《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖

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第十一章

91.マリアの異変

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ジェームズが、オリビアの店を訪ねてから七年が経っていた。相変わらずジェームズは、昔と変わらぬ生活を送っていた。

「じゃあ、マリア、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、あなた」

ジェームズ(43)はマリア(38)に軽く手を振ると、通りに出てもう一度後ろを振り返った。

普段のジェームズなら、気にしなかったかもしれない。だが、なんとなく後ろ髪を引かれるような感じがして、少しだけ後ずさりして玄関を見た。

「ん?」

半開きの扉の下に、頭が見えた。

「マリア!」

急いで駆け寄り、マリアを抱き起こす。

「おい!マリア!マリアしっかりしろ!」

(医者だ!医者を連れて来ないと)
首元に指を当てて脈があるか確かめるジェームズ。

ジェームズはマリアを抱き上げると、そのまま病院へ向かうことにした。

最初は近所の町医者へ連れて行ったのだが、手に負えないと言われて、町医者が馬車を手配してくれ、そのまま王立病院へと運び込まれた。



病室で意識が戻らないまま眠っているマリア。脳の血管が詰まったのかもしれないと言われ、現在は飲み薬を処方されてマリアは休んでいた。

マリアの顔をじっと見つめながら、傍らで見守るジェームズ。

「マリア……」

(俺より先に行くんじゃないぞ)

ジェームズは立ち上がると、意識のないマリアに声をかける。

「マリア……頑張るんだぞ」そう言って病室を出ていった。

ジェームズは、無断欠勤したので、警備隊本部へ事情説明をしに行くことにしたのだ。


その頃、マリアは過去の出来事を走馬灯のように眺めていた。

伯爵家の三番目の娘として生まれ、幸せな時を過ごした。お母様、お父様、お兄様、お姉様……皆、優しかった。

初等部に入学。友達ができて楽しいことや、喧嘩をして辛いことがあったりした。

中等部の頃、友達と一緒に高等部の学園祭に行ったことがあった。

ちょうど生徒会主催による演劇が始まろうとしていた。

「ねぇマリア、お芝居を観に行こうよ」
友達のジェスに誘われて体育館へ向かった。だが、会場はすでに満席で、座ることができずに立ち見で観ていた。

そこへ、当時生徒会長だったジェームズが長い金色の髪の毛をなびかせて舞台に登場した。

マリアはその男子生徒に心を奪われた。

「素敵…」思わず口に出たその言葉にジェスが反応した。

「あの人、生徒会長のジェームズ様だって」そう耳打ちをしてくれた。

この時、マリアにとってジェームズは少しだけ特別な人になった。

時は経ち、中等部を卒業して、高等部に入学。勉強も厳しくなり、それでも頑張って授業にはついて行った。

三年生になってすぐに進路相談が始まった。担任が尋ねる。

「マリア、卒業したらどうするんだ?結婚か?それとも就職か?」

「私、本が好きなので図書館に就職したいです」

「図書館?王都の?それとも地方の?」

「王都です。王立図書館です」

そして、就職試験に臨み、見事王立図書館に合格した。

先輩にはオリビアさんがいて、いつも親切にしてくれた。ある日、仕事が終わって帰ろうとしたら、オリビア先輩が男の人と一緒にいるところを目撃した。

そして、その男の人に目が釘付けになる。

「あ……あの人は…ジェームズ様」

高等部の学園祭の演劇で、彼を観たことを思い出すマリア。

「オリビア先輩の彼氏だったんだ……」

ある日、マリアは勇気を出してオリビア先輩に頼んでみる。先輩たちと一緒に食事に連れて行ってほしいと。

オリビア先輩は頼みを聞いてくれて、彼氏との待ち合わせ場所に連れて行ってくれた。

お店の前に、あのジェームズ様が立っていた。髪の毛は短くカットされていたが、紛れもなく舞台で演技をしていたジェームズ様だった。

三人で食べる食事は楽しくてお酒も沢山飲んだ。

酔っ払った三人は馬車で帰ったのだが……朝、気がつくとマリアは裸で寝ていた。そして隣にはジェームズ様がいた。

「きゃああああああああああ!」
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