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プロローグ
001 逆恨みされて
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とある県立高校の体育館、初夏の熱気を含んだ風と体育館内の空気がまじりあう。
外からの風は梅雨前の湿気を含み、内部の空気はかぎたくない湿気、野郎どもの汗が蒸発したものが充満している。
男子校で慣れてる、部活でも慣れてる。でも、やっぱり嗅ぎたくないわ、これ。
某県夏の剣道大会某支部予選、うちの学校は午前中にさくっと団体戦県大会出場を決め、午後の個人戦に臨んでいた。
一応、俺は3年生、個人戦の出場メンバーに滑り込むことができている。
うちの学校は勉強こそ県下上位だが、運動の方はお世辞にも強いとはいえない。ただ、男子校で誘惑がない分、そこそこ真面目に稽古を積み、支部大会ならばよほどのことがない限りは勝ち上がれる程度の実力をつけていた。
先鋒いわく 「ていうか右を向いても左をむいてもキタナイ野郎どもしかいる地獄じゃなきゃ、こんな部活やってないわ。恋の冒険してるに決まってんだろ」
「なんで、共学の奴らは女子の応援があるんだよ、サポーターは12番めの選手っていうんだろ。ずるくね?」と次鋒。
中堅が「マッポーマッポー、昔、日本史でやったろ、今はマッポーなんだよ。現世で俺たちに明日はないんだ」
副将「……」
大将が 「いや、俺は来世ではイケメンになって、女子校に入学するから」と締めくくる。
稽古のあとにカレーパン食いながらみんなで確認し合ったが、残念なことにみんな口だけだ。賭けても良い、俺の愛用の小手を。えっ、いらない?そりゃ、ごもっとも。ちなみに心のなかでツッコミを入れながらも周りの目を気にして無言を貫いていたチキンな副将が俺だ。ていうか、イケメンになったって、女子校に入学とかできないだろ。あいつ、成績は良いほうなのに、仕様がバカにできてるな。
くだらない会話をしている間に個人戦の2回戦が始まる。4試合目の俺の相手は1回戦不戦勝、探してみると、いました……DQ……いや、やんちゃそうな方が。この体育館で赤髪はちょっと目立ちすぎでしょう。なんか、スカート短い女子が近くにいるし。
某県屈指の強豪男子校の選手がこちらに目配せする。午前中の団体戦準決勝で俺たちに5タテくらわしてくれたチームの一員だ。顔と身体こそいかついが、話してみると案外いいやつ。彼の目と五厘刈りの頭が怪しい光を放つ。
「殺・れ」
ですよねー。染めようにも髪を生やすことすら許されてない彼からしてみれば、赤髪だけでも許しがたいのに、そのうえ女の子連れだものねー。髪は一応生えているが、染めることは許されてない男子校仲間の俺は即座に理解した。
面をつけて、試合会場で待機。左足から試合会場に入って、立礼をして、右足から三歩進みながら、竹刀を抜く。防具の付け方をみても、赤髪のやんちゃくんは強そうに見えない。なんだよ、この会場限定なら、俺たちのほうが格好いいじゃないかよっ!面被ったら顔見えないしさ。
「はじめっ!」
審判の合図とともに、中段に構えた竹刀で相手の竹刀を押しながら、攻め込む。あ、いきなり、手元上がってるし、左足のかかとついちゃって、思いっきりびびってんじゃん。これは五厘ボーイのためにも大技で決めてやろう。
相手の喉元に剣先をつけながら、さらにぐっと入り、大きく振りかぶる。びびった相手の竹刀がつられて面をかばうようにあがったところで、「ドー」相手の左胴を引き切る。はい、逆胴。バシーンという音とともに審判全員が旗を上げ、「胴ありっ」一本。
この逆胴、普通の技だけど、上の人にいきなり使うと怒られる程度には大技。いきなり初手で決められるとものすごく格好悪い。
相手は……竹刀叩きつけて悔しがって、さらに審判に注意されている。こいつ、もしかしなくても、ものすごくだめなやつだわ。
「にほんめっ!」審判の合図とともに、赤髪くんは竹刀をもう一度叩きつけると、上段に構えて、すぐに中段に戻す。予選なしの地区大会とはいえ、まじでなんでお前ここにいるんだというレベル。あっけにとられていると、相手は片手で構える。○突ですか、牙○零式出ちゃうんですかとか心のなかでツッコミをいれているときに気づく。あ、こいつの竹刀壊れてるじゃん。ろくに点検もしないで、手荒に扱うからいけないんだよ。審判が気づいていないからタイムかけないと。
片手を上げて、タイムをかけようとしたときに牙突が飛んできた。
相手の竹刀は俺の面の面金にあたると、先革がはずれて、竹刀がばらけた。中に詰められていた赤いゴムが飛び、竹がすぅーっとスローモーションで目の前に来た。ああ、左目が。
このままだと眼球が潰れ、脳に達するのだろう。
陰キャの俺がリア充の方を公衆の面前でおちょくるから、こうなっちゃうんだな。陰キャは逆恨みとかしないで、おとなしくしてなさいってこった。スローモーションになる世界で俺はしょうもないことを考えた。そして意識はとぎれた。
こうして、俺、四方明は死んだ。多分。
少なくとも気がついたときは病院でなかったのだから、現世では死んだ的な扱いなんじゃないかな。
外からの風は梅雨前の湿気を含み、内部の空気はかぎたくない湿気、野郎どもの汗が蒸発したものが充満している。
男子校で慣れてる、部活でも慣れてる。でも、やっぱり嗅ぎたくないわ、これ。
某県夏の剣道大会某支部予選、うちの学校は午前中にさくっと団体戦県大会出場を決め、午後の個人戦に臨んでいた。
一応、俺は3年生、個人戦の出場メンバーに滑り込むことができている。
うちの学校は勉強こそ県下上位だが、運動の方はお世辞にも強いとはいえない。ただ、男子校で誘惑がない分、そこそこ真面目に稽古を積み、支部大会ならばよほどのことがない限りは勝ち上がれる程度の実力をつけていた。
先鋒いわく 「ていうか右を向いても左をむいてもキタナイ野郎どもしかいる地獄じゃなきゃ、こんな部活やってないわ。恋の冒険してるに決まってんだろ」
「なんで、共学の奴らは女子の応援があるんだよ、サポーターは12番めの選手っていうんだろ。ずるくね?」と次鋒。
中堅が「マッポーマッポー、昔、日本史でやったろ、今はマッポーなんだよ。現世で俺たちに明日はないんだ」
副将「……」
大将が 「いや、俺は来世ではイケメンになって、女子校に入学するから」と締めくくる。
稽古のあとにカレーパン食いながらみんなで確認し合ったが、残念なことにみんな口だけだ。賭けても良い、俺の愛用の小手を。えっ、いらない?そりゃ、ごもっとも。ちなみに心のなかでツッコミを入れながらも周りの目を気にして無言を貫いていたチキンな副将が俺だ。ていうか、イケメンになったって、女子校に入学とかできないだろ。あいつ、成績は良いほうなのに、仕様がバカにできてるな。
くだらない会話をしている間に個人戦の2回戦が始まる。4試合目の俺の相手は1回戦不戦勝、探してみると、いました……DQ……いや、やんちゃそうな方が。この体育館で赤髪はちょっと目立ちすぎでしょう。なんか、スカート短い女子が近くにいるし。
某県屈指の強豪男子校の選手がこちらに目配せする。午前中の団体戦準決勝で俺たちに5タテくらわしてくれたチームの一員だ。顔と身体こそいかついが、話してみると案外いいやつ。彼の目と五厘刈りの頭が怪しい光を放つ。
「殺・れ」
ですよねー。染めようにも髪を生やすことすら許されてない彼からしてみれば、赤髪だけでも許しがたいのに、そのうえ女の子連れだものねー。髪は一応生えているが、染めることは許されてない男子校仲間の俺は即座に理解した。
面をつけて、試合会場で待機。左足から試合会場に入って、立礼をして、右足から三歩進みながら、竹刀を抜く。防具の付け方をみても、赤髪のやんちゃくんは強そうに見えない。なんだよ、この会場限定なら、俺たちのほうが格好いいじゃないかよっ!面被ったら顔見えないしさ。
「はじめっ!」
審判の合図とともに、中段に構えた竹刀で相手の竹刀を押しながら、攻め込む。あ、いきなり、手元上がってるし、左足のかかとついちゃって、思いっきりびびってんじゃん。これは五厘ボーイのためにも大技で決めてやろう。
相手の喉元に剣先をつけながら、さらにぐっと入り、大きく振りかぶる。びびった相手の竹刀がつられて面をかばうようにあがったところで、「ドー」相手の左胴を引き切る。はい、逆胴。バシーンという音とともに審判全員が旗を上げ、「胴ありっ」一本。
この逆胴、普通の技だけど、上の人にいきなり使うと怒られる程度には大技。いきなり初手で決められるとものすごく格好悪い。
相手は……竹刀叩きつけて悔しがって、さらに審判に注意されている。こいつ、もしかしなくても、ものすごくだめなやつだわ。
「にほんめっ!」審判の合図とともに、赤髪くんは竹刀をもう一度叩きつけると、上段に構えて、すぐに中段に戻す。予選なしの地区大会とはいえ、まじでなんでお前ここにいるんだというレベル。あっけにとられていると、相手は片手で構える。○突ですか、牙○零式出ちゃうんですかとか心のなかでツッコミをいれているときに気づく。あ、こいつの竹刀壊れてるじゃん。ろくに点検もしないで、手荒に扱うからいけないんだよ。審判が気づいていないからタイムかけないと。
片手を上げて、タイムをかけようとしたときに牙突が飛んできた。
相手の竹刀は俺の面の面金にあたると、先革がはずれて、竹刀がばらけた。中に詰められていた赤いゴムが飛び、竹がすぅーっとスローモーションで目の前に来た。ああ、左目が。
このままだと眼球が潰れ、脳に達するのだろう。
陰キャの俺がリア充の方を公衆の面前でおちょくるから、こうなっちゃうんだな。陰キャは逆恨みとかしないで、おとなしくしてなさいってこった。スローモーションになる世界で俺はしょうもないことを考えた。そして意識はとぎれた。
こうして、俺、四方明は死んだ。多分。
少なくとも気がついたときは病院でなかったのだから、現世では死んだ的な扱いなんじゃないかな。
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