《完結》恋した天使は一途でございます。

ぜらちん黒糖

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第一章

①転校生

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王立学園中等部3年1組

「えー、今日このクラスに転校してきた生徒がいます」

担任のドンス先生が廊下に向かって、その生徒を呼んだ。

「君、こっちに来てくれる?」

先生が手招きをすると一人の男子生徒が教室に入って来た。

先生の隣に立つ生徒を見て

「彼はバルガンス・ゴッド君だ。みんな、仲良くしてやってくれ」

先生はバルガンスに

「君、自己紹介をしてくれるかな?」

「はい、先生」

バルガンスはゆっくりと教室を見回して一点を見る。

「今紹介に預かりましたバルガンス・ゴッドです。僕はこんな大きな学校へ通うのが初めてになりますので、少し頓珍漢な事をしてしまうかも知れませんが、どうぞよろしくお願いします」

そう言ってバルガンスはお辞儀をした。

パチパチパチと拍手が起こりニッコリと笑うバルガンス。

先生はバルガンスをどこに座らせようかと教室を見た。

(うーん、ヒナシス・グディンネの隣しか空いていないのか……)

「ふーっ……」

先生がため息をついて転校生に声をかける。

「ゴッド君、君の席は……一番後ろのあの……空いている席に座って下さい」

バルガンスは空席を見つめ「はい、先生」と言ってその席に向かう。

言われた通りの席に座ったバルガンス。

隣の席に座っている女子生徒ヒナシスに声をかける。

「バルガンス・ゴッドです。よろしく」

「……」

(聞こえてないのかな?)

「バルガンス・ゴッドです。よろしく」

「……」

(僕の声が小さいのか、無視をされているのか……)

「バルガンス・ゴッ」「聞こえてるよ!1回言えばわかるよ!」

ヒナシスがバルガンスの言葉を遮る。

慌てて先生が、

「こらグディンネ!静かにしなさい」

ヒナシス・グディンネは立ち上がり、バルガンスを睨んだ。

「お前のせいで叱られた」

小さな声でそう言うとヒナシスは教室から出て行った。

慌ててドンス先生がヒナシスを追いかける。

「コラ!グディンネ、待ちなさい!」

先生は廊下まで出たが、ヒナシスを追い掛けはしなかった。

(これで何回目なんだろうな……ヒナシスが教室を出ていくの……俺、もう疲れたよ)

ドンスは生徒の手前、ヒナシスを追いかけるふりはしたが……

(どうせ追いかけても戻って来ないしな……)

「ほんとにしようのない奴だ」

(また明日注意をしておこう。それでいいや)

先生は教室の戸を締めるとそう心の中で呟いた。



ヒナシス・グディンネは学校を早退した後、街をぶらついて外が暗くなる前に屋敷に帰った。

グディンネ男爵家は父のハルプ・グディンネとヒナシスの二人しかいない。男爵家とは名ばかりで領地も所有しておらず、父ハルプの日雇いの仕事でなんとか生活をしている。

ただ、男爵という貴族の爵位を持っているだけだった。

玄関を開けて中に入ると、ちょうど父ハルプが外出するところに出くわした。

「ただいま戻りました。父上」

「ああ、おかえりヒナシス」

「お仕事ですか?」

「ああ、今から酒場の用心棒だ」

ハルプはヒナシスを軽くハグしてお金を手渡す。

「すまないな、これで晩御飯を食べてくれ」

そう言うとハルプは出て行った。

暫くの間、椅子に座って休憩をしていたヒナシスは立ち上がり、

「さて、晩御飯でも食べに行くかな」

屋敷を出て通りに出たところでヒナシスは声をかけられる。

「やあ、こんばんは」

ヒナシスが振り向くと今朝、転校してきたバルガンスが立っていた。

「……」

「ここ、君の家なんだ、大きいね」

返事もせずヒナシスがそのまま通り過ぎようとするとバルガンスが話しかけてきた。

「僕、隣に引っ越してきたバルガンス・ゴッドです」

隣に引っ越してきた人とわかって少し戸惑うヒナシス。

「あ、あー、お前だったのか、誰か引っ越して来たなとは思っていたけど」

「うん……あの……君は今からどこかへ出かけるところだったの?」

「……」

「よかったら、これ一緒に食べない?」

「え?」

「ちょっと買いすぎちゃって」

ヒナシスはバルガンスが持っていた布袋の中を覗く。

「お、美味そうなお弁当……」

つい口に出してしまい、なんだかはしたない女の子のように思われたんじゃないかと少し耳を赤くする。

「ねえ、一緒に食べようよ、うちで」

「え?」

「僕、一人暮らしだから、一人でご飯を食べてもね、あんまり楽しくないし」

どうしようかと一瞬悩むヒナシスだったが、朝のバルガンスに対する自分の態度を思い出し口ごもる。

バルガンスが口を開く。

「まだ、君にちゃんと挨拶していなかったし……それにさ、教室の席も、家も、どっちもお隣さんなんだよ?仲良くしようよ、ね?」

そこまで言われちゃ仕方がないなという表情でヒナシスが返事をする。

「わかったよ、でもお金はちゃんと払うからな」

「うん」


二人はヒナシスの屋敷の隣に建っている平屋の一軒家に入った。

家の中にはほとんど家具や荷物もなく、殺風景な眺めだった。

「うちも似たようなもんだけどさ、 お前んちも大変そうだな」

ヒナシスが食卓に座ってお弁当を食べながらバルガンスに言った。

「ところでなんでお前、一人で暮らしているんだ?」

「僕の父上と母上は事故でなくなったんだ。二人が乗っていた馬車が崖から落ちてね」

「あ……ごめん。嫌なこと聞いて」

「ううん、気にしないで」

「バルガンスも貴族なのか?」

「一応ね、爵位は伯爵なんだけど、ほとんど平民と変わらないよ?」

「うちとおんなじだよ。」

「貧乏貴族って結構辛いよね」

「全く」

お弁当を食べ終わったヒナシスがバルガンスに銅貨を渡す。

「はい、これお弁当代」

「え?いいよ」

「受け取れよ、お前だって貧乏なんだろう?」

「あー、うん、じゃあ、ありがたくいただくよ」

ヒナシスは立ち上がると

「お前の名前ちょっと長い、『バル』って呼んでいいか?」

「うん」

「じゃあ私のことは『ヒナ』って呼んでくれ。ヒナシスでもいいけどさ」

「ううん、ヒナって呼ぶよ」

「そっか……あ、それから今朝は挨拶しなくて悪かったな、ごめん」

「気にしてないよ」

「じゃあ……私は帰る」

「うん、良かったらまた一緒にご飯食べようね」

「ああ、じゃあなバル」

「じゃあねヒナ」

ヒナシスが帰った後の部屋で一人たたずみヒナシスの残り香を嗅ぐバルガンス。

「うーん、これがヒナシスの匂いか……」

「いい匂いだ」


バルガンスは天界での神様とのやり取りを思い出していた。

「神様、どうか私の願いを叶えてください」

「本気なのか?」

「はい、私は彼女と共に生きてみたいのです」

「人間には寿命があるのだぞ?」

「承知しております」

「お前も死ぬのだぞ?」

「承知しております」

「一体あの人間のどこが気に入ったのじゃ?」

「わかりません。彼女を見た瞬間に胸の鼓動が早くなり、ときめいてしまったのです……それだけなのです」

神様は……やれやれ……とでもいうように、

「一目惚れか、まあいいだろう。希望を叶えてやる。ただし条件がある」

「はい、条件とは何でしょうか?」

「必ず幸せになること」

予想外の神様の言葉に感激する天使。

「お前には天使の能力を与えたままにしておくから、困った時は使うと良い」

「神様、ありがとうございます」

「それとクロちゃんをお前につけてやる」

「クロ……ちゃん?」

「使い魔じゃ、何かあればクロちゃんの方から近づいて来るじゃろう。普段は陰ながらお前を守るように言っておくから」



バルガンスは部屋の中で

「確か黒い霧状の人間のような魔物と聞いているが……」

バルガンスは試しに、

「クロちゃん……クロちゃん?」

「挨拶をしたいんだがちょっと出て来てくれないか?」

と呼んでみたがクロちゃんは出てこなかった。

「出て来ないか……まあ、クロちゃんが一生出て来ないほうが幸せということになるのかな……」
    
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