109 / 201
王都編
1
しおりを挟む一見すると街全体が一つの大きな城のように見えるが、すべての建物が繋がっているわけではない。
緻密な設計の元、一つの街を形成している。
静謐で、厳か。
それでいて、煌びやかな装飾品で飾られた、白く輝く都市。
王都――ルクセント。
一際目立つ宮殿の王の執務室に、サラは両脇にいる王族に跪くように抑えられていた。
「……いい加減離せ」
「黙りなさい」
ギャグか、と思わせるほどの丸メガネをかけた王族騎士が、冷めた目線でこちらを見下ろしている。
しかもその王族騎士の髪の毛がきっちりと切りそろえられていて、まるでキノコみたいだった。
見た目と冷めた目線とのギャップがありすぎて、この場でなかったら笑っていただろう。
「……チッ」
舌打ちするサラに、反対側で立っていた王族が前髪を掻き上げながら、ため息をついた。
「舌打ちするなんて! なんて下品な女なんだ! 僕のマリアとは大違いだね! マリアの爪の垢でも飲ませてやりたいよ!」
再び前髪を掻き上げる。
そして窓に映った自分を確認して前髪を整え始めた。
だったら掻き上げるな。というかナルシストか、こいつ。
「というかどうしてマリオン様はこの一般騎士を連れて行けだなんて言ったんだい?」
「……ルドルフ君、それはこれからわかることでしょう。というか、毎回格好をつけて、その前髪をわざわざ掻き上げる仕草なんてしないでくれますか? 目ざわりなんですけど。邪魔ならいっその事僕みたいに目にかからないようにすればいいでしょう」
丸メガネをくいくいっと上げながら、キノコ王族騎士が確信を突くようにナルシスト王族騎士――ルドルフに注意する。
「な、何を言っているんだい!? イグニードは全くわかっていないね!」
「……はい?」
「僕の魅力を200%引き出すには、常に前髪を美しく掻き上げる必要があるんだよ!」
そう言いながら、何度も前髪を掻き上げる。
「わかったかい!? ダサメガネ君!」
執拗までに何度も何度も。
そして掻き上げ終わったかと思えば、窓を鏡代わりに前髪を調節する。
それを横目に、イグニードのルドルフを見る目は白い。
「わかりません」
「何だって!?」
その会話を聞いていたサラは正直呆れていた。
この生産性のない阿保な会話は一体何なんだ。
会話に気品が無く、低俗すぎる。
阿保そうなこいつらは、本当に王族なのだろうか、とサラが眉根を寄せていたら。
「静かにせんか」
真っ白な団服を身に纏った王――グライデンがゆっくりと部屋に入ってきた。
その後ろをマリオンが付き添っている。
部屋の中のふざけていた空気が一瞬にして厳粛さを纏った。一瞬にして空気を変えてしまう王の威厳にサラは生唾を呑み込んだ。
「ルドルフ、イグニードよ、ご苦労だったな。暫くの間、席を外してくれないか」
「「はいっ」」
ルドルフとイグニードはちらりとサラへ視線を向けたが、押さえつけていた手を離してその部屋から退出した。
グライデンはしばらく窓の外を憂いを帯びた瞳で眺めていた。
天井まで届くほどの大きな窓の外には、一体何が見えるのだろう。
そんなことを考えながら、サラは「どうして私はここへ連れて来られたんだ」と最も疑問に思っていることを聞こうと口を開きかける。
けれど沈黙していたグライデンが大きなため息をつきながら、こちらを振り返ったその表情を見て、サラは閉口した。グライデンの表情があまりにも悲し気だったのだ。
「エスティレーナの娘というのは本当なのか? お前の名は?」
その表情とは裏腹に声音は鋭かった。
サラはゆっくりと立ち上がる。
「私はサラ。確かに私の母の名はエスティレーナだ。だが、それと王族と何が関係あるんだ?」
グライデンはもう一度深いため息をついて、感情を押し殺すように言葉を発した。
「かつて、三人の姫がいた。一人目は冷静沈着、二人目はおてんば、三人目は怖がり。彼女たちはすくすくと育ち、やがて立派な祈祷師へとなった。だがある日、二人目のおてんば姫が突然姿を消した。私たちはスカルに連れて行かれたのではないかと思って、必死になって探した。だが」
はあ、と何度目かのため息をこぼした。
口がわなわな震えている。
それから、何か込み上げるものを呑み込むように、ゆっくりと目を閉じた。
「数年かけてやっと見つけた時、彼女はすでに遺体となっていた。亡くなった彼女の名前こそが、エスティレーナ。つまりお前の母親だ」
「……娘がいたとはな」とグライデンが感慨深くぼそりと呟く。
衝撃的な事実だったが、サラには全くピンとこなかった。
私が王族だと? そんな馬鹿な。
「……私の母は確かにエスティレーナだが、同一人物という根拠は?」
私が王族の血を引いているわけがないのだ。
たまたま母親の名前が同じ名前なのではないのか。
この世界で同じ名前の人間がいてもおかしくはないのだから。
サラが王族説よりも、もはや母親の名前一緒説の可能性にかけたい。
けれどどうして、あの時にマリオンの口から母の名前が出てきたのだろう。
ふと疑問に思っていれば、マリオンはそんなサラの疑問を潰し、王族ではないという希望を打ち砕く。
「根拠なんてあなたの背中を見れば一発よ」
ゆっくりとマリオンがサラを指さす。
「王族にしかないイレズミが、あなたの背に入っていたの。ウィンテールの血を引く、光のイレズミが」
「……ウィンテールの、血?」
マリオンは「そうよ」と頷く。
「騎士になっていたなんてね。騎士養成学校の入学で精石を入れるときには、恐らく背にはあまり浮き出ていなかったのでしょう。だからわからなかったと思われるわ。背のイレズミがはっきり表れるのは、年齢と性別によって個人差があるから。でも大人になればなるほどはっきり表れる」
「……そのイレズミが私の背にあった、と」
マリオンが頷く。
「これではっきりしたわ。南都市の聖域の浄化の痕跡はあなただったのね。通りで一般騎士にしては浄化能力が高いと思ったのよ。王族なら納得できるわ」
「……」
サラは押し黙った。
光の力が他の一般騎士よりも強いのは、王族だからなのだろうか。そもそも関係あるのだろうか。
眉間に皴を寄せたサラに、グライデンがゴホン、と咳払いした。
「王族はみなが親族であるため、顔はすべて把握している。それなのにお前の顔は見た事がなかった。王族特有のイレズミが入っているということは、お前は王族ということだ。つまり、消えた我が娘の子どもと断定できる」
「……私は、あんたの孫?」
グライデンの言葉に、サラは理解できないという表情を浮かべた。
真実なのかもしれないが急にそんなことを言われてもわけがわからないし、納得したくない。
正直今のままでいい。
「そうね。そして、私はエスティの姉。あなたのおばに当たるわ」
「……」
「ということだ。これからは、お前は王族として、そして騎士ではなく、祈祷師として生きてもらう」
「……は?」
「急かもしれないが、これは決まりだ。王族の女は祈祷師、男は騎士として生きると決まっているのだ」
恐ろしい王族の決まりごとに、サラは背筋を凍らせた。
それは駄目だ。王族として生きることに縛られてしまうなど、あってはならない。
祈祷師は祈りを捧げるために各地を訪問する。
けれどその場所はすべて決められている。
それ以外の場所には行けないのだ。
それでは自由に姉を探しに行くことができないし、血のにじむ努力をし、騎士になった意味がない。
「私は騎士だ!」
それだけははっきり言える。
祈祷師として生きるなど言語道断。姉を救うと誓ったのだ。なぜ、途中で諦めなければならないのだ。
騎士であることを譲ろうとしないサラにグライデンは顔を強張らせたが、「仕方ない」とため息をつく。
「王族としての自覚を持つまで、外には出さない」
「は!?」
「ルドルフ、イグニード、彼女を別室で監禁しろ!」
グライデンの張り上げられた声に反応するように扉が開き、ルドルフとイグニードがぱたぱたと入ってくる。
「来なさい」
「君はこちらで監禁だ」
「おい! やめろ! 離せ!」
サラは抵抗虚しく両腕を拘束されて、引きずられるようにして執務室を退出していった。
✯✯✯
何とも言えない表情で眺めていたマリオンが小さなため息をつく。
「お父様、もっと正直になられてはどうですか?」
「どういう意味だ……? これでいいのだ」
「そう、ですか……」
淡々としているグライデンの横顔は憂いを帯びていたが、マリオンは気づかないふりをした。
影を探しているのは自分も同じか、とマリオンは深いため息をつく。
「彼女に王族としての教育を」
「……わかりました」
かつて小さな手を握っていた自身の手から、マリオンは視線を逸らした。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ペットになった
ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる