《完結》恋した天使は一途でございます。

ぜらちん黒糖

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第二章

⑬最終回

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月日が経つのは早い。

夜会に出席してもう数十年が経とうとしていた。

二人とも70歳になっていた。

ヒナシスは木漏れ日の差し込む病室の中で、ベッドに横たわっている。

隣にはこれまでと同じく傍にバルガンスが椅子に座っていた。

小さな声でバルガンスに話しかけるヒナシス。

「バル……」

すぐにヒナシスの呼びかけに応答するバルガンス。

「お水がほしいのかい?」

バルガンスはヒナシスに水差しを唇に挟み水を飲ませてあげる。

美味しそうに水を飲んで微笑むヒナシスを見てバルガンスが尋ねる。

「美味しかった?」

「うん、ありがとう」

「礼なんていらないよ、さ、疲れただろう?少し休もうかヒナ」

ヒナシスは言われたとおりに目を瞑り静かに息をした。

眠りについたと思ったバルガンスが席を立ち部屋を出ようとした時、ヒナシスが口を開く。

「バル……」

バルガンスはまた椅子に座り直して優しくヒナシスを見つめる。

ヒナシスがゆっくりと話し始めた。

「私…バルと出会えてほんとに良かったと思ってる」

「うん」相槌を打つバルガンス。

「初めてあなたが教室に現れた時……素敵な人だと思ったの」

「……」

「となりの席に座ったバルが私に挨拶をしてくれて…本当は返事を返したかったんだけど…できなかった」

無言で聞き入るバルガンス。

「だって、あの頃の私はクラスの問題児だったから、そんなすぐに素直に返事をするなんてできなかったの……だから無視をしたのに、バルったら私の気も知らないでしつこくて……困っちゃったわ」

「就職しか頭になかった私に進学を勧めてくれて……勉強も教えてくれて……嬉しかった」

「高等部も大学部もそして王立図書館での仕事も……本当に楽しかった」

「そしてあなたと結婚した」

「生まれて初めての夜会にも行った……楽しかった」

「ふふふ、あの打ち上げ花火、素敵だったねバル」

バルガンスが返事をする。

「うん、あのときはびっくりしたよ、気がつくとヒナが花火に火をつけようとしていたんだから」

「ふふ……ごめんねびっくりさせて……でも幸せ過ぎると時間が経つのは早いものね」

「今日まで本当に幸せだったわ」

バルガンスがその言葉に反応する。

「どうしたんだよ、ヒナ。 急に弱気になって」

「昨日夢を見たの……」

「夢って……どんな夢?」

「私の枕元に女の人が立っていてその人がね、こう言ったの」

「『バルガンスに最後の挨拶をしておきなさい……』って可笑しいでしょ?その女の人……夜会のフローラ様に似ていたわ」

バルガンスは全てを察してヒナシスの手を握った。

「バル……今までどうもありがとう……私…とても幸せだった」

「ヒナ、僕からも言わせてくれ」

「な……に?」

「君とずっと一緒にいられて僕も幸せだったよ、ありがとうヒナ」

ヒナシスが薄目を開けてバルガンスを見る。

「愛してるわバル……」

ヒナの目から涙が伝った。

「さよなら……バル」

ヒナシスはゆっくりと目を閉じて……ヒナシスの呼吸が止まった。

バルガンスの目から涙があふれた。

「ヒナ……」


ヒナシスとバルガンスの二人を木漏れ日が優しく照らしていた。



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