16 / 18
第三章 番外編
⑯事情聴取 後半
しおりを挟む
「それで君はどう思った?」
「飛び降りるつもりでここに来たけど……この男に見せるために飛び降りるのは…違うかなって」
「だから、迷いました。飛び降りようか……やめようか……」
「あの時の彼の表情は……目が…普通じゃなかった、怖かったです」
刑事が調書に記入していく。
「八木の精神状態も可笑しくなっていた……か、そして君に恐怖を与えた…」
刑事が調書を書き終わるの待って博子が話し始める。
「彼が突然大きな声を出したんですよ」
訝しむ刑事。
『あ』
『そうだ、これどうかな』
「そう言って彼、また一人芝居を始めたんです」
博子の顔が真剣になってきた。
『はい、俺が屋上のドアを開けたとき、俺はすぐに彼女に気がついてそーっと後ろに回って彼女の体にしがみつきました』
『やめろ!やめるんだ!』
『離して!お願い!』
『その若さで人生を終わらせるなんて、何を考えているんだ!』
『もうほっといてよ!離して!』
博子は思い起こすような表情をして話し出す。
「私は……いつの間にか彼の一人芝居を見入るようになっていました。なんだか面白くなって……」
深呼吸をするとまた博子は話を始めた。
『もうほっといてよ!』
『理由を話せ!』
『言えないわ!』
『説明を聞くまで離さない』
『お願いよ!離して!』
『嫌だ、もうお前を話さない。離したくない!俺と駆け落ちしよう!』
刑事は、駆け落ち?というセリフがひっかかったがそのままスルーした。
『駄目なの、もうあなたとは一緒になれないわ』
『なぜだ!理由を教えてくれ!』
『私はもうあなたにふさわしくない女なの』
『何を言ってるんだ!教えてくれ!頼むよ。お前が好きなんだ』
『私、貴方と食事をして別れた後、あの人に会ったの』
『あの人って龍蔵のことか!』
『うん、待ち伏せされて』
『それから?』
『ハンカチを口にあてられて。そしたら意識がなくなって』
『それで?』
『気がついたら、ホテルのベッドの上にいたの』
博子がここで刑事を見て言った。
「その後……彼は泣き崩れました」
刑事が話をまとめる。
「つまり、自殺をしようとした君を引き止める芝居をしていたのに、途中から八木新一個人の話にすり替わっていった……ということか?」
博子は頷きながら、
「私もこの時はまだ半信半疑で……この話が実話なのか創作なのか分からなくて……」
「君はその時はもう頭の中に自殺のことはあったのかい?」
「いいえ、彼の演技が真に迫っていて、自殺の事、考えていなかったです」
刑事が呟く。
「八木の行動が今川さんの自殺しようとする気持ちから目を逸らさせた、と。じゃあ次お願いできますか?」
「はい、えー、彼が泣き崩れた後……こう言いました」
『あ、待て、待つんだ!』
『翔子は俺が目を離したすきに車の前に飛び出し、轢かれて死んだよ、血まみれだった』
『俺はそんな翔子をなんとかしたくて、助けたくて、必死で周りの人に救急車を呼んでください!救急車をお願いしますって必死で叫んでいた』
『翔子はもう息をしていなかったよ。それでも俺は翔子の名前を呼び続けた……。遠くでサイレンの音がした』
「そこで私、思わず彼に話しかけたんです」
刑事が注意深く博子を見た。
「それからどうなったの?って。そしたら彼が答えてくれて」
『翔子の葬式に……あいつが来たんだ』
「それでまた私が聞いたんです、あいつって?」
『龍蔵だよ。何食わぬ顔で線香に火をつけて拝んでやがった』
『その時あいつ翔子の遺影を見て少し笑ったんだ。許せなかった』
『だから龍蔵を刺した。腹に一突き、刺してやった』
「私が……え?葬儀場で刺したの?って聞くと」
『ああ、あいつが翔子の遺影を見て笑わなければ、また違ったかもな』
(計画的犯行ではなく偶発的犯行だったのか?殺意も突然沸き起こったものだった?いや、八木はナイフを持って葬儀場に来ていたんだし……うーん)
博子が話を続ける。
『翔子は俺の生きがいだった。翔子の笑顔を見ているのが好きだった。翔子の笑顔をずっと見ていたかった』
「彼がそこまで言った時に屋上のドアが開いて警察官が突入してきたんです」
「彼……龍蔵が生きていると聞いて……ホッとしているような感じだった」
「それでね、彼…八木新一さんが私に言ったんです」
刑事は調書から顔を上げて、
「なんて言ったんですか?」
『お前、死ぬなよって』
博子の目から涙がこぼれ落ちた。
❖
八木新一は運が悪かったのかもしれない。
翔子の葬儀に山田龍蔵が出席していなければこの事件は起こっていなかったかもしれない。
龍蔵が遺影を見て笑ったところを八木が見ていなければ刺すこともなかったかもしれない。
そもそも山田龍蔵が八木の恋人に非道な真似をしなければこんなことにはなっていなかったんだが……まあ、これも事実かどうかは分からないんだが……
刑事は博子に優しく声をかける。
「ごめんね、今から清書するから少し待っていてくれますか?」
博子は頷いて刑事に気になっていることを確認した。
「あのう、刑事さん……本当に私の話を聞いてもらえるんでしょうか?」
刑事は上着のポケットから名刺を取り出すと、そっと博子の目の前に名刺を差し出した。
「飛び降りるつもりでここに来たけど……この男に見せるために飛び降りるのは…違うかなって」
「だから、迷いました。飛び降りようか……やめようか……」
「あの時の彼の表情は……目が…普通じゃなかった、怖かったです」
刑事が調書に記入していく。
「八木の精神状態も可笑しくなっていた……か、そして君に恐怖を与えた…」
刑事が調書を書き終わるの待って博子が話し始める。
「彼が突然大きな声を出したんですよ」
訝しむ刑事。
『あ』
『そうだ、これどうかな』
「そう言って彼、また一人芝居を始めたんです」
博子の顔が真剣になってきた。
『はい、俺が屋上のドアを開けたとき、俺はすぐに彼女に気がついてそーっと後ろに回って彼女の体にしがみつきました』
『やめろ!やめるんだ!』
『離して!お願い!』
『その若さで人生を終わらせるなんて、何を考えているんだ!』
『もうほっといてよ!離して!』
博子は思い起こすような表情をして話し出す。
「私は……いつの間にか彼の一人芝居を見入るようになっていました。なんだか面白くなって……」
深呼吸をするとまた博子は話を始めた。
『もうほっといてよ!』
『理由を話せ!』
『言えないわ!』
『説明を聞くまで離さない』
『お願いよ!離して!』
『嫌だ、もうお前を話さない。離したくない!俺と駆け落ちしよう!』
刑事は、駆け落ち?というセリフがひっかかったがそのままスルーした。
『駄目なの、もうあなたとは一緒になれないわ』
『なぜだ!理由を教えてくれ!』
『私はもうあなたにふさわしくない女なの』
『何を言ってるんだ!教えてくれ!頼むよ。お前が好きなんだ』
『私、貴方と食事をして別れた後、あの人に会ったの』
『あの人って龍蔵のことか!』
『うん、待ち伏せされて』
『それから?』
『ハンカチを口にあてられて。そしたら意識がなくなって』
『それで?』
『気がついたら、ホテルのベッドの上にいたの』
博子がここで刑事を見て言った。
「その後……彼は泣き崩れました」
刑事が話をまとめる。
「つまり、自殺をしようとした君を引き止める芝居をしていたのに、途中から八木新一個人の話にすり替わっていった……ということか?」
博子は頷きながら、
「私もこの時はまだ半信半疑で……この話が実話なのか創作なのか分からなくて……」
「君はその時はもう頭の中に自殺のことはあったのかい?」
「いいえ、彼の演技が真に迫っていて、自殺の事、考えていなかったです」
刑事が呟く。
「八木の行動が今川さんの自殺しようとする気持ちから目を逸らさせた、と。じゃあ次お願いできますか?」
「はい、えー、彼が泣き崩れた後……こう言いました」
『あ、待て、待つんだ!』
『翔子は俺が目を離したすきに車の前に飛び出し、轢かれて死んだよ、血まみれだった』
『俺はそんな翔子をなんとかしたくて、助けたくて、必死で周りの人に救急車を呼んでください!救急車をお願いしますって必死で叫んでいた』
『翔子はもう息をしていなかったよ。それでも俺は翔子の名前を呼び続けた……。遠くでサイレンの音がした』
「そこで私、思わず彼に話しかけたんです」
刑事が注意深く博子を見た。
「それからどうなったの?って。そしたら彼が答えてくれて」
『翔子の葬式に……あいつが来たんだ』
「それでまた私が聞いたんです、あいつって?」
『龍蔵だよ。何食わぬ顔で線香に火をつけて拝んでやがった』
『その時あいつ翔子の遺影を見て少し笑ったんだ。許せなかった』
『だから龍蔵を刺した。腹に一突き、刺してやった』
「私が……え?葬儀場で刺したの?って聞くと」
『ああ、あいつが翔子の遺影を見て笑わなければ、また違ったかもな』
(計画的犯行ではなく偶発的犯行だったのか?殺意も突然沸き起こったものだった?いや、八木はナイフを持って葬儀場に来ていたんだし……うーん)
博子が話を続ける。
『翔子は俺の生きがいだった。翔子の笑顔を見ているのが好きだった。翔子の笑顔をずっと見ていたかった』
「彼がそこまで言った時に屋上のドアが開いて警察官が突入してきたんです」
「彼……龍蔵が生きていると聞いて……ホッとしているような感じだった」
「それでね、彼…八木新一さんが私に言ったんです」
刑事は調書から顔を上げて、
「なんて言ったんですか?」
『お前、死ぬなよって』
博子の目から涙がこぼれ落ちた。
❖
八木新一は運が悪かったのかもしれない。
翔子の葬儀に山田龍蔵が出席していなければこの事件は起こっていなかったかもしれない。
龍蔵が遺影を見て笑ったところを八木が見ていなければ刺すこともなかったかもしれない。
そもそも山田龍蔵が八木の恋人に非道な真似をしなければこんなことにはなっていなかったんだが……まあ、これも事実かどうかは分からないんだが……
刑事は博子に優しく声をかける。
「ごめんね、今から清書するから少し待っていてくれますか?」
博子は頷いて刑事に気になっていることを確認した。
「あのう、刑事さん……本当に私の話を聞いてもらえるんでしょうか?」
刑事は上着のポケットから名刺を取り出すと、そっと博子の目の前に名刺を差し出した。
0
あなたにおすすめの小説
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる