《完結》初夜に異世界へ飛ばされた二人は、囚人と牢番になっていた。

ぜらちん黒糖

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②毒殺未遂の悪女、アンジェリカ

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​エリザベスは牢番の顔を見つめたまま考えを巡らせた。

(この男の私を見る目には優しさが微塵も感じられない)

改めて自分の服装を見てみる。くたびれた囚人服を着て、裸足で立っていた。地面が冷たくて足裏が冷える。

「食事だ。ありがたく食べるんだな」

牢番はトレーを鉄格子の前に置いた。皿もなくトレーに直に置いてあった。パンと水が乗っていた。

エリザベスはとにかく出された食事を食べることにする。

「ありがとう」そう言って手を伸ばしてパンを掴み、ちぎって口に入れるエリザベス。

牢番は不思議そうな顔をして「ふん」と鼻を鳴らして立ち去った。

ギブソンはパンを食べているアンジェリカをチラ見して、そのまま詰め所へ戻った。

「あいつ、『ありがとう』って言いやがった。気でも変になったのか?」

(昨日まで、あの女は文句ばかり言っていたくせに……)

『こんなもの食べられないわ』
『シャワーぐらい浴びさせてよ』
『呼び捨てにするんじゃないわよ。アンジェリカ様と呼びなさい』

(とにかくうるさい女だったのだが……。それにさっきの感謝の言葉にはトゲがなかった。本当に「ありがとう」と感謝を言ったのかもしれない)……とほんの少しだけギブソンの頭をよぎった。

牢番のギブソンが姿を消した後、パンを食べながら周りを観察し、水を飲むエリザベス。

​見慣れない石造りの天井。湿った空気と、鼻につくカビの匂い。硬い藁の寝床。そして簡易トイレ。

(昨日まで、ウィルと一緒に屋敷の寝室にいたはずなのに……)

パンを噛み締めながら、これは夢じゃなく現実だと悟る。

(ここは、異世界……なのかしら?お祖父様から聞いたことがある。今住んでいる世界とは違う世界が、この世にはあるんだと、そう言っていた)

(この体の本当の持ち主、アンジェリカはなぜ投獄されたのか、それが知りたい。次、ギブソンが来たら聞いてみよう。教えてくれるかは分からないけど……聞くだけ聞いてみよう)

壁に開いた小さな鉄格子から外を窺い知ることができた。先程までは空が見えたのにもう真っ暗だった。

「すると、今食べているこの硬いパンが……晩ごはん……?家畜の餌と間違えているのでは?」





翌朝、​エリザベスは、牢の前に牢番が立っているのに気がついた。ギブソンはウィルと同じで端正な顔立ちだが、冷たい表情をしていた。

「目を覚ましましたか、アンジェリカ」

無駄と思いながらも真実を言ってみる。

「 エリザベス。私はエリザベスよ」

​男は眉一つ動かさない。   

「エリザベス?ふん、今更他人を装うつもりか?この悪女めが」

「ねぇ、ここの粗末な食事で栄養不足なのか、記憶があやふやなの。私が何をしてここに入れられたのか教えてくれない?」

牢番がにやりと笑う。
「面倒くさい女だな。お前はよりにもよって王太子妃ロミン様を毒殺しようとした。だからここにいるんだ、アンジェリカ」

​「私はエリザベスです!毒殺?  私はそんなこと知らないわ!」エリザベスは必死に否定したが、男の目は冷たいままだった。

​( 毒殺未遂? 一体アンジェリカはなんてことしてるのよ!)

​エリザベスの頭の中には、「アンジェリカ」に関する記憶は一切なかった。ただ、自分がこの世界の「アンジェリカ」という人物の身体に入り込んでしまったことだけは理解した。

(ウィルはどこにいるの?私だけがこの世界にやって来たっていうの?)

    
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