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さっさと逃げ出したかったけれど
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「……………」
「……………」
温かい日差し。そよぐ風。その中に広がる庭園の花々は、まるで夢をみるように美しい。
蝶が飛び交い、時折きこえる花びらがこすれるささやかな音は、はたからみれば穏やかな癒しの時間だ。
………その庭園の中にあるテーブルに座る、無言のカップルがいなければ……だが。
(……僕は選択を誤ったのかもしれない)
僕はもう何杯目になるかわからない紅茶に再び口をつけ、テーブルの下でたぷたぷになったお腹を少しさする。どうしてこんなことになっているのか、僕だってわからない。
(……この状況はいつ終わるんだろう……)
ちらりと視線を上げた先には、一人の令嬢がいる。
ときおり風に吹かれて揺れる黄金色の髪がさらさらと揺れ、それを時折肩に払う仕草なんてとても優雅だ。
いや、口元にゆっくりと運ばれる紅茶のカップ。まるで一枚の絵画のように完璧なカレン嬢ではあったが、僕の尊敬する公爵様と同じアメジストは僕に向けられることは一度もない。
…僕は結局、公爵様に婚約のお断りをさせていただいたんだ。
生憎父上は急に領地に戻らねばならず、母上も王妃様から御呼ばれしているとあって、この屋敷に一人で来る羽目になった僕。突然の来訪にもかかわらずお会いしてくれた公爵様は、少し驚いたような顔をしたあと、苦笑いのような笑みを浮かべて、そうかと一言だけおっしゃった。きっとその中には、公爵としての想いやカレン嬢の父君としての想いもあったのだろうと思う、そして僕は公爵家を辞するつもりだったのだけど…、何故かカレン嬢とのお茶をすすめられ…今に至る。
しかし、考えてみれば僕がカレン嬢とこんなに近くに接したことは初めてだ。
同じ生徒会のメンバーではあったけど、イリュージュ王子とは仕事以外でお話することはなかった。僕が生徒会に入ったのはここ一年ぐらいのことで、お二人のことは話に聞くことはあってもどこか遠い出来事だった。それに僕が生徒会に入った頃には、アイラ嬢もいてイリュージュ王子とカレン嬢が二人でいる姿をほとんどみかけることもなかった。だからかな、僕のカレン嬢のイメージは…
イリュージュ王子の婚約者。美しく、他の令嬢の模範となる令嬢、そしてどこか遠い目でイリュージュ王子を眺めている姿…が焼き付いている。
その姿はとても物悲しくて、いたたまれなくて、イリュージュ王子と笑いあうアイラ嬢、そして取り巻きの令息たちを遠くの物陰からみる彼女の姿になぜだかとても申し訳なく思ってしまったことを覚えている。
(カレン嬢は何も悪くない…けど、今の彼女には何の言葉も届かないだろうな)
聞けば、あの騒動の後からカレン嬢はずっと学校を休み続けている。
しかも…彼女のもとへ訪れる客もいないらしい。
カレン嬢は、王子の婚約者、そして公爵令嬢としての立場からかかなりの取り巻き令嬢たちがいた。もし、イリュージュ王子が王になれば彼女は未来の王妃、カレン嬢と仲良くなっておこうという気持ちもわからないでもないけど、…あの婚約破棄騒動からその令嬢たちはさざ波をひくようにカレン嬢のそばから離れていった。非が王子側にあるとわかっても、カレン嬢をかばい自分たちが王子に目をつけられる危険は冒せないのだろう。
そのことにカレン嬢もショックを受けていると、公爵様から聞かされたのだけど…でも僕は知っているんだよね、カレン嬢は自分が思っている以上に慕われていることを。本当はお見舞いにいきたいのだけど、ショックを受けている彼女にどう顔を合わせてよいのかわからないと…そう話している令嬢たちもいることを。
でも、きっとその言葉も僕がいっても届かない。
僕自身の存在が、彼女にとって無視しておきたいそのものだろうから。
(もういいかな)
公爵様への義理も果たした、お茶を運んでくるメイドのぎらつくような不信の目もスルーした。
もう僕がここにいる理由もない。
「それでは、僕はそろそろ失礼いたします、美味しいお茶をごちそう様でした」
返答があるとは思わなかった、見送りなどしてくれるとも思わなかった。
父親に言われて仕方がなく付き合ったおもてなし、しかもこの時期に合わせる年頃の男など一つの理由しかない。
僕に対する彼女の印象は最悪、最低、それでも付き合わなくてはならない彼女に僕は少しだけ同情してしまった。
「お体を大切に、さようならカレン嬢」
そう一言いいその場を去った僕。
すぐ背を向けたから当然気づかなかった。
彼女が僕の背を見送っていたことなど。
「……………」
温かい日差し。そよぐ風。その中に広がる庭園の花々は、まるで夢をみるように美しい。
蝶が飛び交い、時折きこえる花びらがこすれるささやかな音は、はたからみれば穏やかな癒しの時間だ。
………その庭園の中にあるテーブルに座る、無言のカップルがいなければ……だが。
(……僕は選択を誤ったのかもしれない)
僕はもう何杯目になるかわからない紅茶に再び口をつけ、テーブルの下でたぷたぷになったお腹を少しさする。どうしてこんなことになっているのか、僕だってわからない。
(……この状況はいつ終わるんだろう……)
ちらりと視線を上げた先には、一人の令嬢がいる。
ときおり風に吹かれて揺れる黄金色の髪がさらさらと揺れ、それを時折肩に払う仕草なんてとても優雅だ。
いや、口元にゆっくりと運ばれる紅茶のカップ。まるで一枚の絵画のように完璧なカレン嬢ではあったが、僕の尊敬する公爵様と同じアメジストは僕に向けられることは一度もない。
…僕は結局、公爵様に婚約のお断りをさせていただいたんだ。
生憎父上は急に領地に戻らねばならず、母上も王妃様から御呼ばれしているとあって、この屋敷に一人で来る羽目になった僕。突然の来訪にもかかわらずお会いしてくれた公爵様は、少し驚いたような顔をしたあと、苦笑いのような笑みを浮かべて、そうかと一言だけおっしゃった。きっとその中には、公爵としての想いやカレン嬢の父君としての想いもあったのだろうと思う、そして僕は公爵家を辞するつもりだったのだけど…、何故かカレン嬢とのお茶をすすめられ…今に至る。
しかし、考えてみれば僕がカレン嬢とこんなに近くに接したことは初めてだ。
同じ生徒会のメンバーではあったけど、イリュージュ王子とは仕事以外でお話することはなかった。僕が生徒会に入ったのはここ一年ぐらいのことで、お二人のことは話に聞くことはあってもどこか遠い出来事だった。それに僕が生徒会に入った頃には、アイラ嬢もいてイリュージュ王子とカレン嬢が二人でいる姿をほとんどみかけることもなかった。だからかな、僕のカレン嬢のイメージは…
イリュージュ王子の婚約者。美しく、他の令嬢の模範となる令嬢、そしてどこか遠い目でイリュージュ王子を眺めている姿…が焼き付いている。
その姿はとても物悲しくて、いたたまれなくて、イリュージュ王子と笑いあうアイラ嬢、そして取り巻きの令息たちを遠くの物陰からみる彼女の姿になぜだかとても申し訳なく思ってしまったことを覚えている。
(カレン嬢は何も悪くない…けど、今の彼女には何の言葉も届かないだろうな)
聞けば、あの騒動の後からカレン嬢はずっと学校を休み続けている。
しかも…彼女のもとへ訪れる客もいないらしい。
カレン嬢は、王子の婚約者、そして公爵令嬢としての立場からかかなりの取り巻き令嬢たちがいた。もし、イリュージュ王子が王になれば彼女は未来の王妃、カレン嬢と仲良くなっておこうという気持ちもわからないでもないけど、…あの婚約破棄騒動からその令嬢たちはさざ波をひくようにカレン嬢のそばから離れていった。非が王子側にあるとわかっても、カレン嬢をかばい自分たちが王子に目をつけられる危険は冒せないのだろう。
そのことにカレン嬢もショックを受けていると、公爵様から聞かされたのだけど…でも僕は知っているんだよね、カレン嬢は自分が思っている以上に慕われていることを。本当はお見舞いにいきたいのだけど、ショックを受けている彼女にどう顔を合わせてよいのかわからないと…そう話している令嬢たちもいることを。
でも、きっとその言葉も僕がいっても届かない。
僕自身の存在が、彼女にとって無視しておきたいそのものだろうから。
(もういいかな)
公爵様への義理も果たした、お茶を運んでくるメイドのぎらつくような不信の目もスルーした。
もう僕がここにいる理由もない。
「それでは、僕はそろそろ失礼いたします、美味しいお茶をごちそう様でした」
返答があるとは思わなかった、見送りなどしてくれるとも思わなかった。
父親に言われて仕方がなく付き合ったおもてなし、しかもこの時期に合わせる年頃の男など一つの理由しかない。
僕に対する彼女の印象は最悪、最低、それでも付き合わなくてはならない彼女に僕は少しだけ同情してしまった。
「お体を大切に、さようならカレン嬢」
そう一言いいその場を去った僕。
すぐ背を向けたから当然気づかなかった。
彼女が僕の背を見送っていたことなど。
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