道化の世界探索記

黒石廉

文字の大きさ
31 / 148
第1部 間奏

029 お買い物リベンジ

しおりを挟む
 「10日ぐらいは切り詰めずに過ごせる額を残して、残りは装備を強化しましょう」
 サゴさんの試算だと、1日銅貨50枚もあれば、公衆浴場で汗を流して、帰りにビールをひっかけるくらいの贅沢までできるらしい。
 サゴさんはともかく俺たちは基本的に好き好んで飲まないが、生活費は余裕を見ていたほうが安全だ。
 銀貨12枚-銅貨50枚×10日=銀貨7枚。これが今回の装備強化費用となる。
 前回に比べると増えたけれど、まだまだ中古品中心の生活は続きそうだ。

 「すいません、鎧、修理に出したいんですけど」
 「ここはただの中古屋だから職人を紹介してやる」
 以前買い物をした露天商のおじさんにたずねたが、無理だと言われてしまった。
 「まず、これをどうにかしないといけないから、先に買い物を済ませておいて、宿に戻ってていいから」
 修理の値段の相場を聞いた後、3人の仲間に告げて、職人の店を訪れる。
 「銀貨1枚、3日後」
 露天商のおじさん曰く、愛想はないが安くて腕は確かという職人と最低限の会話をして、露天商のところに戻る。

 他の3人は会計をすませたところだった。

 サゴさんは、百姓一揆みたいな農具から短めの槍に持ち替えたらしい。革張りの円盾まるたて、履物も短靴たんかから丈夫そうな革のブーツになっているし、小さな弓と矢筒まで装備している。いっぱしの冒険者という感じだ。
 「弓はあったほうがいいですからね。あまり自信はないですけど、練習あるのみです」
 
 チュウジも革張りの円盾を買ったらしい。手のひら側が露出した革の手甲に革のすね当て、革のブーツ、前回は胴と頭にしか防具をつけていなかったが、全て揃えられたらしい。腰に小剣まで下げてる。
 「お気に入りの鎖分銅はどこ言ったんだ」
 たずねると、チュウジはニッと笑って円盾をかかげる。裏側に軽く巻き付けて収納してある。
 「状況に応じて臨機応変に武器を使い分けられてこそ、暗黒騎士というものよ」
 とりあえず暗黒騎士と言いたいだけだろとツッコミをいれたくなったが、買い物を済ませていない俺はぐっとこらえる。

 ミカもブーツを買ったらしい。盾もこれまでの木の盾から革張りの大盾に買い替えたようだ。武器もメイスに変えたようだ。
 「みんなブーツ買ってるから、俺も買おうかな」
 「一緒に選んであげるよ」
 「サゴ殿、我は影の騎士、人混みはあまり得意ではない。こののろまのグズはミカ殿にまかせて先に戻っていようではないか」
 チュウジの罵倒つき気遣いで俺とミカで買い物することになった。
 「チュウジくん、いい子だよね。あんな弟ほしいな」
 「いや、高1にしてなお重度の中二病だぞ」
 言動も見かけも中2な奴であるが、実は高1だったということを先日聞いた。
 「そこもまた可愛いところ、やっぱりシカタ×チュウジが一番だよね」
 「そこ、同意を求められても困るんですけど」

 「剣が欲しかったんだけど、斧って使ってみると案外面白いんだよね。柄が長くて持つところが調整きくから片手でも両手でも使えるし」
 そんな話をしていると、「ちょうど良いのが入荷している」と戦斧を勧められた。
 ほぼ新品で銀貨2枚で良いらしい。
 「ほぼ新品で中古に出るって、なんか呪われてるとかあるんじゃないんですか?」
 「呪いの武具なんて言われるいわくつきの代物は、こんな露店で安値で売らねぇよ。好事家こうずかにしこたま高く売れるからな」
 1メートル弱の柄に鉄製の石突、片側だけ刃がついている。
 刀の国で生まれ育った男の子としては両刃的な武器になんか抵抗感があるので、片刃であるというところもポイントが高い。両刃だと押し込まれた時に自分を切っちゃうんじゃないかって妙な心配をしてしまうんだよな。
 
 「よし買った。今すぐ買います」
 即決。基本両手で持つので盾は買わない。あとはみんなが買っていた革のブーツ、そして以前欲しかったすね当てを買う。どちらも今回は比較的よい状態のを買った。
 みんなが買ってないものとしては、面頬めんぽおという顔の下半分をガードする防具を買うことにした。
 「それ、本当に買うの?」
 「顔面には急所が集まっていると言うしね。盾も持たない俺には必要でしょ」 
 「……そう言われるとそうだよね」
 合計銀貨5枚。鎧の修理代を入れても銀貨6枚だ。片手の斧は予備の武器兼日常作業用としてとっておくことにした。

 「そういえば、ミカさん、なんで面頬買うのって聞いたの?」
 「それちょっと顔に当ててみようか」
 「お、おう。くせっ。くさいわっ。タナカ同期の小手の臭いがする」
 「あたしも買おうか迷ったんだけど、遠くからでもやばげな臭いがしてたから買えなかったんだよね。これだけは新品で買おうって。シカタくん、ちゅうちょなく買うから、さすが元剣道部、臭いへの耐性あるんだなって……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...