少し目を細めた。
「これは俺の力から生まれた刀だ。どうだ、素晴らしいだろ?」
「……」
茜鶴覇はすべての剣撃を弾くと、一文字に刀を振る。橙色の炎が燃え上った。懺禍も宙返りをしながら真横に刀を振る。黒い炎と橙色の炎が相殺されて爆発を起こした。圓月は後ろに炎が通らぬよう、突風を起こして弾き飛ばす。
 「……っ」
薫子は思わず顔をしかめた。圓月のおかげで炎は来なかったが、熱はこちらまで届いたようだった。首に巻き付いていた水蛇が蜷局とぐろを巻き直して薫子の顔を守る。
「薫さん、私の後ろへ」
史は向かってくるあやかしから守るように前に進み出た。辺りは騒然としており、各々があやかし達に囲まれている。
しかし。
「妙だ」
蛇歌は迎撃する水蛇を見ながら眉をひそめた。
「雑魚ばかりしか居らぬ」
その言葉で薫子は会議の話を思い出す。
(確か、四千年前も強いあやかしが何体かいたと言っていた。今回も同じく引き連れてくるだろうという話だったけど)
見た所凶悪になっては居るがそれらしき者は見当たらない。蛇歌は怪訝そうな顔で辺りを見渡した。同じことを思ったのか、皆辺りを警戒している。
 「お前たちが考えているような事にはならない」
爪雷は対峙する風牙と十六夜にそう言い放った。
「ここには俺と懺禍以外、まともな力量の奴はいねぇよ」
「ここには、だと?」
風牙が問い返すと、爪雷は淡々と答える。
「各地に散った」
「なんじゃと…」
十六夜は目を細めた。
「見た所。こっちの予想はアタリだったみてぇだな。四神も嶄達も居やがらねぇ。どうせ神央国の各地に居るんだろ」
そういうとその両の手に雷を纏わせる。バチバチと爆ぜる光が湿度に反応して更に大きくなった。
「そいつ等を纏めて消しに行かせたんだ」
「爪雷……ッ」
風牙は心無く言い放った爪雷に向かっていく。その拳には鋭い風が渦を巻いていた。
「何がお前をここまで変えたんだ、言え…!!」
「何度も言わせるな。話したところでお前とは永遠に分かり合えねぇ」
風牙の拳を全ていなすと、鳩尾に蹴り込んだ。
「ぐっ…」
風牙は近くの木に背中を強打する。追撃をしようと一歩進んだところに十六夜の刃が振り下ろされた。
「……」
わかっていたと言わんばかりに避けると、軽い身のこなしで十六夜の腹部に拳を入れた。
「…誰がお主に力の扱いを教えたと思うとる」
しかし剣の鍔で受けていた十六夜は冷たい目で見下ろす。
 ググ、と押し合いになる中、風牙の突風が飛び込んできた。爪雷は横目に見ると十六夜の足を払って離れる。十六夜は足払いを避けると追撃するように剣を振った。バチバチと爆ぜる雷を爪雷は弾き飛ばす。
「四千年前のように、運命は味方をしねぇ。天界は今日から崩れ落ちる。お前たちも天界の老骨ろうこつどもも、全て」
「爪雷……」
光のない瞳でそういった爪雷に、風牙は絶望の色を目に映した。何がここまで彼を変えたのか。どうして自分たちに殺意を向けるのか。何故最愛の兄に見放されてしまったのか。ぐるぐると巡る思考に、風牙の足は完全に動きを鈍らせた。
「風牙…!!」
十六夜の声が飛ぶ。一瞬反応の遅れた風牙の腹部に爪雷の腕が貫通した。
「戦いの最中考え事とは、良いご身分だな」
雷が爆ぜる音が鳴る。喉元を上がってきた血液を吐き出し、風牙は額に汗を浮かべた。
「五月蝿い」
「…!」
腹に突き刺さる腕を掴むと十六夜を見る。爪雷は何かを察し、無理やり腹から腕を引き抜いた。そしてその場から飛んで離れると、一瞬前まで居たそこに十六夜の刃が通り過ぎる。切っ先が掠ったのか、爪雷の髪紐が解けた。
 「………」
長い松葉色の髪が舞う。爪雷は気にすることもなく腕の血液を振り払った。
 風牙は片膝を着いて時折咳き込みながら荒い息を繰り返す。着物が赤黒い血で染まってゆくのを見て、十六夜は双剣を握り直した。
「いよいよ修羅しゅらに堕ちたか、爪雷」
「なんとでも言え」
風に舞う髪が不気味にゆらゆらと揺れる。鋭い瞳を向けられた十六夜は覚悟を決めたように目を閉じた。
「そうか、判った」
そう言ってゆっくりと瞳を開いた十六夜。その目の色は金色の光をより一層濃くしていた。
麒麟きりん神、十六夜。私は貴様を敵と見なす」
「今更だな」
爪雷は目を細め、雷を両手に下ろした。
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