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第四章
㉒手のぬくもり、開かれた心
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包帯を取ったスロットルの背中は鞭の跡で皮膚が裂け、かなりひどい状態だった。
医師から指示された通りの塗り薬を背中に塗っていくキャサリン。
薬がしみて痛いはずなのに声をあげないスロットルを見てキャサリンの心が痛む。
「スロットル、私のためにごめんね」
「いいえ、お嬢様が謝る必要はございません。これは私の意思で勝手にやったことです」
「でも、どうしてそこまでするの?」
「……」
「言いたくなければ言わなくてもいいけど……」
キャサリンはそう話したが、表情は明るかった。
スロットルは翌日から執事の仕事に復帰した。
キャサリンが朝食のため食堂へ向かうとスロットルが父のそばに執事服を着て立っていた。
「まあ、スロットル、大丈夫なの?もう仕事を始めて」
「おはようございます。キャサリンお嬢様、体はもう大丈夫でございます。仕事に支障はございません」
「そう……でも、無理はしないでね」
スロットルは笑みを浮かべて返事をした。
「はい、お嬢様」
伯爵はなんとなく複雑な心境で食事をしていた。
(デビンと結婚する前のキャサリンは、あのような明るい表情をしていた……今娘はスロットルに心を開こうとしているのかもしれない)
(しかしこれは全てスロットルの作戦だからな……本当にこれで良かったのかどうかはまだ分からないが……)
❖
この日を境に二人は会話をすることが増えた。何も特別な会話ではない。ありふれた普通の会話である。
「ねえスロットル、今日はいい天気ね」
「さようでございますね、お嬢様」
「スロットル、私、テラスにいるからコーヒーと甘いお菓子を持ってきて」
「かしこまりました、お嬢様」
「スロットル、このネックレス、似合ってる?」
「はい、とてもお似合いです。お嬢様の、その白い肌にそのネックレスの輝きは、まさに合致いたします」
「ふふ、『合致いたします』だなんて、何かの研究論文みたいな言い方ね」
「そうですね。さしづめ研究論文の題名は『美しき令嬢の白い肌と宝石』になるのでしょうか……」
キャサリンは耳を赤らめて返事をした。
「スロットルは詩的な表現がお上手ね」
「私は本当のことを言ったまでのことです」
そう言ってスロットルはその場を離れていった。キャサリンは立ち去るスロットルの背中を、いつまでも見つめていた。
翌日、キャサリンはスロットルを連れて城下へ買い物に出かけた。しかしキャサリンはウィンドウショッピングをしているだけで、特別に何かを買うわけでもなかった。
外の日差しが強くなり、スロットルが自然に日傘を広げキャサリンにかざした。
「ありがとうスロットル」
「いいえ、お嬢様のその白い肌が、赤くなってからでは遅うございますから」
「それはどうも」
キャサリンはスロットルからの褒め言葉が嫌いではなかった。嫌いどころか心が和むような気持ちになる。
(スロットルは私のことをどう思っているんだろう)
「キャサリンお嬢様。たまには外でコーヒーでもお飲みになりませんか?この近くに最近できたのです。美味しいケーキもあるそうですよ」
「ケーキ……いいわね。そこへ入ってみましょうか」
「では、私がご案内いたします。足元をお気をつけください。ここから先は砂利道になりますので……あのお嬢様、もしもの時のために、手をつないでもよろしいでしょうか?」
「え?」
「お嬢様のそのヒールの高い靴では、つまずくかもしれませんから」
「……あ、はい」
「では失礼いたします」
スロットルが優しくキャサリンの左手を握った。スロットルの暖かい手がキャサリンの心を暖かくする。
「私の手、冷たいでしょう?スロットルのように温かい手じゃないのよ、私の手は」
「お嬢様。血の道を良くすれば血行も良くなり体中が温かくなるのです。よろしければ、私が薬草を煎じて毎晩お持ちいたしますが、いかがされますか?」
「……いいの?煎じるなんて面倒じゃないの?」
スロットルは歩を緩め、ほんの少しキャサリンの手を強く握りしめた。
「迷惑だなんてとんでもございません。キャサリンお嬢様が美しく、そして健康な体になられるのなら、私は努力を惜しみません」
「……スロットル」
そして小さな店のコーヒー店に入ると、窓際の席にキャサリンを誘導し座らせ、スロットルはコーヒーとケーキを数種類注文してキャサリンの前に座った。
店の中を見渡してなんとなく楽しそうにしているキャサリン。年季の入った店のテーブルや椅子、壁に天井が、過去に戻ったような気持ちにさせる。
キャサリンは窓から見える通りの風景と目の前に座るスロットルを見て微笑んだ。
「なんだかここに座っていると、私も普通の人間になったような気がする。貴族なんかじゃなくてね」
さりげなくスロットルが返事をする。
「もしお嬢様が普通の人間になったとしても、きっと野に咲く花のように見えることでしょう」
キャサリンは顔を赤くしてほんの少し唇を尖らせて返事をした。
「ちょっと、あんまり褒めすぎないでよ。誰かに聞かれたら恥ずかしいじゃない」
「失礼いたしました。つい本音が出てしまいました。次からは気をつけます」
(本音……スロットルは今、本音って言った)
初老の店主がコーヒーとケーキをテーブルに並べた。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言ってカウンターに戻っていく。
コーヒーを飲み、出されたケーキを食べる。なんてのどかな日常なんだろうか。デビンとの結婚生活ではいつもピリピリしていたような気がする。そんなことを考えながら、キャサリンはケーキを口に入れた。
医師から指示された通りの塗り薬を背中に塗っていくキャサリン。
薬がしみて痛いはずなのに声をあげないスロットルを見てキャサリンの心が痛む。
「スロットル、私のためにごめんね」
「いいえ、お嬢様が謝る必要はございません。これは私の意思で勝手にやったことです」
「でも、どうしてそこまでするの?」
「……」
「言いたくなければ言わなくてもいいけど……」
キャサリンはそう話したが、表情は明るかった。
スロットルは翌日から執事の仕事に復帰した。
キャサリンが朝食のため食堂へ向かうとスロットルが父のそばに執事服を着て立っていた。
「まあ、スロットル、大丈夫なの?もう仕事を始めて」
「おはようございます。キャサリンお嬢様、体はもう大丈夫でございます。仕事に支障はございません」
「そう……でも、無理はしないでね」
スロットルは笑みを浮かべて返事をした。
「はい、お嬢様」
伯爵はなんとなく複雑な心境で食事をしていた。
(デビンと結婚する前のキャサリンは、あのような明るい表情をしていた……今娘はスロットルに心を開こうとしているのかもしれない)
(しかしこれは全てスロットルの作戦だからな……本当にこれで良かったのかどうかはまだ分からないが……)
❖
この日を境に二人は会話をすることが増えた。何も特別な会話ではない。ありふれた普通の会話である。
「ねえスロットル、今日はいい天気ね」
「さようでございますね、お嬢様」
「スロットル、私、テラスにいるからコーヒーと甘いお菓子を持ってきて」
「かしこまりました、お嬢様」
「スロットル、このネックレス、似合ってる?」
「はい、とてもお似合いです。お嬢様の、その白い肌にそのネックレスの輝きは、まさに合致いたします」
「ふふ、『合致いたします』だなんて、何かの研究論文みたいな言い方ね」
「そうですね。さしづめ研究論文の題名は『美しき令嬢の白い肌と宝石』になるのでしょうか……」
キャサリンは耳を赤らめて返事をした。
「スロットルは詩的な表現がお上手ね」
「私は本当のことを言ったまでのことです」
そう言ってスロットルはその場を離れていった。キャサリンは立ち去るスロットルの背中を、いつまでも見つめていた。
翌日、キャサリンはスロットルを連れて城下へ買い物に出かけた。しかしキャサリンはウィンドウショッピングをしているだけで、特別に何かを買うわけでもなかった。
外の日差しが強くなり、スロットルが自然に日傘を広げキャサリンにかざした。
「ありがとうスロットル」
「いいえ、お嬢様のその白い肌が、赤くなってからでは遅うございますから」
「それはどうも」
キャサリンはスロットルからの褒め言葉が嫌いではなかった。嫌いどころか心が和むような気持ちになる。
(スロットルは私のことをどう思っているんだろう)
「キャサリンお嬢様。たまには外でコーヒーでもお飲みになりませんか?この近くに最近できたのです。美味しいケーキもあるそうですよ」
「ケーキ……いいわね。そこへ入ってみましょうか」
「では、私がご案内いたします。足元をお気をつけください。ここから先は砂利道になりますので……あのお嬢様、もしもの時のために、手をつないでもよろしいでしょうか?」
「え?」
「お嬢様のそのヒールの高い靴では、つまずくかもしれませんから」
「……あ、はい」
「では失礼いたします」
スロットルが優しくキャサリンの左手を握った。スロットルの暖かい手がキャサリンの心を暖かくする。
「私の手、冷たいでしょう?スロットルのように温かい手じゃないのよ、私の手は」
「お嬢様。血の道を良くすれば血行も良くなり体中が温かくなるのです。よろしければ、私が薬草を煎じて毎晩お持ちいたしますが、いかがされますか?」
「……いいの?煎じるなんて面倒じゃないの?」
スロットルは歩を緩め、ほんの少しキャサリンの手を強く握りしめた。
「迷惑だなんてとんでもございません。キャサリンお嬢様が美しく、そして健康な体になられるのなら、私は努力を惜しみません」
「……スロットル」
そして小さな店のコーヒー店に入ると、窓際の席にキャサリンを誘導し座らせ、スロットルはコーヒーとケーキを数種類注文してキャサリンの前に座った。
店の中を見渡してなんとなく楽しそうにしているキャサリン。年季の入った店のテーブルや椅子、壁に天井が、過去に戻ったような気持ちにさせる。
キャサリンは窓から見える通りの風景と目の前に座るスロットルを見て微笑んだ。
「なんだかここに座っていると、私も普通の人間になったような気がする。貴族なんかじゃなくてね」
さりげなくスロットルが返事をする。
「もしお嬢様が普通の人間になったとしても、きっと野に咲く花のように見えることでしょう」
キャサリンは顔を赤くしてほんの少し唇を尖らせて返事をした。
「ちょっと、あんまり褒めすぎないでよ。誰かに聞かれたら恥ずかしいじゃない」
「失礼いたしました。つい本音が出てしまいました。次からは気をつけます」
(本音……スロットルは今、本音って言った)
初老の店主がコーヒーとケーキをテーブルに並べた。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言ってカウンターに戻っていく。
コーヒーを飲み、出されたケーキを食べる。なんてのどかな日常なんだろうか。デビンとの結婚生活ではいつもピリピリしていたような気がする。そんなことを考えながら、キャサリンはケーキを口に入れた。
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