道化の世界探索記

黒石廉

文字の大きさ
46 / 148
第1部2章 捜索任務

043 後始末1

しおりを挟む
 まず埋葬をおこなうことにした。
 損傷のひどい(元)仲間の遺体を見るのは酷だろうということで、女性陣には巣を見ていてもらうことにした。
 巣にヤマバシリのヒナがいたからである。
 2羽のうち1羽は、サゴさんの矢が運悪く当たったらしく息絶えていたが、もう1羽は元気だった。

 「高く売れるかもしれませんから、大事に連れて帰りましょう」
 「ギョエギョエ」とお世辞にも愛らしいとはいえない鳴き声を発することを除けば、親に似ず、とても可愛らしい。綿毛のような白い羽につつまれ、やや形の崩れた鏡もちみたいな体型をしたヒナはこちらを必死に見つめながら、大きく口を開けてエサを要求している。親鳥の目の小ささは不気味さを感じさせたが、ヒナの小さな黒い目は愛くるしいと感じてしまうから不思議なものだ。
 「こんな可愛い子なのにね。あんな怖い鳥になっちゃうなんて信じられないよね」 
 ミカはつぶやきながら、燻製肉をヒナの口に放り込んであげている。
 まさか遺体をエサにするわけにもいかないし、かといって、親鳥の肉を食わせるのも抵抗感があるということで、ヒナには燻製肉をあげることになった。

 巣の近くには見事な大木があった。
 本当は遺体をその根元に埋めてあげたかったが、木の根っこに阻まれて、うまく掘ることができなかった。
 だから、大木から少し離れたところに穴を掘って埋めることにした。
 実は土葬にして良いものかというのは迷った。荼毘だびに付したほうが良いのか、サゴさんとチュウジと少し話し合った。
 「仲間の遺体が目の前で焼かれていくのを見せるのもまた酷かもしれませんね」
 「火葬場で待つのとは違うのだからな。何が正解かは我にもわからぬが、今ここで死を実感させなくとも良いのかもしれぬ」
 俺も2人に賛成だった。

 俺とサゴさんが戦斧と手斧で穴を掘り、中から出てきた石や根をチュウジが取り除く。こちらのほうは頑固な根もなく、穴を掘るのは楽だった。
 そもそも大きな穴を掘らなくても良かったというのもある。
 俺たちが来た時に殺られたサエグサを除けば、他は皆かなり軽く・・なっていたからである。
 薬師の遺体も例外ではなかった。
 遺品としてネックレスと指輪が指定されたが……首のあたりはどうにも無惨むざんなことになっていて、ネックレスは見つけることができなかった。
 かろうじて見つけることができた指輪をよく拭いてから布につつんで貴重品袋に放り込む。
 
 せめてものということで、こちらもかろうじて見つけた髪の毛を少し切り取って洗って水気を取ってから、指輪と一緒にした。遺髪という習慣がこの世界にあるかどうかはわからない……。
 ナナちゃんパーティーの仲間に関しては全員の遺髪を小分けにして取っておいた。遺品はいらないだろう。俺たちはこの世界に来て間もない。思い入れのある品物なんて多分ない。
 
 それぞれの武器を墓標にする。目立つ武器を持っていなかった薬師の墓標は木の十字架とした。
 俺はクリスチャンではないし、薬師も当然クリスチャンではない。この世界の墓標や埋葬様式について、俺たちは何も知らないが、十字架ならば目立つし、何か思い出の品をかけやすいかもという理由だ。

 「なぁ、俺が死んだらさ……」
 ぼそっと横にいるチュウジに話しかける。
 「貴様が死んだら、その遺体からだは野犬の餌付けに使ってやると言っただろう。ただ、そのようなものを与えられる野犬のことを考えると不憫で仕方がない。だから……死ぬな」
 「奇遇だな。俺も似たようなこと考えてたよ。お前は変態っぽいからな。骨を便所に捨てたら、誰かがう○こする度に歓喜の声上げて心霊スポットになっちゃって困るよな。というわけで生きとけよ」
 「そのやり取りはミカさんとサチさんの前でやってあげると2人が喜びますよ」
 サゴさんの言葉に俺たちは全力で首を横にふる。
 サゴさんは俺たちの肩に手をかけて言った。
 「さぁ、みんなに声かけにいきましょう」

 「終わりましたよ」
 サゴさんが、ヒナの世話をしていた女性陣に声をかける。
 埋葬場所に案内する。
 泣き崩れる女性陣に何もしてやることができない。
 座り込んで泣くミカの横に座る。
 彼女を励ます言葉は見つからない。必死に考えたが何一つ思い浮かばない。だから、黙って横に座っていた。
 しばらくするとミカが寄りかかってきた。
 やはり励ます言葉は見つからない。震える彼女に肩を貸すことしかできないのがもどかしい。

 カナ、キョウ、サエグサ、薬師はドランという名だった。
 心の中で4人の名前を呼ぶ。同期の3人とはあまり話したことはなかった。ドランにいたってはそもそも生前に会っていない。
 それでもお疲れ様、安らぎを得られますようにと祈る。誰に祈っているかわからないが、ただ祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...