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第1部2章 捜索任務
038 穴を掘れ
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今の俺たちではヤマバシリ1羽でも奇襲されると総崩れになる。
つがいで来られたら、真正面からぶつかってもあっという間に肉を食いちぎられ、放り出されて終わりだろう。
せめて数を減らさないといけない。
でも、どうやって数を減らせば良いのだろう。
1羽とだけ戦えば良い状況はどうやって作り出せるのだろう。
サチさんにナナちゃんの世話を任せて、みんなに相談することにした。
「なぁ、チュウジ、お前、罠を試すとかいって針金買ったよな。罠で仕留めるとかできないの?」
「罠自体の設置をしているときに襲われたら確実に死ぬうえに、あの大きさの獣では少しの間足止めするの精一杯だろう。通常の罠猟的にはありえないということになる」
〈だよなぁ……〉
「ちなみに通常の罠猟ってやつはどういう感じで進むんだ?」
「我が考えているのはくくり罠という種類のものだ……」
チュウジの説明によると、くくり罠というのはきゅっと締まるように仕掛けをした輪っかで相手の脚や首をとらえるものらしい。
輪っかが締まるには衝撃が必要で、弛めておいた木の枝が獲物が触れた衝撃で跳ね上がって締まるようにするか、落とし穴に獲物がはまった時に獲物の自重で締まるようにする等を考えていたらしい。
「他にも方法があるはずだが、現代の工具を使った洗練された罠のようなものについて、我は何も知らないのだ」
〈こいつの知識の源は考古学者のパパだし無理もない〉
「もう1つ問題があるのだ。そもそも罠猟というのは数で勝負するものらしい。いくつもの罠をかけても、獲物がかからないことも普通にありうる」
「で、チュウジが罠で捉えようとしていたのは小動物や鳥の類なんだよな? あのバカでかいクソ鳥をつかまえるためには……」
「つまり、今の手持ちの資材では罠の数をそろえるのは不可能ということですね……うーん」
サゴさんが胃のあたりを押さえながら俺の言葉を引き取る。
サゴさんが胃を押さえるのに合わせて、俺は腹をさする。これはよろしくない……。
「罠の発動方法や設置時間について目をつぶったとしても、あの大きさを捉える罠など、せいぜい1つ作れるかどうか……」
チュウジがつぶやく。
「1つの罠で確実に仕留めようとしたら、罠のあるところまでおびきださないといけないよね」
ミカが確認する。
「そのとおりなのだ。しかし、どこにおびき寄せるのか、どこなら安全に罠の準備をできるのか、罠にかけた後、どうやってトドメをさせば良いのか、どうやって……」
チュウジの話を俺は腹をさすりながら聞く。
〈……トイレ行きたい……〉
ものすごいシリアスな場面だろうと生理現象だ。どうしようもない。遅かれ早かれ皆出さねばならないんだ。でも……なぜ、今、俺が先陣を切らねばならないのか。
神よ、神はいないのか? 神の存在は疑わないといけないし、紙はそもそもない。ポッケに一応、葉っぱを何枚か入れてある。この葉っぱの選定が結構大変で下手なもので拭くと、尻が……ただれる。
〈奴等がまた近づいて来たみたいだな〉
〈っぐわ!……くそ!……また暴れだしやがった……俺の腹……〉
〈っは……し、静まれ……俺の腹よ……怒りを静めろ!!〉
俺は必死に堪える。世界と俺の尊厳のために足をぷるぷる震わせながら、押し寄せる容赦のない軍勢に抵抗する。
「それならば、この入口に罠を仕掛けるというのはどうでしょう?」
「頭を突っ込んでくるんだから、その頭を罠で押さえられたらなんとかなりそうって、あたし思うんだけど……」
「脚ならば落とし穴式が使えるだろうが、頭だと跳ね上げ式でないと駄目だろう。しかし、この高さでは跳ね上げる場所はない」
「うーん、そうかぁ。ねぇ、シカタくん、どう思う?」
〈……もう、何も考えられないよ……〉
俺は立ち上がる。人間の尊厳を破壊するものが世界に溢れ出さないようにと、力のコントロールをしながら立ち上がる姿は、はたから見れば、おそらくゾンビか糸のきれかけたあやつり人形のようだろう。
「…………トイレ、行きたいです……」
チュウジが吹き出す。
「うむ、シカタよ、外で糞をたれてるところを襲われることを許可する」
他の2人もつられて笑う。
「……生理現象だからな。お前ら……」
必死にサチさんにどうしてたのか尋ねる。
「うら若き女性に排便方法をたずねる男。世が世なら変質者だな」
あとで覚えてろよ、このおかっぱ中二病。
〈…………〉
やり方は奥で穴を掘るということだった。
「ここ、地面が意外に柔らかいんです。終わったあとは土をかけておいてください。枝が刺してあるところは使用済みなんで……」
説明するサチさんも恥ずかしそうだったが、こちらも十分恥ずかしかった。
奥まったところの陰で穴を掘る。
たしかに手で掘れるくらいに柔らかいわ。
……とりあえず、良かったよ。
晴れ晴れとした顔で戻るとミカに謝られた。
「ごめんね。チュウジくんの言葉とシカタくんの立ち姿で緊張の糸が切れちゃったの」
「気にしないで」
俺が手を拡げて謝罪を受け入れようとするとミカは後ずさる。
「あ、う○ちふいた手で触らないで!」
〈ひどい……それに手でふいてはいないよ〉
「ごめんごめん。今のは冗談だよ」
「だったら、仲直りの握手だ、ミカさん!」
「いや、やっぱりそれは……」
「ひどい……」
今度は口に出して言った。もちろん、本気ではない。
俺は快便で緊張がほぐれ、俺の排便でみんなの緊張がほぐれるなら、それで良し(?)だ。
「なぁ、少し思いついたことがあるんだけど、みんなに聞いてもらって良いかな?」
トイレの最中に思いついたことを披露しようと思って呼びかける。
「……わかったが……少し待ってもらいたい。連鎖反応というか一種の共感反応というか、な……」
チュウジが青ざめた顔で答える。こいつ、うん○だな。
「どうしたのかなぁ、チュウジくん。罠についてはチュウジくんがいてくれないと、俺、困っちゃうよぉー」
これまで散々あおられてきた恨みをここぞとばかりに晴らすことにする。
「すまぬが、後にしてほしい。少々奥に行ってくる……」
「ええぇ……何があったのぉー?」
「後にしてくれ」
チュウジはそそくさと奥へ向かう。
「繊細なチュウジくんのために、俺が音○を召喚してあげようじゃあないかっ! スキル! 召喚魔法! 発動! 出よ、○姫!」
俺は大声をあげてやる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「……ぼえてろよ。この……」
チュウジがわめく。
「ブ……」
お食事中の方には聞かせたら殴られるであろう擬音を続けて叫ぼうとしたところで後ろから頭を叩かれた。
振り返ると背伸びしたミカがにらんでた。
「こらっ、チュウジくんをいじめないのっ!」
「ごめんなさい……」
「あと、ここ男子校じゃないんだから、汚い話ばっかしないのっ!」
「すみません……」
「小学生の男の子みたいだよ!」
「面目ない……」
「反省した?」
「海より深く反省しました」
「わかればいいの。よしよし」
うなだれる俺の頭をミカは再び背伸びをして、ぽんぽんとたたいたのだった。
つがいで来られたら、真正面からぶつかってもあっという間に肉を食いちぎられ、放り出されて終わりだろう。
せめて数を減らさないといけない。
でも、どうやって数を減らせば良いのだろう。
1羽とだけ戦えば良い状況はどうやって作り出せるのだろう。
サチさんにナナちゃんの世話を任せて、みんなに相談することにした。
「なぁ、チュウジ、お前、罠を試すとかいって針金買ったよな。罠で仕留めるとかできないの?」
「罠自体の設置をしているときに襲われたら確実に死ぬうえに、あの大きさの獣では少しの間足止めするの精一杯だろう。通常の罠猟的にはありえないということになる」
〈だよなぁ……〉
「ちなみに通常の罠猟ってやつはどういう感じで進むんだ?」
「我が考えているのはくくり罠という種類のものだ……」
チュウジの説明によると、くくり罠というのはきゅっと締まるように仕掛けをした輪っかで相手の脚や首をとらえるものらしい。
輪っかが締まるには衝撃が必要で、弛めておいた木の枝が獲物が触れた衝撃で跳ね上がって締まるようにするか、落とし穴に獲物がはまった時に獲物の自重で締まるようにする等を考えていたらしい。
「他にも方法があるはずだが、現代の工具を使った洗練された罠のようなものについて、我は何も知らないのだ」
〈こいつの知識の源は考古学者のパパだし無理もない〉
「もう1つ問題があるのだ。そもそも罠猟というのは数で勝負するものらしい。いくつもの罠をかけても、獲物がかからないことも普通にありうる」
「で、チュウジが罠で捉えようとしていたのは小動物や鳥の類なんだよな? あのバカでかいクソ鳥をつかまえるためには……」
「つまり、今の手持ちの資材では罠の数をそろえるのは不可能ということですね……うーん」
サゴさんが胃のあたりを押さえながら俺の言葉を引き取る。
サゴさんが胃を押さえるのに合わせて、俺は腹をさする。これはよろしくない……。
「罠の発動方法や設置時間について目をつぶったとしても、あの大きさを捉える罠など、せいぜい1つ作れるかどうか……」
チュウジがつぶやく。
「1つの罠で確実に仕留めようとしたら、罠のあるところまでおびきださないといけないよね」
ミカが確認する。
「そのとおりなのだ。しかし、どこにおびき寄せるのか、どこなら安全に罠の準備をできるのか、罠にかけた後、どうやってトドメをさせば良いのか、どうやって……」
チュウジの話を俺は腹をさすりながら聞く。
〈……トイレ行きたい……〉
ものすごいシリアスな場面だろうと生理現象だ。どうしようもない。遅かれ早かれ皆出さねばならないんだ。でも……なぜ、今、俺が先陣を切らねばならないのか。
神よ、神はいないのか? 神の存在は疑わないといけないし、紙はそもそもない。ポッケに一応、葉っぱを何枚か入れてある。この葉っぱの選定が結構大変で下手なもので拭くと、尻が……ただれる。
〈奴等がまた近づいて来たみたいだな〉
〈っぐわ!……くそ!……また暴れだしやがった……俺の腹……〉
〈っは……し、静まれ……俺の腹よ……怒りを静めろ!!〉
俺は必死に堪える。世界と俺の尊厳のために足をぷるぷる震わせながら、押し寄せる容赦のない軍勢に抵抗する。
「それならば、この入口に罠を仕掛けるというのはどうでしょう?」
「頭を突っ込んでくるんだから、その頭を罠で押さえられたらなんとかなりそうって、あたし思うんだけど……」
「脚ならば落とし穴式が使えるだろうが、頭だと跳ね上げ式でないと駄目だろう。しかし、この高さでは跳ね上げる場所はない」
「うーん、そうかぁ。ねぇ、シカタくん、どう思う?」
〈……もう、何も考えられないよ……〉
俺は立ち上がる。人間の尊厳を破壊するものが世界に溢れ出さないようにと、力のコントロールをしながら立ち上がる姿は、はたから見れば、おそらくゾンビか糸のきれかけたあやつり人形のようだろう。
「…………トイレ、行きたいです……」
チュウジが吹き出す。
「うむ、シカタよ、外で糞をたれてるところを襲われることを許可する」
他の2人もつられて笑う。
「……生理現象だからな。お前ら……」
必死にサチさんにどうしてたのか尋ねる。
「うら若き女性に排便方法をたずねる男。世が世なら変質者だな」
あとで覚えてろよ、このおかっぱ中二病。
〈…………〉
やり方は奥で穴を掘るということだった。
「ここ、地面が意外に柔らかいんです。終わったあとは土をかけておいてください。枝が刺してあるところは使用済みなんで……」
説明するサチさんも恥ずかしそうだったが、こちらも十分恥ずかしかった。
奥まったところの陰で穴を掘る。
たしかに手で掘れるくらいに柔らかいわ。
……とりあえず、良かったよ。
晴れ晴れとした顔で戻るとミカに謝られた。
「ごめんね。チュウジくんの言葉とシカタくんの立ち姿で緊張の糸が切れちゃったの」
「気にしないで」
俺が手を拡げて謝罪を受け入れようとするとミカは後ずさる。
「あ、う○ちふいた手で触らないで!」
〈ひどい……それに手でふいてはいないよ〉
「ごめんごめん。今のは冗談だよ」
「だったら、仲直りの握手だ、ミカさん!」
「いや、やっぱりそれは……」
「ひどい……」
今度は口に出して言った。もちろん、本気ではない。
俺は快便で緊張がほぐれ、俺の排便でみんなの緊張がほぐれるなら、それで良し(?)だ。
「なぁ、少し思いついたことがあるんだけど、みんなに聞いてもらって良いかな?」
トイレの最中に思いついたことを披露しようと思って呼びかける。
「……わかったが……少し待ってもらいたい。連鎖反応というか一種の共感反応というか、な……」
チュウジが青ざめた顔で答える。こいつ、うん○だな。
「どうしたのかなぁ、チュウジくん。罠についてはチュウジくんがいてくれないと、俺、困っちゃうよぉー」
これまで散々あおられてきた恨みをここぞとばかりに晴らすことにする。
「すまぬが、後にしてほしい。少々奥に行ってくる……」
「ええぇ……何があったのぉー?」
「後にしてくれ」
チュウジはそそくさと奥へ向かう。
「繊細なチュウジくんのために、俺が音○を召喚してあげようじゃあないかっ! スキル! 召喚魔法! 発動! 出よ、○姫!」
俺は大声をあげてやる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「……ぼえてろよ。この……」
チュウジがわめく。
「ブ……」
お食事中の方には聞かせたら殴られるであろう擬音を続けて叫ぼうとしたところで後ろから頭を叩かれた。
振り返ると背伸びしたミカがにらんでた。
「こらっ、チュウジくんをいじめないのっ!」
「ごめんなさい……」
「あと、ここ男子校じゃないんだから、汚い話ばっかしないのっ!」
「すみません……」
「小学生の男の子みたいだよ!」
「面目ない……」
「反省した?」
「海より深く反省しました」
「わかればいいの。よしよし」
うなだれる俺の頭をミカは再び背伸びをして、ぽんぽんとたたいたのだった。
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