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第2部1章 指と異端と癒し手と
065 異端の村、人身売買、仲間のために
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異端派と人身売買、これらをたどっていった先にあるのはアレフィキウムという小さな村である。
カステから片道4日程の距離であるが、所要な街道からも外れたやや辺鄙なところにある小さな村なのだそうだ。
さしたる特産物もなく、カステの経済圏から見るとそれほどの価値もない自給自足レベルの場所。
きな臭い話の発生源はそこである。
「異端派を信仰する集落は残念なことに複数あるのですが、今回、街中で不穏な演説をしている者たちはどれもアレフィキウムの教会に所属する者のようです」
「そして、聴衆の中にいたサクラもどうもアレフィキウム出身者らしい。ここまでは調べがついているんだ」
タケイさんが付け加える。
「奴隷を中心としたオークション会場として指定されたのはアレフィキウム近くにある屋敷らしいのですが、この屋敷の持ち主はわかっていません」
サゴさんが先ほどの報告をもう一度簡潔にまとめる。
街中の建物ならばともかく寂れた集落にある建物は登録等されることがないようだ。
まぁ、税金が取れないようなところはいちいちこだわらないのだろう。
日本だって持ち主不明の空き家の話とかたまにニュースになるぐらいだし。
「奴隷として出されるとするならば、事前に運び込まれている可能性があるのではないでしょうか?」
サチさんがルーマンさんにたずねる。
「おそらくそうでしょうね。行方不明の癒し手だけでも14人います。魔法使いも1人行方不明になっているそうで、他にも奴隷がいるとしたら……」
ルーマンさんの言葉をミカが継ぐ。
「街の中でそれだけの人数を閉じ込めてバレないところってないですよね」
「それか、すでにバラされているか」
チュウジが物騒で想像したくないがゼロとはいえない可能性に言及する。
「だとしても、だ。最終的にはオークション会場というのに運ばれるわけだ。それに二桁の人間を街中の建物で解体するのはどうみても愚策だ。よほどのことがない限り、人気のないところでやるだろう」
タケイ隊のダイゴさんが口をはさむ。
「となると、やはり最初はその屋敷を改めるしかないでしょうね」
とルーマンさん。
「捜査の権限とかあるんですか?」
火付盗賊改とかいう言葉が頭に思い浮かんでしまった俺がたずねる。
「ありません」
ルーマンさんは即答すると、不穏な台詞を続ける。
「ですから、あなた方に潜入してもらうことになります」
「潜入というか、強盗っぽくないですか、それ?」
サゴさんが俺の言いたいことを代弁してくれる。
「もし、『潜入』して何もなかったら……」
「なんとか自力で切り抜けてもらいます」
ルーマンさんは汗を拭きながら、さらっと俺たちを切り捨てる発言をした。
「さすがに使い捨てにされるのはごめんです」
タケイさんが抗議する。
ルーマンさんは額の汗をしきりにふきながら、使い捨てになんかしませんと答えている。
「私たちからも審問官を一人出します。彼が適切にあなた方を助けることでしょう。あなた方は彼の指示に従っていただきたいのです」
指揮官兼監視役といったところかな。
ルーマンさんも人の良さそうな外見に似合わずなかなか食えないオヤジである。
ルーマンさんは人を呼ぶと耳打ちした。
しばらくして入ってきたのは、依頼を受けた時に会った右の手首から先がない青年だった。
「審問官のカルミです。皆様の手助けをするとともにアレフィキウムの異端についての調査の指揮をとらせていただきます。私のような若輩者の指示に従うのは不安かもしれませんが、ご寛恕願います」
カルミさんは丁寧に、そしてにこやかに挨拶をすると、左手で一人ひとりと握手をした。
◆◆◆
宿に戻ってタケイさんたちと一緒に夕食を取る。
気になることがあって、あまり食事に集中できない。
「お聞きしたいことがあるんですが……」
思い切って口に出す。
「対人戦の経験って、皆さんありますか?」
少しの沈黙を経て、タケイさんが口を開く。
「1回だけだが……ある」
あるんだ。
「俺たちはないんです。正確にいうと俺以外、人と戦ったことがない」
そして、戦った経験のある俺はというと……。
「俺、路地裏で人さらいと戦って殺れると思った瞬間にビビっちゃって……逆に殺られるところでした」
「まぁ……普通に暮らしていたら人を殴ることだって非日常だからな。俺たちも正直無我夢中だったし、乱戦だったから何とかなったのかもしれない」
そう言ったあとに、タケイさんは「でも、今は違うぜ」と続けた。
「君はさ、仲間が好きかい?」
タケイさんは腕組みをして、ゆっくりと問いかける。
「そりゃ大好きです。この仲間で旅をしているのは楽しいし、バカ話をしているのも楽しいし……」
「だよな。そして、当たり前の話をするんだけどさ、君が迷っていたら、横にいる子が数秒後血を吹いて倒れているかもしれないとしたら……」
「そんなの嫌です。考えたくもない」
「でも、現実にここではそれが当たり前に起こるんだってこともわかっているだろ?」
「……はい」
わかってはいる、わかってはいるけれど……。
「変なこと考えずに仲間を守れ。敵を打ち倒して仲間を守れ。敵のことを考えるのは、敵が動かなくなってからにするんだ」
「たぶん、俺たちみんなそうなんだよ。うちのパーティーの面子も、君たちのとこの面子も人と戦うのが怖くないやつなんていないはずだ」
タケイさんはいかつい体に似合わぬおだやかな眼で俺たちを見回して、ゆっくりと言葉をつむぐ。
「だから、迷ったら大好きな仲間が倒れる。これだけ考えて、それ以外は後回しにしなよ」
できるかどうかわからない。でもグダグダ考えていて仲間が倒れたら一生悔やんでも悔やみきれないはずだ。
俺たちは無言で深くうなずいた。
カステから片道4日程の距離であるが、所要な街道からも外れたやや辺鄙なところにある小さな村なのだそうだ。
さしたる特産物もなく、カステの経済圏から見るとそれほどの価値もない自給自足レベルの場所。
きな臭い話の発生源はそこである。
「異端派を信仰する集落は残念なことに複数あるのですが、今回、街中で不穏な演説をしている者たちはどれもアレフィキウムの教会に所属する者のようです」
「そして、聴衆の中にいたサクラもどうもアレフィキウム出身者らしい。ここまでは調べがついているんだ」
タケイさんが付け加える。
「奴隷を中心としたオークション会場として指定されたのはアレフィキウム近くにある屋敷らしいのですが、この屋敷の持ち主はわかっていません」
サゴさんが先ほどの報告をもう一度簡潔にまとめる。
街中の建物ならばともかく寂れた集落にある建物は登録等されることがないようだ。
まぁ、税金が取れないようなところはいちいちこだわらないのだろう。
日本だって持ち主不明の空き家の話とかたまにニュースになるぐらいだし。
「奴隷として出されるとするならば、事前に運び込まれている可能性があるのではないでしょうか?」
サチさんがルーマンさんにたずねる。
「おそらくそうでしょうね。行方不明の癒し手だけでも14人います。魔法使いも1人行方不明になっているそうで、他にも奴隷がいるとしたら……」
ルーマンさんの言葉をミカが継ぐ。
「街の中でそれだけの人数を閉じ込めてバレないところってないですよね」
「それか、すでにバラされているか」
チュウジが物騒で想像したくないがゼロとはいえない可能性に言及する。
「だとしても、だ。最終的にはオークション会場というのに運ばれるわけだ。それに二桁の人間を街中の建物で解体するのはどうみても愚策だ。よほどのことがない限り、人気のないところでやるだろう」
タケイ隊のダイゴさんが口をはさむ。
「となると、やはり最初はその屋敷を改めるしかないでしょうね」
とルーマンさん。
「捜査の権限とかあるんですか?」
火付盗賊改とかいう言葉が頭に思い浮かんでしまった俺がたずねる。
「ありません」
ルーマンさんは即答すると、不穏な台詞を続ける。
「ですから、あなた方に潜入してもらうことになります」
「潜入というか、強盗っぽくないですか、それ?」
サゴさんが俺の言いたいことを代弁してくれる。
「もし、『潜入』して何もなかったら……」
「なんとか自力で切り抜けてもらいます」
ルーマンさんは汗を拭きながら、さらっと俺たちを切り捨てる発言をした。
「さすがに使い捨てにされるのはごめんです」
タケイさんが抗議する。
ルーマンさんは額の汗をしきりにふきながら、使い捨てになんかしませんと答えている。
「私たちからも審問官を一人出します。彼が適切にあなた方を助けることでしょう。あなた方は彼の指示に従っていただきたいのです」
指揮官兼監視役といったところかな。
ルーマンさんも人の良さそうな外見に似合わずなかなか食えないオヤジである。
ルーマンさんは人を呼ぶと耳打ちした。
しばらくして入ってきたのは、依頼を受けた時に会った右の手首から先がない青年だった。
「審問官のカルミです。皆様の手助けをするとともにアレフィキウムの異端についての調査の指揮をとらせていただきます。私のような若輩者の指示に従うのは不安かもしれませんが、ご寛恕願います」
カルミさんは丁寧に、そしてにこやかに挨拶をすると、左手で一人ひとりと握手をした。
◆◆◆
宿に戻ってタケイさんたちと一緒に夕食を取る。
気になることがあって、あまり食事に集中できない。
「お聞きしたいことがあるんですが……」
思い切って口に出す。
「対人戦の経験って、皆さんありますか?」
少しの沈黙を経て、タケイさんが口を開く。
「1回だけだが……ある」
あるんだ。
「俺たちはないんです。正確にいうと俺以外、人と戦ったことがない」
そして、戦った経験のある俺はというと……。
「俺、路地裏で人さらいと戦って殺れると思った瞬間にビビっちゃって……逆に殺られるところでした」
「まぁ……普通に暮らしていたら人を殴ることだって非日常だからな。俺たちも正直無我夢中だったし、乱戦だったから何とかなったのかもしれない」
そう言ったあとに、タケイさんは「でも、今は違うぜ」と続けた。
「君はさ、仲間が好きかい?」
タケイさんは腕組みをして、ゆっくりと問いかける。
「そりゃ大好きです。この仲間で旅をしているのは楽しいし、バカ話をしているのも楽しいし……」
「だよな。そして、当たり前の話をするんだけどさ、君が迷っていたら、横にいる子が数秒後血を吹いて倒れているかもしれないとしたら……」
「そんなの嫌です。考えたくもない」
「でも、現実にここではそれが当たり前に起こるんだってこともわかっているだろ?」
「……はい」
わかってはいる、わかってはいるけれど……。
「変なこと考えずに仲間を守れ。敵を打ち倒して仲間を守れ。敵のことを考えるのは、敵が動かなくなってからにするんだ」
「たぶん、俺たちみんなそうなんだよ。うちのパーティーの面子も、君たちのとこの面子も人と戦うのが怖くないやつなんていないはずだ」
タケイさんはいかつい体に似合わぬおだやかな眼で俺たちを見回して、ゆっくりと言葉をつむぐ。
「だから、迷ったら大好きな仲間が倒れる。これだけ考えて、それ以外は後回しにしなよ」
できるかどうかわからない。でもグダグダ考えていて仲間が倒れたら一生悔やんでも悔やみきれないはずだ。
俺たちは無言で深くうなずいた。
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