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第三章 もしも、あの時、自然消滅していなかったら……
㉛ループの問いかけ
「まずはギャラン伯爵にお伺いします。あなたはなぜクロッグ様の婿養子に限り結婚を認めると言われたのですか?」
なんだ、そんなことか、とでも言いたげに、ギャラン伯爵は返事をした。
「私にはアガサしか子供がいなかったからだ」
「アガサ様を嫁に出して、親戚からヤンセン家の血筋の者を養子に迎え入れることは考えなかったのですか?」
「ない。ループとやら、なぜ実子がいるのにわざわざ私の血を引き継がない者を、ヤンセン伯爵家の後継者にせねばならんのだ?」
「クロッグ様が婿養子になってもあなたとは血は繋がってはおりませんが?」
「血は繋がってはいないが、アガサが生んだ子供は紛れもなく私の血を受け継いでいるだろう?」
ループは次にヤンセン伯爵に質問を始める。
「ヤンセン伯爵様、あなたはなぜクロッグ様をギャラン伯爵家に養子に出さなかったのですか?」
「クロッグは我がヤンセン伯爵家唯一の男子だからだ」
「ですが、ヤンセン伯爵家にはクロッグの妹君、オリビア様がおられます。クロッグ様を婿養子に出しても問題なかったのでは?」
「ループ、嫡子となる男子が一人しかおらんのに、その嫡子となる男子を婿に出したなどということを聞いたことがあるか?」
「では、クロッグ様を婿養子に出そうと思えばできたのに、その前例がなかったからしなかった、ということですか?」
「うーん、まあ、そう取ってくれても構わん」
「ヤンセン伯爵様は、息子の幸せよりも世間体を気にしたと思って構わないのですね?」
「違う!私は世間体など考えておらん。貴族としての常識を貫いたまでだ」
「両伯爵家の考えは分かりました。では、なぜ、あなた方は、直接会って、それぞれの家の事情を打ち明け、話し合わなかったのですか?」
「自分たちの子供が付き合っているのを知っていたのに、親同士は一度も会ったことがない」
「ギャラン伯爵様、普通は婿養子をもらう方が、なんとかならないものかと頼みに行くなり、様子を窺うなり、相手の親に接触を図ろうとするものじゃないんですか?」
ループは一息つき、両伯爵に尋ねる。
「ヤンセン伯爵様、ギャラン伯爵様にお伺いします。なぜ、相手の親に一度も会おうとしなかったのですか?」
返事をしない両伯爵の顔を見て、ループはため息をつく。
「お二人は駆け落ちが起こった後も、この一週間、今日まで一度も顔を合わせておりません。なぜですか?理由をお聞かせ願いたい」
両伯爵とも口を真一文字にして、黙り込む。
「では、アガサ様に質問です」
「は、はい」
急に名前を呼ばれてびっくりするアガサ。
「あなたは、今度の休みにお見合いがあると、クロッグ様に伝えた時、他にも何か話しましたね?」
「……」
「両伯爵の昔話を!」
「あ、はい、そうです」
「ここで話して頂けますか?」
その時、ギャラン伯爵が鋭い声でアガサを止める。
「アガサ、やめなさい。今回のお前たちの駆け落ちとは関係ないことだ」
そこへヤンセン伯爵も同意する。
「その通りだ!ここで話すことではない。話すのは止めるんだ!」
「こら!ヤンセン、私の娘に命令するんじゃない」
「なんだとう!?お前の教育が悪いから空気が読めんのだ」
「なにお~!」
その時また公爵が二人を叱る。
「こら!静かにせんか!」
すぐに黙る両伯爵。
「ではアガサ、続きを」
公爵がアガサを促す。
「はい。えー、古株のメイドから聞いたのですが、お父様とヤンセン伯爵様は昔、恋敵だったと聞かされました」
「恋敵ですか、どこにでもある話ですが?」ループが聞き返す。
「はい、でもちょっと違うんです」
「どこがですか?」
「私の父はヤンセン伯爵様から婚約者を奪ったんです」
「うーん、まあ稀に聞く話ではありますが…あ、続けてください」
「はい。問題は私がその婚約者の娘と言うことです」
「……」
静まり返る中、アガサの声がよく通った。
「ヤンセン伯爵様にすれば、婚約者を奪われ、忘れた頃に、今度はその元婚約者の生んだ娘に自分の息子まで取られそうになった、ということです」
ギャラン伯爵が悲痛な表情になる。
上目遣いでヤンセン伯爵の顔色を窺うギャラン伯爵。
ヤンセン伯爵は思い出したくもなかったのだろう。目が泳いでいた。
その時ギャラン伯爵が重い口を開く。
「ヤンセン」
自分の名前を呼ばれて、泳いでいたヤンセン伯爵の視線が、目の前に座るギャラン伯爵のところで止まる。
「ん?」
「ヤンセン、済まなかった。私が悪かった」
「……」
「謝る。この通りだ」
ギャラン伯爵が頭をテーブルにつけて、そのまま話し続ける。
「頼む。アガサをクロッグ君と結婚させてやってくれ」
父親の言葉に驚くアガサ。
そしてギャラン伯爵は、やっと頭を上げたが目は下を向いたままで、小さな声で話す。
「あの子が駆け落ちをして一週間。私の胸は大きな穴がぽっかり開いたようになった…」
「娘と婚約者を比較するのはなんだが、ヤンセン、お前からマーガレットを奪って悪かった。お前も、辛い思いをしたんだろう?本当に悪かった。その時のことは謝るから、アガサをヤンセン家の嫁としてもらってやってくれないか」
涙ぐむアガサの背中をさすり黙って両伯爵の会話を聞いているクロッグ。
ヤンセン伯爵は言葉をかける。
「いいのか?お前はそれで」
「ああ、ご先祖様のためにも家の存続はしないといけないから、親戚から養子に来てくれる人を探すよ」
「ギャラン、お前、誤解をしているぞ?」
「ん?誤解?」
なんだ、そんなことか、とでも言いたげに、ギャラン伯爵は返事をした。
「私にはアガサしか子供がいなかったからだ」
「アガサ様を嫁に出して、親戚からヤンセン家の血筋の者を養子に迎え入れることは考えなかったのですか?」
「ない。ループとやら、なぜ実子がいるのにわざわざ私の血を引き継がない者を、ヤンセン伯爵家の後継者にせねばならんのだ?」
「クロッグ様が婿養子になってもあなたとは血は繋がってはおりませんが?」
「血は繋がってはいないが、アガサが生んだ子供は紛れもなく私の血を受け継いでいるだろう?」
ループは次にヤンセン伯爵に質問を始める。
「ヤンセン伯爵様、あなたはなぜクロッグ様をギャラン伯爵家に養子に出さなかったのですか?」
「クロッグは我がヤンセン伯爵家唯一の男子だからだ」
「ですが、ヤンセン伯爵家にはクロッグの妹君、オリビア様がおられます。クロッグ様を婿養子に出しても問題なかったのでは?」
「ループ、嫡子となる男子が一人しかおらんのに、その嫡子となる男子を婿に出したなどということを聞いたことがあるか?」
「では、クロッグ様を婿養子に出そうと思えばできたのに、その前例がなかったからしなかった、ということですか?」
「うーん、まあ、そう取ってくれても構わん」
「ヤンセン伯爵様は、息子の幸せよりも世間体を気にしたと思って構わないのですね?」
「違う!私は世間体など考えておらん。貴族としての常識を貫いたまでだ」
「両伯爵家の考えは分かりました。では、なぜ、あなた方は、直接会って、それぞれの家の事情を打ち明け、話し合わなかったのですか?」
「自分たちの子供が付き合っているのを知っていたのに、親同士は一度も会ったことがない」
「ギャラン伯爵様、普通は婿養子をもらう方が、なんとかならないものかと頼みに行くなり、様子を窺うなり、相手の親に接触を図ろうとするものじゃないんですか?」
ループは一息つき、両伯爵に尋ねる。
「ヤンセン伯爵様、ギャラン伯爵様にお伺いします。なぜ、相手の親に一度も会おうとしなかったのですか?」
返事をしない両伯爵の顔を見て、ループはため息をつく。
「お二人は駆け落ちが起こった後も、この一週間、今日まで一度も顔を合わせておりません。なぜですか?理由をお聞かせ願いたい」
両伯爵とも口を真一文字にして、黙り込む。
「では、アガサ様に質問です」
「は、はい」
急に名前を呼ばれてびっくりするアガサ。
「あなたは、今度の休みにお見合いがあると、クロッグ様に伝えた時、他にも何か話しましたね?」
「……」
「両伯爵の昔話を!」
「あ、はい、そうです」
「ここで話して頂けますか?」
その時、ギャラン伯爵が鋭い声でアガサを止める。
「アガサ、やめなさい。今回のお前たちの駆け落ちとは関係ないことだ」
そこへヤンセン伯爵も同意する。
「その通りだ!ここで話すことではない。話すのは止めるんだ!」
「こら!ヤンセン、私の娘に命令するんじゃない」
「なんだとう!?お前の教育が悪いから空気が読めんのだ」
「なにお~!」
その時また公爵が二人を叱る。
「こら!静かにせんか!」
すぐに黙る両伯爵。
「ではアガサ、続きを」
公爵がアガサを促す。
「はい。えー、古株のメイドから聞いたのですが、お父様とヤンセン伯爵様は昔、恋敵だったと聞かされました」
「恋敵ですか、どこにでもある話ですが?」ループが聞き返す。
「はい、でもちょっと違うんです」
「どこがですか?」
「私の父はヤンセン伯爵様から婚約者を奪ったんです」
「うーん、まあ稀に聞く話ではありますが…あ、続けてください」
「はい。問題は私がその婚約者の娘と言うことです」
「……」
静まり返る中、アガサの声がよく通った。
「ヤンセン伯爵様にすれば、婚約者を奪われ、忘れた頃に、今度はその元婚約者の生んだ娘に自分の息子まで取られそうになった、ということです」
ギャラン伯爵が悲痛な表情になる。
上目遣いでヤンセン伯爵の顔色を窺うギャラン伯爵。
ヤンセン伯爵は思い出したくもなかったのだろう。目が泳いでいた。
その時ギャラン伯爵が重い口を開く。
「ヤンセン」
自分の名前を呼ばれて、泳いでいたヤンセン伯爵の視線が、目の前に座るギャラン伯爵のところで止まる。
「ん?」
「ヤンセン、済まなかった。私が悪かった」
「……」
「謝る。この通りだ」
ギャラン伯爵が頭をテーブルにつけて、そのまま話し続ける。
「頼む。アガサをクロッグ君と結婚させてやってくれ」
父親の言葉に驚くアガサ。
そしてギャラン伯爵は、やっと頭を上げたが目は下を向いたままで、小さな声で話す。
「あの子が駆け落ちをして一週間。私の胸は大きな穴がぽっかり開いたようになった…」
「娘と婚約者を比較するのはなんだが、ヤンセン、お前からマーガレットを奪って悪かった。お前も、辛い思いをしたんだろう?本当に悪かった。その時のことは謝るから、アガサをヤンセン家の嫁としてもらってやってくれないか」
涙ぐむアガサの背中をさすり黙って両伯爵の会話を聞いているクロッグ。
ヤンセン伯爵は言葉をかける。
「いいのか?お前はそれで」
「ああ、ご先祖様のためにも家の存続はしないといけないから、親戚から養子に来てくれる人を探すよ」
「ギャラン、お前、誤解をしているぞ?」
「ん?誤解?」
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