《完結》時を越える愛ーエレッセ公爵家の秘密ー

第七章

㊿フリーマンの前世

サマンサたちがフリーマンを心配していた頃、当の本人はサマンサとは違う世界へと迷い込んでいた。

フリーマンが気がつくと見知らぬ部屋の中にいた。

「ここは一体どこなんだ？」

その時、猛烈な頭痛がフリーマンを襲う。

「うっ……」

頭を抱え込みうずくまるフリーマン。しばらく頭痛を堪えていると少しずつ痛みが和らいできた。

その時声をかけられる。

「健司、どうかしたの？」

「……」あれ？俺は誰だっけ？

「どうしたの？健司……。また浮気相手のこと考えているの？」

話しかけてきた女性を見て思い出す。

（あ、俺、健司だった）

（なにしてたんだっけ？俺）

「もう、知らない」

ふてくされる優子。すぐに健司は機嫌を取る。

「ごめんごめん。今日の授業のこと考えていただけさ」

「ほんとかしら」

そう言いながら優子はテーブルの上に食事を並べていく。

食パンにマーガリン、バナナとヨーグルト、そして牛乳。

急いで食べ始める健司。

その時優子が突然言い出す。

「私、部屋を出ていくわ」

「え？」

「どうして？」

「健司の浮気グセが全然なおらないから！」

そういうと立ち上がり「食べたら後片付け自分でやってね」

そう言って優子は部屋を出ていった。

呆然と見ていた健司が我に返り急いで優子を追いかける。

アパートを飛び出し、通りに出ると優子が歩道を歩いていた。

追いかける健司。

「待てよ！待ってくれよ！優子！」

聞こえているのに振り向きもしない優子。

健司は追いつくと優子の腕を掴む。

「待ってくれよ、頼むよ」

「もう嫌なの、健司が浮気をやめないのは私のことを愛していないからでしょ？」

「違うよ、本当に君のことが好きなんだ！」

「離して！」

「優子！頼むよ、行かないでくれ！」

健司は強く腕を引っ張る。しかしバランスを崩して優子と二人で車道へ飛び出してしまった。

バン！

二人はあっけなく車に轢かれて死んだ。


❖


フリーマンが目覚めると執務室の中にいた。

「あ……ここは」

サマンサがすぐに声を掛ける。

「よかったぁ、フリーマン、驚かさないでよ。目覚めないから心配したんだよ？」

虚ろな瞳でサマンサを見る。

「あ、お姉様……ごきげんよう」

その時前世の記憶が流れ込む。

自分のせいで優子が死んだ。自分のせいで……。

涙があふれて止まらなかった。

驚く周りを尻目にレイスがハンカチを貸してくれた。

「あ、ありがとう」

レイスの顔を見てフリーマンが呟く。

「優子……」

その言葉にレイスの表情が変わる。

「え？……ユウコ？」　　

その言葉でフリーマンと健司の姿が重なり、レイスの目の前に走馬灯のように前前世の記憶が流れ込む。

「もしかして……健司なの？」

もう、フリーマンは止まらない。

レイスを抱きしめ声をかける。

「ごめん優子、俺のせいで」

「ううん」

「もうお前を離したくない」

フリーマンは少し離れるとレイスの肩に手を置いて告白する。

「好きだ。愛してる。僕と結婚してくれ優子……じゃないレイス」

フリーマンはレイスの唇を奪おうとしたが……すぐに、サマンサに引き離された。


❖

その後、フリーマンとレイスは婚約をした。

フリーマンはまだ15歳で高等部の一年生だった。なので結婚は卒業してからとなる。

デミルスはその後伯爵令嬢とお見合いをして婚約が決まり翌年結婚することになっている。

サマンサは結局、運命の砂時計で運命の人は見つけられずに当分の間は恋人探しの人生が待っていた。

しかし運命の人を見つけた弟フリーマンが羨ましくて、サマンサはもう一度運命の砂時計を使うことを決意する。

今度はたった一人でやるつもりだった……。



第八章　完