《完結》逢いたかった

ぜらちん黒糖

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②運命の唐揚げ

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 会社の帰り道、小倉一郎(28)は昼休憩の時に、後輩の山崎から聞かされた怪談話を思い返していた。
 
(もしも、あの田中の目の前に現れた、女性の幽霊が美人で可愛かったら? 田中の思い込みで相手がとても怖い幽霊だと決めつけていなければ……)
 
(そうすれば田中は死なずに済んだかもしれない)
 
 腕時計を見るとまだ夕方の6時前で、しかも明日は土曜日で会社は休みだ。
 
 小倉は駅へ向かっていたが、行き先を変えた。晩飯を食べて帰ることにしたのだ。目に入った大衆食堂に入ることにした。
 
 かなり年季の入った店で、建物は外壁がかなり汚れていた。しかし中へ入ってみると古びてはいたが清潔な感じがした。
 
 小倉は狭い店内の入口近くの席に座り、メニュー表を眺めて即決する。
 
「親子丼とビールください」
 
「あいよ」
 
 店の主人が元気よく返事をした。
 
 先に瓶ビールとグラスが並べられ、小倉はすぐにグラスに注ぎ、口にした。
 
「ぷはぁ」(美味い!)
 
 ビールを飲んでいるうちに親子丼が運ばれ、小倉は食べ始める。
 
 しかし夕食時のせいか、店が混み始める。小倉は気にせず食べていたのだが、その時、女性の声がかかる。
 
「すみません、相席よろしいでしょうか?」
 
「え?」
 
 顔を上げてみると年の頃25歳くらいの女性が立っていた。
 
「あ、はい、どうぞどうぞ」
 
「ありがとうございます」
 
 女性はそう言って店の主人に声をかける。
 
「あのう、唐揚げ定食ください」
 
「あいよ、ちょっと時間かかるけどいい?」
 
「はい、お願いします」
 
「はいよ」
 
 小倉はできるだけ女性を気にしない素振りで食べ続けた。
 
 親子丼を食べ終わり、後はビールを飲み干すのみとなったのだが、心のなかで(ビールを頼むんじゃなかった)と後悔していた。相席で黙々と酒を飲むのは、どこか居心地が悪かったからだ。
 
 すると彼女の唐揚げ定食が届いた。女性が突然、声をかけてきた。
 
「よろしかったら、唐揚げ一つどうぞ、召し上がってください」
 
「え?」
 
「私のせいでゆっくりビールを飲めなくなったでしょ?」
 
「コホン、あ、いえ、そんなことはないですよ、本当に」
 
「ここの唐揚げとっても美味しいんです。ビールと合いますから」
 
 小倉は女性の顔を見つめ、心なしか胸がときめいた。
 
(よく見ると可愛い)
 
「あ、では一つだけ」
 
 小倉は図々しいと思いながらも、唐揚げを一つ割り箸でつまんだ。
 
 女性は小倉が食べるのをじっと見ていた。女性の視線を感じながら一口かじってみた。
 
「あ、美味い。美味いです、この唐揚げ」
 
 女性はにっこり笑って「ね? 私の言った通りでしょ?」
 
 微笑んだ女性の顔を見て、小倉の心臓は弾んでいた。
 
 その後、女性もビールを頼み、そして唐揚げも追加注文したりして、会話が弾み意気投合する。
 
 明日は会社も休みというのもあったが、小倉はすっかり気が緩んでいた。
 
 ❖
 
 小倉が朝、目覚めるとふかふかのベッドの上にいた。隣には昨日の女性が裸で眠っていた。
 
(え? ここは……彼女の部屋なのか?)
 
 小倉は記憶を辿ってみたが、よく思い出せない。しかしこの状況を見て、これは……やってしまったかもしれない、そう思った。
 
 小倉は女性の顔を覗き込んだ。
 
(!……誰だ?)
 
 女性は化粧が落ちていて、お店の中で見ていた可愛らしい顔ではなかった。
 
(まずい、俺のタイプじゃない)
 
 小倉はそのまま立ち去ることにした。
 
 そっと着替えを済ませ、荷物を手に取ると、ゆっくりと玄関へ向かった。
 
 その時、女性が目覚めたのか声をかけられた。
 
「帰るの?」
 
「あ、ああ、用事を思い出したから」
 
 急いで靴を履いてドアを開けた時、また声が聞こえた。
 
「また今度ね」
 
(いや、もう会うことはないよ)
 
 そう思いながら、返事をせずに外に出た。
 
 ❖
 
 それから1ヶ月が経った頃、小倉の会社に新入社員が入ってきた。
 
 朝礼で課長が社員に紹介をする。
 
「本日から勤務することになった梅沢結菜さんだ。じゃあ、自己紹介してください」
 
「はい。えー、本日から働くことになりました梅沢結菜です。よろしくお願いします」
 
 お辞儀をした結菜は、顔を上げると小倉を見つめて微笑んだ。
 
(まじか……どうしよう、確かにお化粧をした顔はとっても可愛いが、すっぴんは……)
 
 課長が大きな声で小倉を呼んだ。
 
「小倉さん、彼女の指導係頼むよ」
 
 突然の指名に、少し返事が遅れてしまう小倉。
 
「は、はい」
 
 そんな小倉の目の前に梅沢結菜が立っていた。
 
 結菜は小倉に小さな声で囁いた。
 
「またお会いできましたね、小倉さん」
 
「そ、そうだね、久しぶり、元気だった?」
 
 結菜はにっこりと笑って小倉の耳元に顔を近づけ、囁いた。
 
「はい、母子共々健康です」
 
「はあ?」
 
 小倉が一歩下がり改めて結菜を見ると、彼女はお腹を右手で擦っていた。
 
(え? ええっ!)
 
 小倉一郎に恐怖が始まろうとしていた。



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