1 / 15
①初夜の悲劇
しおりを挟む
グラスナウ伯爵家嫡男のウィルは、今夜、初夜を迎えることになっていた。相手は恋焦がれて一緒になった、同じ伯爵家のエリザベス・スミスだった。
大恋愛の末の結婚だった。二人はシルクの寝間着に着替えて、ベッドに横たわっていた。
お互い初めてのことで、緊張して頭に血が上っていたが、ここは男の私がリードするべきと、ウィルがエリザベスの上に覆いかぶさり、キスをしようとした。
だがその時、白い壁にへばりつく黒い虫がエリザベスの目に入る。
それはエリザベスの大嫌いなゴキブリだった。
「キャッ!」
びっくりして反射的に起き上がるエリザベス。おでこがウィルの顎に勢いよくぶつかってしまった。
「うっ!」と、うめき声と共にウィルが脳震盪を起こしベッドに沈む。
エリザベスは、おでこに強い痛みを感じながらもすぐにウィルに謝る。
「ごめんね、ウィル」
ぐったりとしているウィルを見て焦るエリザベス。
「え?」急いでウィルを介抱しようと自分の体をずらしたのだが、ずらしすぎてベッドから床に落ちてしまった。
そして、エリザベスはもろに後頭部を床に打ちつけ、気を失った。
❖
それからどれぐらい経ったのだろうか。
湿った土と岩の匂いが漂いひんやりとする感触が全身に伝わり、徐々に意識が戻り始める。
「う……うん…」
目をゆっくり開けると薄暗い鉄格子が目に映る。
「え?」
すぐに起き上がろうとしたが全身が痛む。それでも頑張って起き上がると、そこは牢屋の中だった。
「何?ここは……なんで私、牢屋にいるの?」
そこで思い出す。初夜の日にウィルとベッドの上で、彼の顎に激突したことを……
「私、びっくりして、ベッドから落ちたんだっけ……」
「でも…全く思い出せない。どうしてここにいるのか……」
鉄格子を両手で掴んで叫ぶエリザベス。
「誰か!誰かいないの?誰かー!」
叫び続けてようやく誰かの足音が聞こえて来た。
くたびれた服装をして腰に鍵を何本もぶら下げている男を見たエリザベス。男が鉄格子の前で立ち止まった。
「うるさいぞ!静かにしろ!」
「え?」
「静かにしろと言っているんだ!アンジェリカ!」
エリザベスは呆然としていた。自分のことをアンジェリカと呼んだことにも驚いたが、目の前には愛する夫が立っていたのだ。思わず名前を口走る。
「ウィル!」
「はあ?俺の名前はギブソンだ。教えただろう?この雌豚が!しっかりしろ!」
間近で見たこの牢番の顔は、間違いなく愛する夫のウィルと同じだった。
エリザベスには、さっぱり状況が理解できなかった。
(この人は、ウィルじゃないの?)
牢番は優しい夫のウィルとは全く違う冷たい目で、エリザベスを睨みつけていた。
大恋愛の末の結婚だった。二人はシルクの寝間着に着替えて、ベッドに横たわっていた。
お互い初めてのことで、緊張して頭に血が上っていたが、ここは男の私がリードするべきと、ウィルがエリザベスの上に覆いかぶさり、キスをしようとした。
だがその時、白い壁にへばりつく黒い虫がエリザベスの目に入る。
それはエリザベスの大嫌いなゴキブリだった。
「キャッ!」
びっくりして反射的に起き上がるエリザベス。おでこがウィルの顎に勢いよくぶつかってしまった。
「うっ!」と、うめき声と共にウィルが脳震盪を起こしベッドに沈む。
エリザベスは、おでこに強い痛みを感じながらもすぐにウィルに謝る。
「ごめんね、ウィル」
ぐったりとしているウィルを見て焦るエリザベス。
「え?」急いでウィルを介抱しようと自分の体をずらしたのだが、ずらしすぎてベッドから床に落ちてしまった。
そして、エリザベスはもろに後頭部を床に打ちつけ、気を失った。
❖
それからどれぐらい経ったのだろうか。
湿った土と岩の匂いが漂いひんやりとする感触が全身に伝わり、徐々に意識が戻り始める。
「う……うん…」
目をゆっくり開けると薄暗い鉄格子が目に映る。
「え?」
すぐに起き上がろうとしたが全身が痛む。それでも頑張って起き上がると、そこは牢屋の中だった。
「何?ここは……なんで私、牢屋にいるの?」
そこで思い出す。初夜の日にウィルとベッドの上で、彼の顎に激突したことを……
「私、びっくりして、ベッドから落ちたんだっけ……」
「でも…全く思い出せない。どうしてここにいるのか……」
鉄格子を両手で掴んで叫ぶエリザベス。
「誰か!誰かいないの?誰かー!」
叫び続けてようやく誰かの足音が聞こえて来た。
くたびれた服装をして腰に鍵を何本もぶら下げている男を見たエリザベス。男が鉄格子の前で立ち止まった。
「うるさいぞ!静かにしろ!」
「え?」
「静かにしろと言っているんだ!アンジェリカ!」
エリザベスは呆然としていた。自分のことをアンジェリカと呼んだことにも驚いたが、目の前には愛する夫が立っていたのだ。思わず名前を口走る。
「ウィル!」
「はあ?俺の名前はギブソンだ。教えただろう?この雌豚が!しっかりしろ!」
間近で見たこの牢番の顔は、間違いなく愛する夫のウィルと同じだった。
エリザベスには、さっぱり状況が理解できなかった。
(この人は、ウィルじゃないの?)
牢番は優しい夫のウィルとは全く違う冷たい目で、エリザベスを睨みつけていた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる