道化の世界探索記

黒石廉

文字の大きさ
12 / 148
プロローグ

011 訓練の終了とパーティー

しおりを挟む
 訓練十日目の午前の座学が終わったあと、モヒカン教官が皆に話をはじめた。
 「本日を持ってお前らの訓練は終わりとなる。明日からはお前らは共和国所属の探索隊の一員として、各自臨機応変に作戦の立案、遂行をしてもらうことになる」

 座学で習っていたことだが、モヒカン教官がしきりにいう共和国つまり俺たちがいまる国は一種の都市国家らしい。
 中洲なかす穀倉こくそう地帯と城壁に囲まれた都市中心部と港湾地区がある。このあたりは川や海、城壁で囲まれた安全地帯である。
 中洲の外側には増えてきた住民たちの住む街区が存在する。俺たちが自由に行動できるのは基本的にこの城壁の外の街区だけである。
 
 人間の集まる都市は近隣に山間部にある鉄の王国、奥まった平野部にある大穴の王国というのがあるらしい。
 また、都市国家ではないが牧草地帯で遊牧に従事しているソという人々がいるのだそうだ。
 鉄の王国はその名の通り鉄を始めとした鉱物を、ソの民は家畜や畜産品を、大穴の王国は大穴と呼ばれる迷宮から出土する品物と穀物を主な交易品としている。そして、我ら?が共和国の主な取引材料は海産物と穀物である。
 この3つの都市国家と牧畜民は多少のいざこざや利害関係の不一致こそあっても基本的に友好関係にあるという。
 
 さて、これらの都市国家と遊牧民たちの居住地域は近隣と言ってもそれぞれ徒歩で1ヶ月以上はかかるあたりである。安全とは言えない街道を隊商たちが通って貿易をしている。
 この安全とは言えない街道の周囲には小さな集落ができたり、消えたりしている。
 消える理由は多くの場合、危険生物の襲撃だ。
 たとえば、野生の動物の中には凶暴なものもいる。これが集落や隊商にとって危険となることもある。
 また、亜人と呼ばれる知能と社会性をもつ者たちがいて、彼らもまた集落や隊商を襲ったりする。亜人は様々な種がいるが、多くの場合、人間を忌み嫌っているというか恨んでいるという。彼らの信仰する神を人間の信仰する神が騙したというのが、亜人種側の言い分で、人間側の神話によれば、亜人は自ら堕落した者たちの末裔なのだという。ここらへんの神話の話は面白そうだったので、もうちょっと詳しく聞きたかったが、探索隊任務に役立つものではないので、ほとんど聞かされなかった。

 で、俺たちがこれから所属する探索隊というは、隊商の護衛や居住地の拡大防衛任務、前人未到の地や迷宮の探索など諸々を請け負う職業の集合体だ。「隊」と名が付いているが、基本的には「遊撃任務」で、各人が最善を尽くし、共和国に奉仕するのだそうだ。
 わかりやすく言えば冒険者、ぶっちゃけて言うなら資格と簡単な訓練だけで放り出される使い捨ての便利屋ってことみたい。これがモヒカン教官に言わせると「各自臨機応変に作戦の立案、遂行」をすることらしいから、物は言いようだ。
 使い捨ての便利屋……まぁ、十日間だものなぁ。

 モヒカン教官の名誉のために付け加えると、彼はその髪型と最初の印象以外は厳しいながらも面倒見の良い人だった。
 静電気流したりしちゃったこと少しだけ後悔している。
 下手に謝ろうものならしこたま殴られそうだから、ずっとだまってるけど。

 探索隊は数人のチームを組むのが基本らしい。
 別に大所帯であっても問題はないのだが、それだと仕事が来なくて困るからというのが数人という理由だ。
 数人来てもらえば良いような仕事に何十人と来られても困るから。
 また、報酬は一人あたりではなく1つの仕事あたりで支払われることもよくあることなので、あまりにも人数が多いとそもそも食べていけるだけの分け前を得ることができないという理由もあるという。
 大人数が必要とされる場合は大々的な募集をかけて、そこにいくつかのパーティーが集合する形をとるらしい。

 で、基本的に訓練所で最初のパーティーを決めるらしい。
 もちろん、外でパーティーの仲間を募るのも可能らしいけれど、治療術や妖術といった希少な才能を持った者でなければ相手にしてもらえないのだそうだ。
 逆に言うと、そのような才能のある者は訓練所から出た日から引く手数多あまたなのだそうだ。
 となると、俺たちみたいなペーペーは基本的に術者抜きのパーティーで仕事をやり抜くのが基本となる。

 「お前らの訓練課程終了と輝かしい前途を祝して、本日は簡素ながら宴を用意する。楽しみながら、今後ともに戦い抜く仲間を見つけてほしい」
 ここでは昼食は出ないはずなのに肉を焼く良い匂いがしてくると思ったらこれか。
 ふっと目を向けると、いつもの食事面子の男二人と目が合った。
 食事は楽しみだけど、パーティー結成は……多分、俺たちあぶれるんだろうなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...