《完結》伯爵令嬢は怨霊になり、復讐を果たす。ーーしかし彼女を裏切った男は、怨霊よりも恐ろしい妻に出会う。

ぜらちん黒糖

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第三章

⑯悪夢、再び・・・

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キャサリンを見た瞬間、デビンの胸に過去の恐怖が渦巻き始める。

だが、彼女は以前の強気な面影を失い、涙ながらにデビンに懇願した。

「デビン…お願い。戻ってきて……お父様もあなたを待っているわ」

顔をこわばらせて聞き返すデビン。

「父上が?まさか……」

「本当よ、あなたはまだエバンス伯爵家の次期当主になってるの。お父様はまだあなたと養子縁組を解消していないのよ」

「そ、そんな……では私は君とはまだ夫婦なのか?」

キャサリンがやつれた顔で頷いた。

香水の匂いがデビンを包み込むように過去へと引き戻す。

「どうして私なんかを待つんだ。離縁届けも、爵位返上届けにもサインして置いてきたじゃないか」

デビンの目から涙がこぼれ落ちた。心からの願いが口に出る。

「頼むよ。私を解放してくれキャサリン……」

その時、店のドアが開き、リンダが戻ってきた。

「ただいま、デビン」

涙を流すデビンと、やつれた顔のキャサリンがリンダを見た。

リンダが不思議そうに尋ねる。
「どうかしたの?デビン」

キャサリンの表情が一変した。
憔悴しきっていた顔から、昔のヒステリックで激しい目つきに戻る。

「デビン、この女のせいね?この女のせいであなたは戻ってこないのね?」

キャサリンはいつのまにか手にしていたナイフを持ち、立ち上がり叫んだ。

「デビン!私がその迷いの元を断ってあげるわ!」

叫び声と共に、キャサリンはリンダに襲いかかった。

右手に光るナイフを握りしめ、リンダめがけて振り下ろされた瞬間、デビンはとっさにリンダをかばい、その背中で刃を受け止めた。

 ​「ぐっ!」

デビンの背中に突き刺さるナイフ。シャツに、じわりと血が滲みでる。

「キャアーーー!デビンー!」と叫び、デビンを支えながら座り込むリンダ。

それを見たキャサリンは、まるで張りつめていた糸が切れたかのように、その場にへたり込み気を失って倒れた。

そこに、娘を追いかけてきたエバンス伯爵が勢いよく扉を開けて現れた。

血を流すデビン、意識を失ったキャサリン、そして呆然とデビンを支えたままのリンダ。

その光景に一瞬焦った伯爵だったが
すぐにデビンの背中を見て駆け寄った。

「デビン、しっかりしろ!」

伯爵はゆっくりと背中からナイフを引き抜き、持っていたハンカチで傷口を抑えた。




騒ぎを聞きつけた人たちが 店の中に入ってきた。すぐにデビンは病院に運ばれ手当を受けた。

傷は折りたたみナイフのせいでさほど深くは刺さっていなかった。

病室でうつ伏せになって休んでいるデビンの元に、警備隊が取り調べにやってきた。

だがすぐにエバンス伯爵が対応した。

「これは我がエバンス伯爵家の身内の揉め事である。ただの痴話喧嘩だ。お引き取り願いたい」

そう言って取り調べに来た隊員のポケットに金貨を3枚入れた。

ポケットの中で金貨が重なり合う音が聞こえ、一瞬困惑した表情をした隊員はすぐに切り替え、返事をした。

「そうか、わかった。これからはあんまり暴力沙汰は控えるように。いいな!」

警備隊はそのまま引き下がり帰って行った。

ベッドで横になるデビンに向かって エバンス伯爵が声をかけた。

「デビン、起きているのか?」
「……はい」
「すまなかったな、デビン。キャサリンを許してやってくれないか」
「……」

「リンダさんから全てを聞いたよ。娘が君を束縛して苦しめていたようだな。私はてっきり娘が君にベタ惚れで世話を焼いてるだけかと思っていたんだ」

「……」

「屋敷に戻ったらすぐに離縁届けと 爵位返上届けを国に提出する。受理されればそこで君との養子縁組は解消される」

伯爵は無言のままのデビンをそのままにして部屋を出て行こうとした。その時、痛む背中を我慢しながらデビンが起き上がった。

「父上……、いえ、エバンス伯爵様。本当に申し訳ございませんでした。逃げ出したりして本当に……すみませんでした」

エバンス伯爵はそのまま返事もせずに病室を出て行った。入れ替わるようにリンダが入ってきた。かすかにコーヒーの香りがした。

「デビン…」
「リンダ……情けないだろう……私って」

リンダはデビンの手を握る。

「ううん、そんなことない。私をかばってくれたじゃない」

「リンダ……私は正式に独身に戻ったよ」

「……」

「この三年間ずっと君のそばで暮らしていたが、はっきりと分かった。君は私にとって大切な人だ。こんな私でよければ結婚してほしい」

デビンの体から背中に塗られた薬草の匂いがリンダの鼻を困らせた。

リンダは涙をこらえるようにデビンに返事をした。

「一緒に、これからもずっと一緒に……暮らしていこうね、デビン」

一ヶ月後、デビンは無事退院した。この街に来た時に、休憩室で寝かせてもらっただけで、その後はずっと安宿に泊まり、リンダの店に仕事をしに通っていたのだ。

二人はやっと店の二階で一緒に暮らすことになったが、傷はまだ完全には治っていない。

昔のデビンならそんな状態でも、もうとっくにリンダに手を出していただろう。

しかしキャサリンとのことで、女性とすぐに親密な関係になるのは不幸を招くと身にしみて感じていたせいか、リンダとの関係は清らかなまま保たれていた。

だが、そんな二人の穏やかな日々に新たな影が落ちようとしていた。

店の扉が開いて一人の若い男性客が入ってきた。金髪の長い髪の毛を後ろで結び物腰の柔らかそうな表情をしていた。

どうやら、デビンの過去の精算はまだ終わってはいなかったようだ。







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