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⑩密閉された真実
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「毒殺事件のあった日を覚えているでしょう?」
ロミンが尋ねた。すぐに答えるアンジェリカ。
「ええ、王宮の一室で開かれた茶会だったわ」
ゆっくりと歩き出すロミンがアンジェリカの目の前で立ち止まる。
「そう。その時、私のテーブルには私とアンジェリカ、他に三人のご令嬢がいた」
「そしてその三人のご令嬢がお化粧室へ行った時、事件は起きた」
「メイドのエメルダが運んできた紅茶をあなたの前に二つ置いた。それをあなたがそのうちの一つを私に渡した。そしてその紅茶に毒が入っていた」
「私があの時、たまたまその紅茶を持ちそこね、テーブルに倒してしまった。こぼれた紅茶のカップには溶けかけの錠剤が残っていた」
「あの場所にはエメルダはおらず、私とあなたしかいなかった」
「だから私はあなたがやったと決めつけて、すぐにこの錠剤を薬師に調べさせた。結果は毒だった」
「うふふふ、それであなたは今ここにいるのよ」
「だけど、私はやってないわ」
「ええ、その通り。やったのはエメルダだったのよ」
「え?紅茶を持ってきたメイドが?」
「私もね、最初はあなたを疑ったの。でもあなたが私を毒殺なんてするはずがない。あなたは私を恨んでなんかいないものね。まぁ眼中にないと言ったほうがいいのかしら?」
「それでもあなたはすぐに投獄された。いい気味だと思ったわ」
「その夜、私はエメルダを問い詰めた。エメルダに紅茶をご馳走してね。で、毒殺事件の話をしたの」
❖
「エメルダ、今飲んだ紅茶は美味しい?」
「え?はい、とても美味しいです」
「良かった。毒が入ってても美味しく飲めるものなのね」
「!」
慌ててカップをテーブルに置くエメルダ。
ロミンは手に小瓶を持っていた。
「これ解毒剤。正直に言えばあげるけど?」
「な、何をお聞きになりたいのですか?」
「あなたが毒殺をしようと思ったのは私?アンジェリカ?どちらなの?」
「そ、それは……」
「私なんでしょ?わざとアンジェリカの前にカップを二つ置いて、アンジェリカに毒入りカップを私に差し出させようとしたのね?エメルダ」
「そうです。アンジェリカ様に罪をかぶってもらうようにカップを並べました」
「それでどうして私を殺そうとしたの?」
「それは……」
ロミンが解毒剤をテーブルに少しこぼす。
「解毒剤、なくなりますよ?早く正直に言わないと」
「あなたが私をイジメたからです」
「はぁ?そんな理由で私を殺そうとしたの?」
「そんな理由って、私にはとても苦しかったんです」
「そんなに苦しければメイドをやめれば良かったじゃない」
「やめるわけにはいかないんです。私は実家に仕送りをしないといけないんですから」
そこでエメルダがふらつき始める。
「ロミン様……解毒剤を……」
ロミンが側にあった箱を指差し、「エメルダ、誰か来たみたいよ。少しの間この箱に入って隠れていてくれる?はい、これ解毒剤」
エメルダは解毒剤を受け取ると自ら箱の中へ入った。
「少しの間辛抱してね」
そう声をかけてロミンは箱に蓋をして空気が漏れないようにきつく紐で縛った。エメルダに手渡した解毒剤はただの水だった。ほんの暫くの間、中で暴れる音がしたがいつの間にか静かになった。エメルダは密閉された箱の中で毒と酸欠で苦しんで死んだ。
❖
ロミンはまるで自慢でもするように話し始めた。
「そしてその箱を城の保管庫に隠したの。メイドたちに運ばせてね」
「まさか人間の死体が、保管庫に置いてあるだなんて誰も思わないでしょう?」
「だけどもうそろそろ運び出さないと、匂いが漏れ出すと、困るから……私が」
「あなたの処刑が済んだら運び出して川にでも捨てるつもりよ。今日はあなたは処刑されるから、箱を運び出すのは明日かな」
黙って聞いていたアンジェリカはもう口を開く元気もなかった。
(なんてことを……この女は…)
その時、出口へ向かう途中の通路の壁が大きな音とともに動き始めた。
突然のことに驚くロミンとアンジェリカが壁を見つめていると、壁に開いた穴から、王太子グラットが衛兵と共に現れた。
ロミンが尋ねた。すぐに答えるアンジェリカ。
「ええ、王宮の一室で開かれた茶会だったわ」
ゆっくりと歩き出すロミンがアンジェリカの目の前で立ち止まる。
「そう。その時、私のテーブルには私とアンジェリカ、他に三人のご令嬢がいた」
「そしてその三人のご令嬢がお化粧室へ行った時、事件は起きた」
「メイドのエメルダが運んできた紅茶をあなたの前に二つ置いた。それをあなたがそのうちの一つを私に渡した。そしてその紅茶に毒が入っていた」
「私があの時、たまたまその紅茶を持ちそこね、テーブルに倒してしまった。こぼれた紅茶のカップには溶けかけの錠剤が残っていた」
「あの場所にはエメルダはおらず、私とあなたしかいなかった」
「だから私はあなたがやったと決めつけて、すぐにこの錠剤を薬師に調べさせた。結果は毒だった」
「うふふふ、それであなたは今ここにいるのよ」
「だけど、私はやってないわ」
「ええ、その通り。やったのはエメルダだったのよ」
「え?紅茶を持ってきたメイドが?」
「私もね、最初はあなたを疑ったの。でもあなたが私を毒殺なんてするはずがない。あなたは私を恨んでなんかいないものね。まぁ眼中にないと言ったほうがいいのかしら?」
「それでもあなたはすぐに投獄された。いい気味だと思ったわ」
「その夜、私はエメルダを問い詰めた。エメルダに紅茶をご馳走してね。で、毒殺事件の話をしたの」
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「エメルダ、今飲んだ紅茶は美味しい?」
「え?はい、とても美味しいです」
「良かった。毒が入ってても美味しく飲めるものなのね」
「!」
慌ててカップをテーブルに置くエメルダ。
ロミンは手に小瓶を持っていた。
「これ解毒剤。正直に言えばあげるけど?」
「な、何をお聞きになりたいのですか?」
「あなたが毒殺をしようと思ったのは私?アンジェリカ?どちらなの?」
「そ、それは……」
「私なんでしょ?わざとアンジェリカの前にカップを二つ置いて、アンジェリカに毒入りカップを私に差し出させようとしたのね?エメルダ」
「そうです。アンジェリカ様に罪をかぶってもらうようにカップを並べました」
「それでどうして私を殺そうとしたの?」
「それは……」
ロミンが解毒剤をテーブルに少しこぼす。
「解毒剤、なくなりますよ?早く正直に言わないと」
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「はぁ?そんな理由で私を殺そうとしたの?」
「そんな理由って、私にはとても苦しかったんです」
「そんなに苦しければメイドをやめれば良かったじゃない」
「やめるわけにはいかないんです。私は実家に仕送りをしないといけないんですから」
そこでエメルダがふらつき始める。
「ロミン様……解毒剤を……」
ロミンが側にあった箱を指差し、「エメルダ、誰か来たみたいよ。少しの間この箱に入って隠れていてくれる?はい、これ解毒剤」
エメルダは解毒剤を受け取ると自ら箱の中へ入った。
「少しの間辛抱してね」
そう声をかけてロミンは箱に蓋をして空気が漏れないようにきつく紐で縛った。エメルダに手渡した解毒剤はただの水だった。ほんの暫くの間、中で暴れる音がしたがいつの間にか静かになった。エメルダは密閉された箱の中で毒と酸欠で苦しんで死んだ。
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ロミンはまるで自慢でもするように話し始めた。
「そしてその箱を城の保管庫に隠したの。メイドたちに運ばせてね」
「まさか人間の死体が、保管庫に置いてあるだなんて誰も思わないでしょう?」
「だけどもうそろそろ運び出さないと、匂いが漏れ出すと、困るから……私が」
「あなたの処刑が済んだら運び出して川にでも捨てるつもりよ。今日はあなたは処刑されるから、箱を運び出すのは明日かな」
黙って聞いていたアンジェリカはもう口を開く元気もなかった。
(なんてことを……この女は…)
その時、出口へ向かう途中の通路の壁が大きな音とともに動き始めた。
突然のことに驚くロミンとアンジェリカが壁を見つめていると、壁に開いた穴から、王太子グラットが衛兵と共に現れた。
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