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第四章
⑱娘の婿探し
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フリスク・エバンス伯爵は娘のキャサリンが不憫でならなかった。
娘がデビンと結婚した時、本当に幸せそうな、素晴らしい笑顔をしていた。
だが新婚旅行から帰ってきてからがなんとなく婿殿の様子がおかしかった。
デビンが娘に対して顔色をうかがうような態度を示していたが、それは娘を思う優しさだと思っていた。
娘の視線は絶えずデビンに向かっていた。仲のいい夫婦にしか見えなかったのだが……。
伯爵の机の上には社交パーティー、 夜会、仮面舞踏会、などの招待状が束になっていた。コーヒーカップと同じ高さになっている。
これらの招待状は娘とお近づきになりたくてよこした招待状ではない。キャサリンを見世物にするための招待状だ。
貴族界でエバンス伯爵家の娘といえば、恐妻家の怖い女で有名になっていた。
そんなエバンス伯爵の傍らに立っていた執事のスロットルが声をかけた。
「旦那様、キャサリンお嬢様の性格は生まれ持ってのもの、治ることはございません」
伯爵は少しイラついたように机を指で叩きながらスロットルを睨んだ。
「お前、はっきり言うなぁ……」
スロットルはデビンが逃げ出した後に伯爵家が雇った執事だった。
デビンが婿養子を目的にキャサリンに近づいたように、この執事もキャサリンに近づくためにこの伯爵家に入ったのだ。
だがひとつデビンとは違うことがあった。
この執事スロットルはキャサリンのことを本気で愛していたのだ。
スロットルが真面目な表情で伯爵に言った。
「私にお嬢様をくださいませんか?」
コーヒーカップを掴もうとした伯爵の指がカップを掴みそこねる。
「あ」と小さな悲鳴を上げてコーヒーカップを慌てて両手で押さえて更に声を上げる。
「え?えーーーーーーーーっ!」
執事の言葉に驚愕の表情をする伯爵から声が漏れる。
「キャサリンと結婚したいと?そう言っているのか?」
「はい。旦那様」
伯爵は立ち上がると窓を開けた。そよ風が庭に咲く草木の香りを乗せて部屋に入り込む。その空気を吸い込むと伯爵はスロットルから目をそらしたまま熟考する。
(スロットルと娘が……結婚だと?)
(キャサリンも25歳になっているし、スロットルは28歳。釣り合いは取れているが……だがしかし……執事だぞ?)
伯爵はニヤリと笑った。
(悪くはないかもしれない。スロットルはメネセル公爵家の八男。公爵様の血を引いている……まぁ、母親は平民出の使用人だったと聞いているが……)
窓は開けたままで席に戻り、スロットルに尋ねた。
「伯爵になりたいのか?スロットル」
「はい、旦那様」
「娘と結婚したいのは伯爵になりたいからか?」
「それもあります」
「それも?他には?」
「キャサリンお嬢様を、お慕いしております」
伯爵は少し感動していた。『好きです』とか『愛しています』ではなく『お慕いしています』と言ったことに。
「お慕いしています……か。いい言葉だ」
スロットルが口を開く。
「私がこのお屋敷に来たのは、ちょうどデビン様が家出をなさってからでございました」
「それから今日までお嬢様を拝見しておりました。一人の男性に想い焦がれるキャサリン様を見ていて、いじらしく、可憐で、吹けば折れてしまうのではないかと思うほどやつれてしまわれたお嬢様は……美しかった」
恍惚の表情でそう答える執事を見つめて聞き返す。
「スロットルよ。見た目は確かにそうだ。だが、娘の性格は束縛力が強くて愛情の押しつけが度を越えているが、いいのか?」
「問題ありません。むしろ大歓迎です」
「……ふーん。しかし、親の権限で無理やりお前と添わせるのは嫌だぞ?」
スロットルが開け放たれた窓の前に立ち、伯爵に声をかける。
「旦那様、少し寒くなってまいりました。窓をお閉めしてもよろしいですか?」
「ああ」
伯爵はコーヒーの香りを楽しみながらゆっくりと飲んだ。
窓を閉めてスロットルが言った。
「旦那様、私に一ヶ月ください。一ヶ月でお嬢様を口説いて見せます」
「大きくでたな、スロットル。婿の宛てもないし……いいだろう。お前に一ヶ月やろう。口説き落として見せろ。その時は娘との結婚を認めよう」
スロットルが伯爵の机の上に置かれている招待状の束を手に取ると中から一つつまみ上げ、伯爵の目の前に置いた。
「旦那様、その招待を受けてください」
伯爵はその封筒を手に取り手紙を取り出した。
「……メネセル公爵家…お前の実家ではないか……ん?」
スロットルが伯爵に促した。
「メネセル公爵家で開かれる仮面舞踏会に、お嬢様を出席させてください、旦那様」
娘がデビンと結婚した時、本当に幸せそうな、素晴らしい笑顔をしていた。
だが新婚旅行から帰ってきてからがなんとなく婿殿の様子がおかしかった。
デビンが娘に対して顔色をうかがうような態度を示していたが、それは娘を思う優しさだと思っていた。
娘の視線は絶えずデビンに向かっていた。仲のいい夫婦にしか見えなかったのだが……。
伯爵の机の上には社交パーティー、 夜会、仮面舞踏会、などの招待状が束になっていた。コーヒーカップと同じ高さになっている。
これらの招待状は娘とお近づきになりたくてよこした招待状ではない。キャサリンを見世物にするための招待状だ。
貴族界でエバンス伯爵家の娘といえば、恐妻家の怖い女で有名になっていた。
そんなエバンス伯爵の傍らに立っていた執事のスロットルが声をかけた。
「旦那様、キャサリンお嬢様の性格は生まれ持ってのもの、治ることはございません」
伯爵は少しイラついたように机を指で叩きながらスロットルを睨んだ。
「お前、はっきり言うなぁ……」
スロットルはデビンが逃げ出した後に伯爵家が雇った執事だった。
デビンが婿養子を目的にキャサリンに近づいたように、この執事もキャサリンに近づくためにこの伯爵家に入ったのだ。
だがひとつデビンとは違うことがあった。
この執事スロットルはキャサリンのことを本気で愛していたのだ。
スロットルが真面目な表情で伯爵に言った。
「私にお嬢様をくださいませんか?」
コーヒーカップを掴もうとした伯爵の指がカップを掴みそこねる。
「あ」と小さな悲鳴を上げてコーヒーカップを慌てて両手で押さえて更に声を上げる。
「え?えーーーーーーーーっ!」
執事の言葉に驚愕の表情をする伯爵から声が漏れる。
「キャサリンと結婚したいと?そう言っているのか?」
「はい。旦那様」
伯爵は立ち上がると窓を開けた。そよ風が庭に咲く草木の香りを乗せて部屋に入り込む。その空気を吸い込むと伯爵はスロットルから目をそらしたまま熟考する。
(スロットルと娘が……結婚だと?)
(キャサリンも25歳になっているし、スロットルは28歳。釣り合いは取れているが……だがしかし……執事だぞ?)
伯爵はニヤリと笑った。
(悪くはないかもしれない。スロットルはメネセル公爵家の八男。公爵様の血を引いている……まぁ、母親は平民出の使用人だったと聞いているが……)
窓は開けたままで席に戻り、スロットルに尋ねた。
「伯爵になりたいのか?スロットル」
「はい、旦那様」
「娘と結婚したいのは伯爵になりたいからか?」
「それもあります」
「それも?他には?」
「キャサリンお嬢様を、お慕いしております」
伯爵は少し感動していた。『好きです』とか『愛しています』ではなく『お慕いしています』と言ったことに。
「お慕いしています……か。いい言葉だ」
スロットルが口を開く。
「私がこのお屋敷に来たのは、ちょうどデビン様が家出をなさってからでございました」
「それから今日までお嬢様を拝見しておりました。一人の男性に想い焦がれるキャサリン様を見ていて、いじらしく、可憐で、吹けば折れてしまうのではないかと思うほどやつれてしまわれたお嬢様は……美しかった」
恍惚の表情でそう答える執事を見つめて聞き返す。
「スロットルよ。見た目は確かにそうだ。だが、娘の性格は束縛力が強くて愛情の押しつけが度を越えているが、いいのか?」
「問題ありません。むしろ大歓迎です」
「……ふーん。しかし、親の権限で無理やりお前と添わせるのは嫌だぞ?」
スロットルが開け放たれた窓の前に立ち、伯爵に声をかける。
「旦那様、少し寒くなってまいりました。窓をお閉めしてもよろしいですか?」
「ああ」
伯爵はコーヒーの香りを楽しみながらゆっくりと飲んだ。
窓を閉めてスロットルが言った。
「旦那様、私に一ヶ月ください。一ヶ月でお嬢様を口説いて見せます」
「大きくでたな、スロットル。婿の宛てもないし……いいだろう。お前に一ヶ月やろう。口説き落として見せろ。その時は娘との結婚を認めよう」
スロットルが伯爵の机の上に置かれている招待状の束を手に取ると中から一つつまみ上げ、伯爵の目の前に置いた。
「旦那様、その招待を受けてください」
伯爵はその封筒を手に取り手紙を取り出した。
「……メネセル公爵家…お前の実家ではないか……ん?」
スロットルが伯爵に促した。
「メネセル公爵家で開かれる仮面舞踏会に、お嬢様を出席させてください、旦那様」
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