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第二章
⑧どうなる金五郎
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主人公(二階堂沙知絵)が同期の男性社員と恋の駆け引きをしている後ろで年配の上司(金五郎)と新人の女性社員(山上りこ)が恋に落ちていく物語だった。
撮影が始まり二階堂沙知絵はなぜかイライラが収まらなかった。
ドラマの世界のことだと分かっていながら、砂袋金五郎と山上りこが恋に落ちていくのが我慢ならなかった。
女子社員が上司に愛を告白するシーン。
「部長、私、部長のことが好きです。愛しています」
「……」
「部長、あなたの気持ちを教えてください。私のこと、どう思っているんですか?」
「俺は……」
その時突然このシーンに関係のない主人公が現れる。
「待ちなさい」
「え?」驚いて二人が主人公を見る。
しかし主人公は構わず自分の気持ちを訴える。
「部長!私も部長のことが好きです」
狼狽える山上りこ。しかし金五郎はこのアドリブを面白がり、話を合わせていく。そして演出家もカメラを止めない。
「君の気持ちは嬉しいが……ほら、君の相手は俺なんかじゃないだろう?」
主人公の肩を押してくるりと回し、後ろに立っていた同期の男性社員の方へ押し出した。
「俺に対する気持ちは単なる気の迷いさ」
上司は新人女子社員を抱きしめると囁いた。
「君が好きだ」と……
「カーーーット!」
演出家の声が響く。
二階堂沙知絵の飛び入りのアドリブを演出家の柴倉が気に入り、このシーンはテレビで放送された。
今回のドラマも無事終了して、打ち上げには金五郎も参加した。
あの飛び入りのシーン以来、金五郎と沙知絵は、ぎこちない関係になってしまい、あまり自然に会話をしなくなっていた。
金五郎は今の自分の年齢を気にしていたので、周りの若くて可愛い女性たちを好きにならないように気をつけていた。
二階堂沙知絵しかり、山上りこしかりである。
金五郎も他の出演者と談笑しながら楽しんでいたのだが、沙知絵がいないことに気がついた。目をキョロキョロさせて周りを見ると、ちょうど沙知絵が部屋を出ていくところだった。
無意識の内に沙知絵を追って部屋の外へ出る金五郎。
沙知絵を探すと外階段へ出て行ったのが目に入る。
「あ」思わず金五郎の口から言葉にならない言葉が出る。
沙知絵は外の空気を吸いに出ただけだと思ったが、階段を上に上がっていった。金五郎が後を付ける。
屋上に出て深呼吸をする二階堂沙知絵。
「うーん、気持ちがいいわ、夜の空気はひんやりして美味しい」
屋上を囲ってある金網まで歩いていくと沙知絵は夜空を見上げる。
「満月か……」
急に涙がこみ上げてきて歯を食いしばる沙知絵。
「私もいつの間にか35歳になってるし……おばさんよね」
視線を、屋上から見える街並みに向けて悲しそうにする。
「私なんてお呼びじゃない……か」
その時、後ろから声がかかる。
「主演女優がこんなところで何してるんだ?」
沙知絵が振り向くと砂袋金五郎がいた。
「あ……」
小さな声を漏らすと沙知絵は金五郎の胸に飛び込んでいた。
そして沙知絵の口から言葉が止まらない。
「私、あなたが好き!金五郎が好き!砂袋金五郎が大好き!」
沙知絵からの告白と、沙知絵から漂う女の香りが金五郎を包み込む。
AV男優を辞めて以来、一度も女性を抱いたことのなかった金五郎の体が、武者震いを起こす。
53歳の金五郎から見れば、35歳の沙知絵はピチピチギャルにしか見えない。
二階堂沙知絵のことはとても気になっていたが、自分と沙知絵が結ばれるなんてあり得ないと思っていたので、意識して沙知絵を遠ざけていた。
(それなのに……沙知絵の方から近づいてくるなんて…あー、もう我慢できん!)
「沙知絵!」呼び捨てにしてしまい、少し躊躇したが、そのまま話を続ける金五郎。
「沙知絵、俺も」
その時、二人に声がかかる。
「待ってください」と……
二人の目の前に山上りこが立っていた。
「待ってください、私にもチャンスをください」
盛り上がっていたところに声をかけられ、静まり返る二人に、構わず話し続ける山上りこ。
「私も砂袋さんが好きです、好きなんです!」
りこの若くて自信に溢れた態度に怯む沙知絵だったが、金五郎は違った。
「りこちゃん、ありがとう。君のように若くて可愛らしい女性から好きだなんて言われて男冥利に尽きるよ」
その言葉に顔を曇らせる沙知絵と満面の笑みを浮かべるりこ。
「じゃあ、私と付き合ってもらえるんですか?」
金五郎ははっきりと答えた。
「ごめん、りこちゃん。こんなおじさんの俺に、そこまで言ってくれて嬉しいんだけど……俺は君じゃなくて沙知絵を選ぶよ」
「どうしてですか?まだ私のことよく知らないでしょう?」
「言葉で……なんて言えばいいのか困るんだけど……」
りこも沙知絵も金五郎の次の言葉を待つ。
「沙知絵と俺は……結ばれるために今日まで生きてきたと、そう心から思えるんだ」
諦めきれないりこが言い返す。
「それはただ雰囲気に流されているだけなんじゃないですか?売れっ子女優の二階堂沙知絵さんの雰囲気に飲まれて」
「すまないな、りこちゃん。理由は分からないが、彼女とは深い繋がりを感じるんだ。これは俺が沙知絵を愛している証拠だと思うんだよ。君からはそれが感じられないんだ、すまない」
りこは急に吹っ切れたように返事をした。
「そうですか……そこまで言われたら引き下がるしかないですね」
りこは明るく話す。
「あははは、私も何を血迷ったのか突然告白なんかしちゃって……馬鹿だな私」
そう言って屋上の出入り口へ向かうと振り向いて沙知絵に声をかける。
「二階堂さん、まだ私、砂袋さんを諦めた訳じゃないですからね!気を抜かないでください。後ろには私が控えているんですから。いつでも交代できるんですからね」
そう言って、山上りこは屋上から姿を消した。
沙知絵が金五郎に声をかける。
「いいの?あの子を追いかけなくて」
金五郎は沙知絵を再び抱きしめると耳元で囁いた。
「もう俺は君に夢中なんだ。君しか目に入らないよ」
両手で沙知絵の耳を塞ぐと金五郎はそっと唇を重ねた。
二年後、二人は結婚を発表した。
砂袋金五郎は55歳、二階堂沙知絵は37歳になっていた。
テレビのワイドショーの司会者がコメントをしていた。
「今最も売れている女優の二階堂さんが、今最も売れている名脇役の砂袋さんと結婚すると発表されました」
女性リポーターが横から口を挟む。
「お二人に取材をしたのですが……お二人共、相手のことをどう思いますかって質問をしたんですけど……」
司会者の男性が聞き返す。
「ほう、なんておっしゃったんですか?お二人は?」
「それがですね……お二人共全く同じ言葉をおっしゃいました」
男性司会者が女性リポーターを見つめた。
「その言葉はどんな言葉でしたか?」
「その言葉は……『運命の人』です」
男性司会者がしみじみと話した。
「互いに互いを運命の人と感じたわけですね?うらやましいですね、なかなか運命の人には出会えませんからね……」
テレビから流れるワイドショーの番組を、マンションの一室でソファに座りながら見ている二階堂沙知絵と砂袋金五郎……
肩寄せ合う二人の唇が静かに重なっていた。
完
撮影が始まり二階堂沙知絵はなぜかイライラが収まらなかった。
ドラマの世界のことだと分かっていながら、砂袋金五郎と山上りこが恋に落ちていくのが我慢ならなかった。
女子社員が上司に愛を告白するシーン。
「部長、私、部長のことが好きです。愛しています」
「……」
「部長、あなたの気持ちを教えてください。私のこと、どう思っているんですか?」
「俺は……」
その時突然このシーンに関係のない主人公が現れる。
「待ちなさい」
「え?」驚いて二人が主人公を見る。
しかし主人公は構わず自分の気持ちを訴える。
「部長!私も部長のことが好きです」
狼狽える山上りこ。しかし金五郎はこのアドリブを面白がり、話を合わせていく。そして演出家もカメラを止めない。
「君の気持ちは嬉しいが……ほら、君の相手は俺なんかじゃないだろう?」
主人公の肩を押してくるりと回し、後ろに立っていた同期の男性社員の方へ押し出した。
「俺に対する気持ちは単なる気の迷いさ」
上司は新人女子社員を抱きしめると囁いた。
「君が好きだ」と……
「カーーーット!」
演出家の声が響く。
二階堂沙知絵の飛び入りのアドリブを演出家の柴倉が気に入り、このシーンはテレビで放送された。
今回のドラマも無事終了して、打ち上げには金五郎も参加した。
あの飛び入りのシーン以来、金五郎と沙知絵は、ぎこちない関係になってしまい、あまり自然に会話をしなくなっていた。
金五郎は今の自分の年齢を気にしていたので、周りの若くて可愛い女性たちを好きにならないように気をつけていた。
二階堂沙知絵しかり、山上りこしかりである。
金五郎も他の出演者と談笑しながら楽しんでいたのだが、沙知絵がいないことに気がついた。目をキョロキョロさせて周りを見ると、ちょうど沙知絵が部屋を出ていくところだった。
無意識の内に沙知絵を追って部屋の外へ出る金五郎。
沙知絵を探すと外階段へ出て行ったのが目に入る。
「あ」思わず金五郎の口から言葉にならない言葉が出る。
沙知絵は外の空気を吸いに出ただけだと思ったが、階段を上に上がっていった。金五郎が後を付ける。
屋上に出て深呼吸をする二階堂沙知絵。
「うーん、気持ちがいいわ、夜の空気はひんやりして美味しい」
屋上を囲ってある金網まで歩いていくと沙知絵は夜空を見上げる。
「満月か……」
急に涙がこみ上げてきて歯を食いしばる沙知絵。
「私もいつの間にか35歳になってるし……おばさんよね」
視線を、屋上から見える街並みに向けて悲しそうにする。
「私なんてお呼びじゃない……か」
その時、後ろから声がかかる。
「主演女優がこんなところで何してるんだ?」
沙知絵が振り向くと砂袋金五郎がいた。
「あ……」
小さな声を漏らすと沙知絵は金五郎の胸に飛び込んでいた。
そして沙知絵の口から言葉が止まらない。
「私、あなたが好き!金五郎が好き!砂袋金五郎が大好き!」
沙知絵からの告白と、沙知絵から漂う女の香りが金五郎を包み込む。
AV男優を辞めて以来、一度も女性を抱いたことのなかった金五郎の体が、武者震いを起こす。
53歳の金五郎から見れば、35歳の沙知絵はピチピチギャルにしか見えない。
二階堂沙知絵のことはとても気になっていたが、自分と沙知絵が結ばれるなんてあり得ないと思っていたので、意識して沙知絵を遠ざけていた。
(それなのに……沙知絵の方から近づいてくるなんて…あー、もう我慢できん!)
「沙知絵!」呼び捨てにしてしまい、少し躊躇したが、そのまま話を続ける金五郎。
「沙知絵、俺も」
その時、二人に声がかかる。
「待ってください」と……
二人の目の前に山上りこが立っていた。
「待ってください、私にもチャンスをください」
盛り上がっていたところに声をかけられ、静まり返る二人に、構わず話し続ける山上りこ。
「私も砂袋さんが好きです、好きなんです!」
りこの若くて自信に溢れた態度に怯む沙知絵だったが、金五郎は違った。
「りこちゃん、ありがとう。君のように若くて可愛らしい女性から好きだなんて言われて男冥利に尽きるよ」
その言葉に顔を曇らせる沙知絵と満面の笑みを浮かべるりこ。
「じゃあ、私と付き合ってもらえるんですか?」
金五郎ははっきりと答えた。
「ごめん、りこちゃん。こんなおじさんの俺に、そこまで言ってくれて嬉しいんだけど……俺は君じゃなくて沙知絵を選ぶよ」
「どうしてですか?まだ私のことよく知らないでしょう?」
「言葉で……なんて言えばいいのか困るんだけど……」
りこも沙知絵も金五郎の次の言葉を待つ。
「沙知絵と俺は……結ばれるために今日まで生きてきたと、そう心から思えるんだ」
諦めきれないりこが言い返す。
「それはただ雰囲気に流されているだけなんじゃないですか?売れっ子女優の二階堂沙知絵さんの雰囲気に飲まれて」
「すまないな、りこちゃん。理由は分からないが、彼女とは深い繋がりを感じるんだ。これは俺が沙知絵を愛している証拠だと思うんだよ。君からはそれが感じられないんだ、すまない」
りこは急に吹っ切れたように返事をした。
「そうですか……そこまで言われたら引き下がるしかないですね」
りこは明るく話す。
「あははは、私も何を血迷ったのか突然告白なんかしちゃって……馬鹿だな私」
そう言って屋上の出入り口へ向かうと振り向いて沙知絵に声をかける。
「二階堂さん、まだ私、砂袋さんを諦めた訳じゃないですからね!気を抜かないでください。後ろには私が控えているんですから。いつでも交代できるんですからね」
そう言って、山上りこは屋上から姿を消した。
沙知絵が金五郎に声をかける。
「いいの?あの子を追いかけなくて」
金五郎は沙知絵を再び抱きしめると耳元で囁いた。
「もう俺は君に夢中なんだ。君しか目に入らないよ」
両手で沙知絵の耳を塞ぐと金五郎はそっと唇を重ねた。
二年後、二人は結婚を発表した。
砂袋金五郎は55歳、二階堂沙知絵は37歳になっていた。
テレビのワイドショーの司会者がコメントをしていた。
「今最も売れている女優の二階堂さんが、今最も売れている名脇役の砂袋さんと結婚すると発表されました」
女性リポーターが横から口を挟む。
「お二人に取材をしたのですが……お二人共、相手のことをどう思いますかって質問をしたんですけど……」
司会者の男性が聞き返す。
「ほう、なんておっしゃったんですか?お二人は?」
「それがですね……お二人共全く同じ言葉をおっしゃいました」
男性司会者が女性リポーターを見つめた。
「その言葉はどんな言葉でしたか?」
「その言葉は……『運命の人』です」
男性司会者がしみじみと話した。
「互いに互いを運命の人と感じたわけですね?うらやましいですね、なかなか運命の人には出会えませんからね……」
テレビから流れるワイドショーの番組を、マンションの一室でソファに座りながら見ている二階堂沙知絵と砂袋金五郎……
肩寄せ合う二人の唇が静かに重なっていた。
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