121 / 148
第3部1章 探索稼業
112 この指だって
しおりを挟む
地下1階が洞窟小人たちにとって神聖な場所だとすれば、その場で宗教儀式みたいなのをやっているやつらさえ排除すれば、その後しばらくの間はそうそう大人数でなだれ込んでくることはないのではないか。
事前の情報とも照らし合わせ、家探しをするくらいの時間は安全だと判断した俺たちは、手早く、しかしながら、念入りに探索をすることにした。
解剖台のある部屋の北側は実験の記録でも取る場所だったのだろうか。
机と椅子、椅子には……。
「人骨……」
思わず腰が引けてしまう。嫌なんだよ。ホラーでもしっとり系のやつは怖いから。どうせなら、からっと明るく血がどばーのほうが景気よくてよいだろ。
「にしては小さいよね……洞窟小人じゃない?」
確かに頭蓋骨の形からして違う。
これも古の再現とかなのだろう。こいつは「研究員」の模倣か。
洞窟小人の骸骨の前の机の上には一冊の本が置かれている。
印刷はところどころかすれているし、ページも破れているが朽ちてはいないのは奇跡か、それとも未来の技術ゆえか。
あやとりをする手の向こうに太陽のようなものが書かれている表紙には、
「きゃっつ……くれーどる?」
と記してあった。著者名はかすれていて読めなかった。
本を手に取ろうとすると、持ったはしから崩れていく。本が残っていた理由は未来の技術ではなく、奇跡の方だったらしい。
「これは……持ち帰れませんね」
横にはペンがあった。
この世界の筆記具といえば、羽ペンぐらいしかなかったので、それなりに価値があるだろう。
解剖台の南側の部屋はかつては物置だったようだ。
棚があるだけで、中身はすべて持ち去られている。
サゴさんがペットボトルキャップみたいなものをまたポーチにつめていた。
東の奥は個人の研究室だったのか、書棚と机椅子が並ぶ部屋がいくつかあった。
ペンを2本見つけ、サゴさんのキャップコレクションも増えた。
研究室の北側は檻が並ぶ部屋だった。
洞窟小人の猟犬の骨らしきものがいくつか並んでいた。
散乱していないところを見ると、これも彼らの宗教的行為であったのだろう。
価値のありそうなものは何も見つけることができなかった。
何もなかった……。
少し落ち込むが、努めてそれを顔に出さないようにする。
「あとは解剖部屋と階段のある部屋くらいか」
解剖部屋にあるのは、解剖係が持っていた武器くらいだ。
薙刀っぽい武器の穂先として使われていた包丁のような刃物は金属製だが錆一つなく、なかなかの切れ味であった。
長柄でも刀の柄のようなものでもよいので、何かしら柄をつけなおせば、良い武器となるのではないだろうか。
「なぁ、チュウジよ。これ、両手持ちの剣の柄とか巻いたらさ、お前の好きそうな中2病大剣になりそうじゃね?」
珍しくチュウジが無言でうなずく。
黒い刃を持つ切れ味抜群の大剣をもつ剣士。
そりゃ、中2心をくするぐるだろう。
「他に使ってみたい人は?」
ミカもサゴさんも首をふる。
「そういうわけで、お前が持って帰れ」
手切らないように布で巻いておけよと忠告して、でかい包丁はチュウジにまかせた。
火炎放射器は1メートル弱の筒で手元には車のガソリンメーターのような燃料計がついていた。
メーターの針は半分くらいを指している。
「これはサチさんに持っていてもらおうか。燃料補充ができない以上、常用できるものではないし、だったら、俺たちの生命線が接敵されたときの奥の手として使うのが良さそうだ」
最後にチェーンソー。
おっかなびっくり調べてみたが、ホラー映画であるようなガソリン式で引っ張って起動するとか言うわけではないらしい。
トリガーのようなものがあって、安全装置とおぼしきものを外してトリガーを引くと回転し始める。
「これ、使いこなす自信のある人いる?」
試しに聞いてみたが、誰も手をあげなかった。
ホラー映画的にはマストアイテムと言ってもいい武器だし、結構金をかけた武器付きの義手を切り落とされるぐらいに強力なのだが……。
遣い手の派手な自爆シーンを見せられた後にこいつを使う勇気はない。
練習して使いこなせるようにしようにも、燃料補充がきかない動力式だと練習も気軽にできない。
切り札でぶっつけ本番で使う勇気はない。
嫌だよ、自爆して肉片となって飛び散ると最期とか。
「じゃあ、持ち帰って換金だな」
遺物として高く売れるだろう。
「神様も一撃なんですけどねぇ」
サゴさんがよくわからないことをつぶやいていた。
神様が斬れるかどうかはしらないけど、ロマンのある武器ではある。
それでも「血沸き肉踊る」が「(自分の)血撒き肉飛び散る」とかやっぱり嫌だわ。
武器以外は何もなさそうだった。
期待なんかしていなかったつもりだが、やはりどこかで期待していたんだな。
ちょっと落ち込む。
階段のある部屋に移動しようとしたときのことだった。
「きらりと光るは未来の通貨、キャップでしょうか?」
サゴさんが訳のわからないことをつぶやきながら、部屋の隅に向かう。
うわ、こんなところまで肉片飛び散っていますよと独り言を言っていたかと思うと、「おっ!」と声をあげる。
振り返るとサゴさんは肉片つきの金属容器を持っていた。
チェーンソー自爆で飛び散ったもののようだった。
「読めそうで読めない言葉ですけど……もしかしたら、君が泣いて欲しがるものかもしれませんよ。いらなかったら、私が頭に使いますけどね」
そう言いながら、見せてくれた金属の小箱の表面には”Textus pro Cellula Regenerationis”と書いてあった。
「細胞《セル》」とか「再生《リジェネレーション》」によく似た単語が書いてある小箱をひっくり返すとと絵付きの説明書きがあった。
皆で額を突き合わせて、覗き込む。
なくした足に貼ると足が生えてきたり、禿頭に貼ると髪の毛が生えてきたりするシートが描かれている。
「これでとうとうサゴさんの頭に……髪の毛が帰ってくるんですね!」
興奮をごまかそうと俺はおどける。
「阿呆なことを言っていると、本当に私が使いますよ」
そういうサゴさんを俺は感極まって抱きしめる。
ここは多分、ミカを抱きしめるところなのだろうけれど、なんか体が動いちゃったからしょうがない。
彼女も許して生モノネタとして消費してくれることだろう。
「キャップは役に立つでしょう」
サゴさんの言葉に俺は心底同意した。
◆◆◆
帰り道、俺たちは洞窟小人と再び鉢合わせとなり、追い立てられるように逃げ延びた。
人数の多さでサチさんまで囲まれることになり、ここでさっき見つけたばかりの火炎放射器がさっそく役に立つことになった。
妖かし鉱山から何とか脱出した俺たちは階段キャンプ場まで注意しながら戻る。
ここまで来れば安全だ。
絶対に落とさなそうなところに入れて、何度も何度も確認した金属の小箱を取り出す。
もう一度、裏面のマンガチックな説明書きを眺めて、使い方を確認する。
そして、金属の小箱に入っていたシートを俺の右腕の切断部分に貼る。
包帯で軽くシートを貼った部分をおおい、その上から、小箱に同封されていたジェル状のものを塗る。
「どうしようか? 別の生き物の手とか生えてきたら……」
「そうしたら、見世物小屋に売ろうではないか? 元よりも高く売れるから貴様も嬉しいだろう?」
俺を煽るのが趣味らしい中2病の呪いの人形がむかつくことをいう。
焚き火の横で座るホラー映画の人気者の背後に回ったサチさんがげんこつをつくると、やつの両こめかみにあててぐりぐりと力をいれる。
呪いの人形の形相がゆがむ。うわっ、気持ち悪いわ。
「ふざけて良いときと悪い時があるでしょう! この! バカっ!」
ああ、俺が腕をなくしたときに感じなくても良い責任を感じてしまっていたんだ、この子は。
ごめん。悪かった。
「あんたもさっと手を生やしなさい!」
普段からは考えられない言葉遣いでサチさんが俺の胸もたたく。
「と、おっしゃられても、そんな急にニョキニョキとは……ああ、でもなんか妙にむずむずするわ」
サチさんの顔が泣き笑いのような変な顔になった。
綺麗な顔をしているんだから、もったいない。
ついでにいえば、呪いの人形なんかに熱をあげているのももったいない。
まぁ、すでにウマに蹴られかけた俺としては人の恋路を邪魔するつもりはないけれどさ。
「説明書きの数字に48みたいなことが書かれていたし、2日程は待たないといけないかもしれませんね」
サゴさんが言う。
食料もまだ十分にありますから、ここで2晩くらいはキャンプしていきましょう。
彼の言葉に俺たちはしたがう。
むずむずはずっと続いた。
2日目の朝、再び幻肢痛というか幻肢かゆみが俺の右手に現われる。
ものすごく痒くてたまらず、俺は左手でかきむしろうとする。
痒いところをかこうとする俺の左手は常に空を切り、俺はどうしようもできない痒みにいらつく。
はずだったが……今回は痒みの震源地に指が届いた。
力を入れると、ぎこちなくだが、包帯の下で右手の指が動く。
包帯を1人で解くのが怖いので、となりで寝ているミカのほおをいつも俺がやられているようにひっぱろうとする。
包帯ごしの右手のほうはあまりうまくつかめなかったが、それでもなんとか左右のほっぺたをつかむとみょーんと左右に引っ張ってやる。
しかし、女の子の肌というのは男のそれとつくりが違うのだろうか。
すべすべしている。
彼女が目を覚ます。
「ひっぱらないでよぉ。もう、なに?」
俺の顔をじっと見ると、くりくりとした目で左右を見ようとする。
そして、右手で俺の左手を握り、左手で自分の頬をつかんでいるものを恐る恐る確認する。
「ほっぺたつままれている気がするけど……」
「鉤爪とかだったらどうしようと思うと怖くてさ。一緒にほどいてくれないかな」
2人で包帯をほどく。
……腕の先に生えていたのは鉤爪でもなく、緑色の手でもなく俺の手だった。
俺は泣きそうだったので、それをごまかすために彼女を抱きしめると、右手で彼女の頬をなで続けた。
彼女の頬に流れる涙を右手でぬぐいながら、彼女を抱きしめる左手に顔をこすりつけて自分の涙をぬぐう。
彼女の肩が震える。俺の胸も震える。
「恥ずかしいから、顔触らないでよ」
「この指だって君をおぼえたいさ」
「いやらしいんだから。誰かに聞かれたら誤解されるよ」
「いいじゃん。誤解されたって」
「そうかもね」
彼女は俺を一度ぐっと突き放すと、額をつきつけて、しばらくとまる。
そして、遠慮がちに口づけをした。
「こういうのは普通、男の子がリードするんじゃないかな?」
顔を離したあとに口をとがらせてそんなことをいう彼女を俺は無言で抱きしめた。
事前の情報とも照らし合わせ、家探しをするくらいの時間は安全だと判断した俺たちは、手早く、しかしながら、念入りに探索をすることにした。
解剖台のある部屋の北側は実験の記録でも取る場所だったのだろうか。
机と椅子、椅子には……。
「人骨……」
思わず腰が引けてしまう。嫌なんだよ。ホラーでもしっとり系のやつは怖いから。どうせなら、からっと明るく血がどばーのほうが景気よくてよいだろ。
「にしては小さいよね……洞窟小人じゃない?」
確かに頭蓋骨の形からして違う。
これも古の再現とかなのだろう。こいつは「研究員」の模倣か。
洞窟小人の骸骨の前の机の上には一冊の本が置かれている。
印刷はところどころかすれているし、ページも破れているが朽ちてはいないのは奇跡か、それとも未来の技術ゆえか。
あやとりをする手の向こうに太陽のようなものが書かれている表紙には、
「きゃっつ……くれーどる?」
と記してあった。著者名はかすれていて読めなかった。
本を手に取ろうとすると、持ったはしから崩れていく。本が残っていた理由は未来の技術ではなく、奇跡の方だったらしい。
「これは……持ち帰れませんね」
横にはペンがあった。
この世界の筆記具といえば、羽ペンぐらいしかなかったので、それなりに価値があるだろう。
解剖台の南側の部屋はかつては物置だったようだ。
棚があるだけで、中身はすべて持ち去られている。
サゴさんがペットボトルキャップみたいなものをまたポーチにつめていた。
東の奥は個人の研究室だったのか、書棚と机椅子が並ぶ部屋がいくつかあった。
ペンを2本見つけ、サゴさんのキャップコレクションも増えた。
研究室の北側は檻が並ぶ部屋だった。
洞窟小人の猟犬の骨らしきものがいくつか並んでいた。
散乱していないところを見ると、これも彼らの宗教的行為であったのだろう。
価値のありそうなものは何も見つけることができなかった。
何もなかった……。
少し落ち込むが、努めてそれを顔に出さないようにする。
「あとは解剖部屋と階段のある部屋くらいか」
解剖部屋にあるのは、解剖係が持っていた武器くらいだ。
薙刀っぽい武器の穂先として使われていた包丁のような刃物は金属製だが錆一つなく、なかなかの切れ味であった。
長柄でも刀の柄のようなものでもよいので、何かしら柄をつけなおせば、良い武器となるのではないだろうか。
「なぁ、チュウジよ。これ、両手持ちの剣の柄とか巻いたらさ、お前の好きそうな中2病大剣になりそうじゃね?」
珍しくチュウジが無言でうなずく。
黒い刃を持つ切れ味抜群の大剣をもつ剣士。
そりゃ、中2心をくするぐるだろう。
「他に使ってみたい人は?」
ミカもサゴさんも首をふる。
「そういうわけで、お前が持って帰れ」
手切らないように布で巻いておけよと忠告して、でかい包丁はチュウジにまかせた。
火炎放射器は1メートル弱の筒で手元には車のガソリンメーターのような燃料計がついていた。
メーターの針は半分くらいを指している。
「これはサチさんに持っていてもらおうか。燃料補充ができない以上、常用できるものではないし、だったら、俺たちの生命線が接敵されたときの奥の手として使うのが良さそうだ」
最後にチェーンソー。
おっかなびっくり調べてみたが、ホラー映画であるようなガソリン式で引っ張って起動するとか言うわけではないらしい。
トリガーのようなものがあって、安全装置とおぼしきものを外してトリガーを引くと回転し始める。
「これ、使いこなす自信のある人いる?」
試しに聞いてみたが、誰も手をあげなかった。
ホラー映画的にはマストアイテムと言ってもいい武器だし、結構金をかけた武器付きの義手を切り落とされるぐらいに強力なのだが……。
遣い手の派手な自爆シーンを見せられた後にこいつを使う勇気はない。
練習して使いこなせるようにしようにも、燃料補充がきかない動力式だと練習も気軽にできない。
切り札でぶっつけ本番で使う勇気はない。
嫌だよ、自爆して肉片となって飛び散ると最期とか。
「じゃあ、持ち帰って換金だな」
遺物として高く売れるだろう。
「神様も一撃なんですけどねぇ」
サゴさんがよくわからないことをつぶやいていた。
神様が斬れるかどうかはしらないけど、ロマンのある武器ではある。
それでも「血沸き肉踊る」が「(自分の)血撒き肉飛び散る」とかやっぱり嫌だわ。
武器以外は何もなさそうだった。
期待なんかしていなかったつもりだが、やはりどこかで期待していたんだな。
ちょっと落ち込む。
階段のある部屋に移動しようとしたときのことだった。
「きらりと光るは未来の通貨、キャップでしょうか?」
サゴさんが訳のわからないことをつぶやきながら、部屋の隅に向かう。
うわ、こんなところまで肉片飛び散っていますよと独り言を言っていたかと思うと、「おっ!」と声をあげる。
振り返るとサゴさんは肉片つきの金属容器を持っていた。
チェーンソー自爆で飛び散ったもののようだった。
「読めそうで読めない言葉ですけど……もしかしたら、君が泣いて欲しがるものかもしれませんよ。いらなかったら、私が頭に使いますけどね」
そう言いながら、見せてくれた金属の小箱の表面には”Textus pro Cellula Regenerationis”と書いてあった。
「細胞《セル》」とか「再生《リジェネレーション》」によく似た単語が書いてある小箱をひっくり返すとと絵付きの説明書きがあった。
皆で額を突き合わせて、覗き込む。
なくした足に貼ると足が生えてきたり、禿頭に貼ると髪の毛が生えてきたりするシートが描かれている。
「これでとうとうサゴさんの頭に……髪の毛が帰ってくるんですね!」
興奮をごまかそうと俺はおどける。
「阿呆なことを言っていると、本当に私が使いますよ」
そういうサゴさんを俺は感極まって抱きしめる。
ここは多分、ミカを抱きしめるところなのだろうけれど、なんか体が動いちゃったからしょうがない。
彼女も許して生モノネタとして消費してくれることだろう。
「キャップは役に立つでしょう」
サゴさんの言葉に俺は心底同意した。
◆◆◆
帰り道、俺たちは洞窟小人と再び鉢合わせとなり、追い立てられるように逃げ延びた。
人数の多さでサチさんまで囲まれることになり、ここでさっき見つけたばかりの火炎放射器がさっそく役に立つことになった。
妖かし鉱山から何とか脱出した俺たちは階段キャンプ場まで注意しながら戻る。
ここまで来れば安全だ。
絶対に落とさなそうなところに入れて、何度も何度も確認した金属の小箱を取り出す。
もう一度、裏面のマンガチックな説明書きを眺めて、使い方を確認する。
そして、金属の小箱に入っていたシートを俺の右腕の切断部分に貼る。
包帯で軽くシートを貼った部分をおおい、その上から、小箱に同封されていたジェル状のものを塗る。
「どうしようか? 別の生き物の手とか生えてきたら……」
「そうしたら、見世物小屋に売ろうではないか? 元よりも高く売れるから貴様も嬉しいだろう?」
俺を煽るのが趣味らしい中2病の呪いの人形がむかつくことをいう。
焚き火の横で座るホラー映画の人気者の背後に回ったサチさんがげんこつをつくると、やつの両こめかみにあててぐりぐりと力をいれる。
呪いの人形の形相がゆがむ。うわっ、気持ち悪いわ。
「ふざけて良いときと悪い時があるでしょう! この! バカっ!」
ああ、俺が腕をなくしたときに感じなくても良い責任を感じてしまっていたんだ、この子は。
ごめん。悪かった。
「あんたもさっと手を生やしなさい!」
普段からは考えられない言葉遣いでサチさんが俺の胸もたたく。
「と、おっしゃられても、そんな急にニョキニョキとは……ああ、でもなんか妙にむずむずするわ」
サチさんの顔が泣き笑いのような変な顔になった。
綺麗な顔をしているんだから、もったいない。
ついでにいえば、呪いの人形なんかに熱をあげているのももったいない。
まぁ、すでにウマに蹴られかけた俺としては人の恋路を邪魔するつもりはないけれどさ。
「説明書きの数字に48みたいなことが書かれていたし、2日程は待たないといけないかもしれませんね」
サゴさんが言う。
食料もまだ十分にありますから、ここで2晩くらいはキャンプしていきましょう。
彼の言葉に俺たちはしたがう。
むずむずはずっと続いた。
2日目の朝、再び幻肢痛というか幻肢かゆみが俺の右手に現われる。
ものすごく痒くてたまらず、俺は左手でかきむしろうとする。
痒いところをかこうとする俺の左手は常に空を切り、俺はどうしようもできない痒みにいらつく。
はずだったが……今回は痒みの震源地に指が届いた。
力を入れると、ぎこちなくだが、包帯の下で右手の指が動く。
包帯を1人で解くのが怖いので、となりで寝ているミカのほおをいつも俺がやられているようにひっぱろうとする。
包帯ごしの右手のほうはあまりうまくつかめなかったが、それでもなんとか左右のほっぺたをつかむとみょーんと左右に引っ張ってやる。
しかし、女の子の肌というのは男のそれとつくりが違うのだろうか。
すべすべしている。
彼女が目を覚ます。
「ひっぱらないでよぉ。もう、なに?」
俺の顔をじっと見ると、くりくりとした目で左右を見ようとする。
そして、右手で俺の左手を握り、左手で自分の頬をつかんでいるものを恐る恐る確認する。
「ほっぺたつままれている気がするけど……」
「鉤爪とかだったらどうしようと思うと怖くてさ。一緒にほどいてくれないかな」
2人で包帯をほどく。
……腕の先に生えていたのは鉤爪でもなく、緑色の手でもなく俺の手だった。
俺は泣きそうだったので、それをごまかすために彼女を抱きしめると、右手で彼女の頬をなで続けた。
彼女の頬に流れる涙を右手でぬぐいながら、彼女を抱きしめる左手に顔をこすりつけて自分の涙をぬぐう。
彼女の肩が震える。俺の胸も震える。
「恥ずかしいから、顔触らないでよ」
「この指だって君をおぼえたいさ」
「いやらしいんだから。誰かに聞かれたら誤解されるよ」
「いいじゃん。誤解されたって」
「そうかもね」
彼女は俺を一度ぐっと突き放すと、額をつきつけて、しばらくとまる。
そして、遠慮がちに口づけをした。
「こういうのは普通、男の子がリードするんじゃないかな?」
顔を離したあとに口をとがらせてそんなことをいう彼女を俺は無言で抱きしめた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる