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④侵食するメッセージ
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まもなく終業時間がやってくる。小倉は結菜を気にしながら、すぐに帰れるように机の上を片付け始めた。
(待ち伏せされるのは困る)
(それにしても大変なことになった。見た目は可愛いが、あの積極性は異常だ)
(だけど、結菜が本当に妊娠しているとしたら……あの行動もわかる気がするが……)
(とにかく今は、本当にどうすればいいのかわからない)
(分かっていることは、とにかく今は彼女から逃げることだ。それしか俺の心の平安は取り戻せない)
時計の針がぴったり5時になった。小倉は鞄を持って立ち上がったのだが、課長が小倉を呼び止めた。
「小倉さんちょっと!」
(グッ……)
「あ、はい」
「すまん、すぐ終わるからちょっと来てくれるか」
課長は分厚い帳簿を手に持って小倉を呼んでいた。
渋々、課長の元へ行き用事をこなして振り返ると、もう梅沢結菜はいなかった。
ほっとして会社を後にする小倉は、門の外で声をかけられた。
「小倉さん」
結菜とは違う声で安心したが、それでも心配そうに振り向いた。そこには葉山満里奈が立っていた。
「あ、葉山さんか……何?」
満里奈は訝しげに小倉を見ると口を開いた。
「何よ、そのがっかりしたような顔。梅沢さんだと思ったの?」
「がっかりだって? まさかっ!」
「ねぇ、たまには一緒にどう? 晩御飯」
「……そうだな」
(彼女に相談してみようか……いや、やっぱり言えない。しかし、相談したい……)
「もう、そんなに考えないと私と一緒に食事に行けないの?」
「へ? 違うよ。ちょっと今は悩み事があって……」
「ふ~ん、じゃあその悩み事、私が聞いてあげるから。同期のよしみで」
小倉はそのまま、満里奈に連れられて居酒屋へ向かうことになった。
駅に向かって行く途中の路地裏に入ったところに、小さな居酒屋があってそこへ入ることにした。
「いらっしゃいませ」
店の従業員の元気な声が飛ぶ。二人は店の奥のこじんまりとしたテーブル席に座った。
注文を取りに来た従業員に小倉が言った。
「とりあえず生で」
「私はハイボールください」
すると、ぎこちなく座る二人の前に、すぐに生ビールとハイボール、枝豆がテーブルに並んだ。
「葉山さん、俺が適当に頼んでいいですか?」
「ええ、お願いするわ」
小倉は店員に向かって話しかける。
「刺身の盛り合わせと……あと、鶏の唐揚げお願いします」
店員は復唱すると奥へ戻って行った。
互いにジョッキを軽く合わせて「乾杯」と小さく言ってから飲んだ。
「ぷはぁ、美味い!」
小倉は心底そう思った。今日は悪夢のような一日だったからだ。
満里奈も美味しそうにハイボールを飲んでいた。
「それで、悩みって?」
「……そんな、店に来ていきなり聞く?」
満里奈は真面目な顔で話し始めた。
「だって今日の小倉さん、なんだかとってもおかしかった」
「……」
「新人の女の子と顔見知りなの? 小倉さん」
目が泳ぐ小倉。それを見て図星だと思った満里奈が話を続ける。
「どういう関係なの? 彼女とは」
小倉が満里奈に話そうか迷っていると、目の前に刺身の盛り合わせと唐揚げが並べられた。
やっと口を開いた小倉が言った言葉は、
「ま、まずは食べようか、葉山さん」
二人は無言で食べ始めたのだが、小倉が鶏の唐揚げを食べようと小皿に乗せて、つぶやくように話し出した。
「きっかけは……鶏の唐揚げだったんだよね」
「え?」
「仕事帰りに食堂に入って、俺、親子丼を食べてビールを飲んでたんだよ」
「そしたら店が混んできて……その時に俺の目の前に梅沢さんが座ったんだ」
「で、彼女が唐揚げ定食を注文してさ、俺はもう親子丼を食べ終わって、ビールを飲んでたの」
「そこへ彼女が注文した唐揚げ定食が運ばれてきてさ、彼女が俺に言ったんだよ。唐揚げ一つどうですかって」
「小倉さん、まさか勧められたからって、初めて会った人の食べ物を食べちゃったの?」
「……うん。鶏の唐揚げだけじゃなくて、彼女まで食べちゃったみたいで……俺、何にも覚えてないんだよ」
ついそこまで話してしまった小倉は、冷めた目で見つめる満里奈にまだ気づいていなかった。
その時、小倉のスマホが振動した。
「あ、誰からだろう?」
知らない電話番号からかけられていた。
「ん?」
よく見ると画面の上にメッセージの表示が出ていた。開いてみると、すべて梅沢結菜からのものだった。
※18:00 一郎さん、今どこにいるんですかぁ?
※18:26 今、私、一郎さんの家に向かってます。
※18:45 今、玄関の前にいます。
※19:00 一郎さん、まだですかぁ?
※19:10 もう外は真っ暗ですよ?
※19:20 いつまで待たせるつもりなんですか?
※19:30 一郎さん、寒くなってきました。
※19:35 早く帰ってきて!
※19:40 誰かと一緒にいるの?
※19:43 ねぇ?誰と一緒にいるの?
※19:45 女ですか?私がいるのに他の女と一緒にいるんですか?
※19:48 誰なんですか?その女は誰なんですか?
※19:52 私の知っている人ですか?
※20:00 そうなんですね?
小倉はそこまで読んでスマホの画面を伏せようとしたが、満里奈がそのスマホを奪い取ると、すべてに目を通した。
結菜からのメッセージで背筋に寒気が走ったうえに、満里奈にスマホを奪い取られて、小倉の心臓は跳ね上がっていた。
そして満里奈が小倉に告げた。
「梅沢結菜は、ストーカーかもしれないわ」
(待ち伏せされるのは困る)
(それにしても大変なことになった。見た目は可愛いが、あの積極性は異常だ)
(だけど、結菜が本当に妊娠しているとしたら……あの行動もわかる気がするが……)
(とにかく今は、本当にどうすればいいのかわからない)
(分かっていることは、とにかく今は彼女から逃げることだ。それしか俺の心の平安は取り戻せない)
時計の針がぴったり5時になった。小倉は鞄を持って立ち上がったのだが、課長が小倉を呼び止めた。
「小倉さんちょっと!」
(グッ……)
「あ、はい」
「すまん、すぐ終わるからちょっと来てくれるか」
課長は分厚い帳簿を手に持って小倉を呼んでいた。
渋々、課長の元へ行き用事をこなして振り返ると、もう梅沢結菜はいなかった。
ほっとして会社を後にする小倉は、門の外で声をかけられた。
「小倉さん」
結菜とは違う声で安心したが、それでも心配そうに振り向いた。そこには葉山満里奈が立っていた。
「あ、葉山さんか……何?」
満里奈は訝しげに小倉を見ると口を開いた。
「何よ、そのがっかりしたような顔。梅沢さんだと思ったの?」
「がっかりだって? まさかっ!」
「ねぇ、たまには一緒にどう? 晩御飯」
「……そうだな」
(彼女に相談してみようか……いや、やっぱり言えない。しかし、相談したい……)
「もう、そんなに考えないと私と一緒に食事に行けないの?」
「へ? 違うよ。ちょっと今は悩み事があって……」
「ふ~ん、じゃあその悩み事、私が聞いてあげるから。同期のよしみで」
小倉はそのまま、満里奈に連れられて居酒屋へ向かうことになった。
駅に向かって行く途中の路地裏に入ったところに、小さな居酒屋があってそこへ入ることにした。
「いらっしゃいませ」
店の従業員の元気な声が飛ぶ。二人は店の奥のこじんまりとしたテーブル席に座った。
注文を取りに来た従業員に小倉が言った。
「とりあえず生で」
「私はハイボールください」
すると、ぎこちなく座る二人の前に、すぐに生ビールとハイボール、枝豆がテーブルに並んだ。
「葉山さん、俺が適当に頼んでいいですか?」
「ええ、お願いするわ」
小倉は店員に向かって話しかける。
「刺身の盛り合わせと……あと、鶏の唐揚げお願いします」
店員は復唱すると奥へ戻って行った。
互いにジョッキを軽く合わせて「乾杯」と小さく言ってから飲んだ。
「ぷはぁ、美味い!」
小倉は心底そう思った。今日は悪夢のような一日だったからだ。
満里奈も美味しそうにハイボールを飲んでいた。
「それで、悩みって?」
「……そんな、店に来ていきなり聞く?」
満里奈は真面目な顔で話し始めた。
「だって今日の小倉さん、なんだかとってもおかしかった」
「……」
「新人の女の子と顔見知りなの? 小倉さん」
目が泳ぐ小倉。それを見て図星だと思った満里奈が話を続ける。
「どういう関係なの? 彼女とは」
小倉が満里奈に話そうか迷っていると、目の前に刺身の盛り合わせと唐揚げが並べられた。
やっと口を開いた小倉が言った言葉は、
「ま、まずは食べようか、葉山さん」
二人は無言で食べ始めたのだが、小倉が鶏の唐揚げを食べようと小皿に乗せて、つぶやくように話し出した。
「きっかけは……鶏の唐揚げだったんだよね」
「え?」
「仕事帰りに食堂に入って、俺、親子丼を食べてビールを飲んでたんだよ」
「そしたら店が混んできて……その時に俺の目の前に梅沢さんが座ったんだ」
「で、彼女が唐揚げ定食を注文してさ、俺はもう親子丼を食べ終わって、ビールを飲んでたの」
「そこへ彼女が注文した唐揚げ定食が運ばれてきてさ、彼女が俺に言ったんだよ。唐揚げ一つどうですかって」
「小倉さん、まさか勧められたからって、初めて会った人の食べ物を食べちゃったの?」
「……うん。鶏の唐揚げだけじゃなくて、彼女まで食べちゃったみたいで……俺、何にも覚えてないんだよ」
ついそこまで話してしまった小倉は、冷めた目で見つめる満里奈にまだ気づいていなかった。
その時、小倉のスマホが振動した。
「あ、誰からだろう?」
知らない電話番号からかけられていた。
「ん?」
よく見ると画面の上にメッセージの表示が出ていた。開いてみると、すべて梅沢結菜からのものだった。
※18:00 一郎さん、今どこにいるんですかぁ?
※18:26 今、私、一郎さんの家に向かってます。
※18:45 今、玄関の前にいます。
※19:00 一郎さん、まだですかぁ?
※19:10 もう外は真っ暗ですよ?
※19:20 いつまで待たせるつもりなんですか?
※19:30 一郎さん、寒くなってきました。
※19:35 早く帰ってきて!
※19:40 誰かと一緒にいるの?
※19:43 ねぇ?誰と一緒にいるの?
※19:45 女ですか?私がいるのに他の女と一緒にいるんですか?
※19:48 誰なんですか?その女は誰なんですか?
※19:52 私の知っている人ですか?
※20:00 そうなんですね?
小倉はそこまで読んでスマホの画面を伏せようとしたが、満里奈がそのスマホを奪い取ると、すべてに目を通した。
結菜からのメッセージで背筋に寒気が走ったうえに、満里奈にスマホを奪い取られて、小倉の心臓は跳ね上がっていた。
そして満里奈が小倉に告げた。
「梅沢結菜は、ストーカーかもしれないわ」
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