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第2部2章 草原とヒト
090 今宵はあいつのリサイタル
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俺たちとヴィレンさんの深夜の文通は続いている。
しかし、本日、4日目の手紙に嫌なことが書かれてあった。
「教導」のため、修道騎士が100名派遣されると。
騎士が100名ということは総勢はその何倍にもなるだろう。
槍と剣で何を教え導くのか。騎士道精神とかを教えてくれるということはないだろう。賭けてもいい。誰も賭けを受けてくれないだろうけど。
「十字軍かよ」
俺はぼそっとつぶやく。
チュウジに教えてもらわなくても、十字軍の大半が蛮行に終わったくらいは知っている。
ソのキャンプ地はどうなってしまうのだろう。
手紙には編成に2週間くらいはかかるであろうこと、自分のことは気にせずキャンプ地に知らせてほしいこと等も書かれていた。
「置いていくったってさ……じゃあ仮にあの人、置いていくじゃん。キャンプごと見つからないとこに逃げようとしたり、武装して迎え撃ったりするようなことがあるとするじゃん。そしたら、確実にまずいよな」
「内通者として処刑されかねないな」
チュウジがうつむく。
「なんとか助けて一緒に逃げないと後味が悪すぎる」
俺たちはヴィレンさん救出の方策を練ることにした。
別に地下牢に閉じ込められているわけではない。
あくまで宿舎の3階の一部屋に軟禁されているだけだ。
縄梯子があれば、まぁ、窓から降りることはできる。
小石を使って手紙のやり取りをしているくらいだから、縄梯子に重しをつけて、窓まで届かせることも容易だろう。
「問題は歩哨だよな」
深夜でも見張りがいる。
こいつらをどうにかしないことには縄梯子も投げられない。
街なかで大立ち回りを演じたあげく、逃げるなんてのは昔のアメリカ映画の逃亡劇パターンじゃないか。絶対にうまくいかない。そんな結末、素敵なボニーが居たってごめんなのに、明日に向かってチュウジとクロスボウを撃つなんて罰ゲームすぎる。
「よし、チュウジ、お前、歩哨の前でち○こ出して、奇声をあげて逃げろ! 歩哨が追っかけてくるだろうから、その間に俺がヴィレンさんを逃がす!」
チュウジは心底軽蔑したといった眼差しをこちらに向ける。
少し「えすぷり」きかせただけだろ。
「……貴様がやれ。それとも何か。小さすぎて目立たないから、できないとでも言うのか?」
「うるせぇ、お前だってたいして変わらないだろう。はきはきした大きな声が出る分、お前よりましだわ」
「ならば、貴様がやるということで……まて、大声だ、大声。適任のバカが今この街にいるだろう」
俺はぽんと手をうつ。
「タダミがち○こ出して……」
「そこから離れろ、バカモノ。そのような汚いものを出さなくても……」
「あいつのスキルならなんとかなるな」
◆◆◆
夕方、タダミの泊まっている宿をたずねる。
綺麗な宿だ。
「バカンス」に来たくらいだから、羽振りが良いらしい。
タダミは仲間と飯を食っていた。
訓練所を出るときに見た顔がいくつか消えて、見慣れない顔に変わっている。
やはり、こいつも苦労してんだな。
俺は皆に挨拶をしてから、タダミを連れ出す。
「お前に頼みたい仕事がある」
そして、仕事の内容を伝えた。
目的自体は伏せたが、一応、見張りに追われる可能性があることも伝え、タダミがこの街でスキルを使ったことがないことも確認しておく。
「新月の夜に叫んで逃げるだけ。さっきも伝えた通り、完全に安全というわけでもないがやることはとても単純だ。金貨1枚」
「金貨2枚だ」
タダミがふっかける。
「よし、金貨2枚だな」
チュウジがすかさずふところから金貨を出して、タダミに握らせる。
「全部、先払いでいいのかよ」
ふっかけたタダミのほうが困惑している。
俺もけっこう驚いている。
金貨2枚は大金だし、そもそも俺たちの財布の中身はおそらく1人あたり金貨2枚程度だ。
チュウジは有り金すべてを一気に出したわけだ。
「まぁ、良いわ。明後日の夜で良いんだな。しっかり、ノド作っておくわ」
おまえは歌手かよ。
◆◆◆
翌日、俺たちは荷馬を一頭買い、鞍をつけてもらう。
「こいつに鞍をつけたって、そんなにはやく走らないからな」
そう言われたが、ないよりはましだ。
ヴィレンさんが乗ってきたウマまで解放するのは無理だし、チュウジと俺が乗ってきた軍馬であっても3人は乗せられないだろう。
他に鈎付きの縄梯子と保存食も買ったところで、俺の財布もほぼすっからかんになった。
◆◆◆
実行日の夜、俺は1人軽装で夜道を歩く。
チュウジは町外れでウマに荷物を積んで待っている。
待ち合わせの場所でタダミを拾うと、宿舎の近くまで無言で歩く。
こいつにはスキルを使う時以外は一切、話すなと伝えてある。
「俺が離れたら頭の中でゆっくりのんびり100数えろ。それから、ここで一発でかいの頼むわ」
俺の言葉にタダミが無言でうなずく。
奴の手をしっかりと握ってから、礼を言い、足早に窓の近くに行くと小石を投げる。
………
「俺の歌をきけぇー」
そして続く轟音。
うわ、耳栓としてボロ布詰めてあるのに、鼓膜が痛くなる。
窓ガラスとかがない世界でよかった。
窓ガラスがあったら、割れているだろう。
「なんだ!」
歩哨の声、彼らが走っていく音が聞こえる。
俺は急いで鈎を窓の上に放り投げる。
鈎が窓枠にかかり、脱出経路が完成する。
でたらめな歌が聞こえる中、 ヴィレンさんが縄梯子をつたって降りてくる。
「なんですか、あれは?」
ジャイ○ンですとか答えてもわかんないよな。
宿舎の鎧戸から明かりが漏れ出してくる。
「音で戦う吟遊詩人です」
すべったが、この際、受けた受けないはどうでも良い。
急ぎましょうと伝えて、町外れに走る。
町外れではチュウジが二頭のウマと待機している。
タダミ、ありがとうな。
捕まらないようにな。
俺たち3人はひっそりとカステの街を出て、夏のキャンプ地への帰途につく。
しかし、本日、4日目の手紙に嫌なことが書かれてあった。
「教導」のため、修道騎士が100名派遣されると。
騎士が100名ということは総勢はその何倍にもなるだろう。
槍と剣で何を教え導くのか。騎士道精神とかを教えてくれるということはないだろう。賭けてもいい。誰も賭けを受けてくれないだろうけど。
「十字軍かよ」
俺はぼそっとつぶやく。
チュウジに教えてもらわなくても、十字軍の大半が蛮行に終わったくらいは知っている。
ソのキャンプ地はどうなってしまうのだろう。
手紙には編成に2週間くらいはかかるであろうこと、自分のことは気にせずキャンプ地に知らせてほしいこと等も書かれていた。
「置いていくったってさ……じゃあ仮にあの人、置いていくじゃん。キャンプごと見つからないとこに逃げようとしたり、武装して迎え撃ったりするようなことがあるとするじゃん。そしたら、確実にまずいよな」
「内通者として処刑されかねないな」
チュウジがうつむく。
「なんとか助けて一緒に逃げないと後味が悪すぎる」
俺たちはヴィレンさん救出の方策を練ることにした。
別に地下牢に閉じ込められているわけではない。
あくまで宿舎の3階の一部屋に軟禁されているだけだ。
縄梯子があれば、まぁ、窓から降りることはできる。
小石を使って手紙のやり取りをしているくらいだから、縄梯子に重しをつけて、窓まで届かせることも容易だろう。
「問題は歩哨だよな」
深夜でも見張りがいる。
こいつらをどうにかしないことには縄梯子も投げられない。
街なかで大立ち回りを演じたあげく、逃げるなんてのは昔のアメリカ映画の逃亡劇パターンじゃないか。絶対にうまくいかない。そんな結末、素敵なボニーが居たってごめんなのに、明日に向かってチュウジとクロスボウを撃つなんて罰ゲームすぎる。
「よし、チュウジ、お前、歩哨の前でち○こ出して、奇声をあげて逃げろ! 歩哨が追っかけてくるだろうから、その間に俺がヴィレンさんを逃がす!」
チュウジは心底軽蔑したといった眼差しをこちらに向ける。
少し「えすぷり」きかせただけだろ。
「……貴様がやれ。それとも何か。小さすぎて目立たないから、できないとでも言うのか?」
「うるせぇ、お前だってたいして変わらないだろう。はきはきした大きな声が出る分、お前よりましだわ」
「ならば、貴様がやるということで……まて、大声だ、大声。適任のバカが今この街にいるだろう」
俺はぽんと手をうつ。
「タダミがち○こ出して……」
「そこから離れろ、バカモノ。そのような汚いものを出さなくても……」
「あいつのスキルならなんとかなるな」
◆◆◆
夕方、タダミの泊まっている宿をたずねる。
綺麗な宿だ。
「バカンス」に来たくらいだから、羽振りが良いらしい。
タダミは仲間と飯を食っていた。
訓練所を出るときに見た顔がいくつか消えて、見慣れない顔に変わっている。
やはり、こいつも苦労してんだな。
俺は皆に挨拶をしてから、タダミを連れ出す。
「お前に頼みたい仕事がある」
そして、仕事の内容を伝えた。
目的自体は伏せたが、一応、見張りに追われる可能性があることも伝え、タダミがこの街でスキルを使ったことがないことも確認しておく。
「新月の夜に叫んで逃げるだけ。さっきも伝えた通り、完全に安全というわけでもないがやることはとても単純だ。金貨1枚」
「金貨2枚だ」
タダミがふっかける。
「よし、金貨2枚だな」
チュウジがすかさずふところから金貨を出して、タダミに握らせる。
「全部、先払いでいいのかよ」
ふっかけたタダミのほうが困惑している。
俺もけっこう驚いている。
金貨2枚は大金だし、そもそも俺たちの財布の中身はおそらく1人あたり金貨2枚程度だ。
チュウジは有り金すべてを一気に出したわけだ。
「まぁ、良いわ。明後日の夜で良いんだな。しっかり、ノド作っておくわ」
おまえは歌手かよ。
◆◆◆
翌日、俺たちは荷馬を一頭買い、鞍をつけてもらう。
「こいつに鞍をつけたって、そんなにはやく走らないからな」
そう言われたが、ないよりはましだ。
ヴィレンさんが乗ってきたウマまで解放するのは無理だし、チュウジと俺が乗ってきた軍馬であっても3人は乗せられないだろう。
他に鈎付きの縄梯子と保存食も買ったところで、俺の財布もほぼすっからかんになった。
◆◆◆
実行日の夜、俺は1人軽装で夜道を歩く。
チュウジは町外れでウマに荷物を積んで待っている。
待ち合わせの場所でタダミを拾うと、宿舎の近くまで無言で歩く。
こいつにはスキルを使う時以外は一切、話すなと伝えてある。
「俺が離れたら頭の中でゆっくりのんびり100数えろ。それから、ここで一発でかいの頼むわ」
俺の言葉にタダミが無言でうなずく。
奴の手をしっかりと握ってから、礼を言い、足早に窓の近くに行くと小石を投げる。
………
「俺の歌をきけぇー」
そして続く轟音。
うわ、耳栓としてボロ布詰めてあるのに、鼓膜が痛くなる。
窓ガラスとかがない世界でよかった。
窓ガラスがあったら、割れているだろう。
「なんだ!」
歩哨の声、彼らが走っていく音が聞こえる。
俺は急いで鈎を窓の上に放り投げる。
鈎が窓枠にかかり、脱出経路が完成する。
でたらめな歌が聞こえる中、 ヴィレンさんが縄梯子をつたって降りてくる。
「なんですか、あれは?」
ジャイ○ンですとか答えてもわかんないよな。
宿舎の鎧戸から明かりが漏れ出してくる。
「音で戦う吟遊詩人です」
すべったが、この際、受けた受けないはどうでも良い。
急ぎましょうと伝えて、町外れに走る。
町外れではチュウジが二頭のウマと待機している。
タダミ、ありがとうな。
捕まらないようにな。
俺たち3人はひっそりとカステの街を出て、夏のキャンプ地への帰途につく。
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