2 / 15
②毒殺未遂の悪女、アンジェリカ
しおりを挟む
エリザベスは牢番の顔を見つめたまま考えを巡らせた。
(この男の私を見る目には優しさが微塵も感じられない)
改めて自分の服装を見てみる。くたびれた囚人服を着て、裸足で立っていた。地面が冷たくて足裏が冷える。
「食事だ。ありがたく食べるんだな」
牢番はトレーを鉄格子の前に置いた。皿もなくトレーに直に置いてあった。パンと水が乗っていた。
エリザベスはとにかく出された食事を食べることにする。
「ありがとう」そう言って手を伸ばしてパンを掴み、ちぎって口に入れるエリザベス。
牢番は不思議そうな顔をして「ふん」と鼻を鳴らして立ち去った。
ギブソンはパンを食べているアンジェリカをチラ見して、そのまま詰め所へ戻った。
「あいつ、『ありがとう』って言いやがった。気でも変になったのか?」
(昨日まで、あの女は文句ばかり言っていたくせに……)
『こんなもの食べられないわ』
『シャワーぐらい浴びさせてよ』
『呼び捨てにするんじゃないわよ。アンジェリカ様と呼びなさい』
(とにかくうるさい女だったのだが……。それにさっきの感謝の言葉にはトゲがなかった。本当に「ありがとう」と感謝を言ったのかもしれない)……とほんの少しだけギブソンの頭をよぎった。
牢番のギブソンが姿を消した後、パンを食べながら周りを観察し、水を飲むエリザベス。
見慣れない石造りの天井。湿った空気と、鼻につくカビの匂い。硬い藁の寝床。そして簡易トイレ。
(昨日まで、ウィルと一緒に屋敷の寝室にいたはずなのに……)
パンを噛み締めながら、これは夢じゃなく現実だと悟る。
(ここは、異世界……なのかしら?お祖父様から聞いたことがある。今住んでいる世界とは違う世界が、この世にはあるんだと、そう言っていた)
(この体の本当の持ち主、アンジェリカはなぜ投獄されたのか、それが知りたい。次、ギブソンが来たら聞いてみよう。教えてくれるかは分からないけど……聞くだけ聞いてみよう)
壁に開いた小さな鉄格子から外を窺い知ることができた。先程までは空が見えたのにもう真っ暗だった。
「すると、今食べているこの硬いパンが……晩ごはん……?家畜の餌と間違えているのでは?」
❖
翌朝、エリザベスは、牢の前に牢番が立っているのに気がついた。ギブソンはウィルと同じで端正な顔立ちだが、冷たい表情をしていた。
「目を覚ましましたか、アンジェリカ」
無駄と思いながらも真実を言ってみる。
「 エリザベス。私はエリザベスよ」
男は眉一つ動かさない。
「エリザベス?ふん、今更他人を装うつもりか?この悪女めが」
「ねぇ、ここの粗末な食事で栄養不足なのか、記憶があやふやなの。私が何をしてここに入れられたのか教えてくれない?」
牢番がにやりと笑う。
「面倒くさい女だな。お前はよりにもよって王太子妃ロミン様を毒殺しようとした。だからここにいるんだ、アンジェリカ」
「私はエリザベスです!毒殺? 私はそんなこと知らないわ!」エリザベスは必死に否定したが、男の目は冷たいままだった。
( 毒殺未遂? 一体アンジェリカはなんてことしてるのよ!)
エリザベスの頭の中には、「アンジェリカ」に関する記憶は一切なかった。ただ、自分がこの世界の「アンジェリカ」という人物の身体に入り込んでしまったことだけは理解した。
(ウィルはどこにいるの?私だけがこの世界にやって来たっていうの?)
(この男の私を見る目には優しさが微塵も感じられない)
改めて自分の服装を見てみる。くたびれた囚人服を着て、裸足で立っていた。地面が冷たくて足裏が冷える。
「食事だ。ありがたく食べるんだな」
牢番はトレーを鉄格子の前に置いた。皿もなくトレーに直に置いてあった。パンと水が乗っていた。
エリザベスはとにかく出された食事を食べることにする。
「ありがとう」そう言って手を伸ばしてパンを掴み、ちぎって口に入れるエリザベス。
牢番は不思議そうな顔をして「ふん」と鼻を鳴らして立ち去った。
ギブソンはパンを食べているアンジェリカをチラ見して、そのまま詰め所へ戻った。
「あいつ、『ありがとう』って言いやがった。気でも変になったのか?」
(昨日まで、あの女は文句ばかり言っていたくせに……)
『こんなもの食べられないわ』
『シャワーぐらい浴びさせてよ』
『呼び捨てにするんじゃないわよ。アンジェリカ様と呼びなさい』
(とにかくうるさい女だったのだが……。それにさっきの感謝の言葉にはトゲがなかった。本当に「ありがとう」と感謝を言ったのかもしれない)……とほんの少しだけギブソンの頭をよぎった。
牢番のギブソンが姿を消した後、パンを食べながら周りを観察し、水を飲むエリザベス。
見慣れない石造りの天井。湿った空気と、鼻につくカビの匂い。硬い藁の寝床。そして簡易トイレ。
(昨日まで、ウィルと一緒に屋敷の寝室にいたはずなのに……)
パンを噛み締めながら、これは夢じゃなく現実だと悟る。
(ここは、異世界……なのかしら?お祖父様から聞いたことがある。今住んでいる世界とは違う世界が、この世にはあるんだと、そう言っていた)
(この体の本当の持ち主、アンジェリカはなぜ投獄されたのか、それが知りたい。次、ギブソンが来たら聞いてみよう。教えてくれるかは分からないけど……聞くだけ聞いてみよう)
壁に開いた小さな鉄格子から外を窺い知ることができた。先程までは空が見えたのにもう真っ暗だった。
「すると、今食べているこの硬いパンが……晩ごはん……?家畜の餌と間違えているのでは?」
❖
翌朝、エリザベスは、牢の前に牢番が立っているのに気がついた。ギブソンはウィルと同じで端正な顔立ちだが、冷たい表情をしていた。
「目を覚ましましたか、アンジェリカ」
無駄と思いながらも真実を言ってみる。
「 エリザベス。私はエリザベスよ」
男は眉一つ動かさない。
「エリザベス?ふん、今更他人を装うつもりか?この悪女めが」
「ねぇ、ここの粗末な食事で栄養不足なのか、記憶があやふやなの。私が何をしてここに入れられたのか教えてくれない?」
牢番がにやりと笑う。
「面倒くさい女だな。お前はよりにもよって王太子妃ロミン様を毒殺しようとした。だからここにいるんだ、アンジェリカ」
「私はエリザベスです!毒殺? 私はそんなこと知らないわ!」エリザベスは必死に否定したが、男の目は冷たいままだった。
( 毒殺未遂? 一体アンジェリカはなんてことしてるのよ!)
エリザベスの頭の中には、「アンジェリカ」に関する記憶は一切なかった。ただ、自分がこの世界の「アンジェリカ」という人物の身体に入り込んでしまったことだけは理解した。
(ウィルはどこにいるの?私だけがこの世界にやって来たっていうの?)
0
あなたにおすすめの小説
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる