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王都編

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 部屋に放り投げられるようにして入れられたサラは、絨毯の敷かれた床に体を打ちつける。

「いって!」

「あなたはここで生活してもらいます。何かあれば王族専用の無線で要望をどうぞ」

 そう言って放り投げられたのは、美しい曲線を描く王族専用の無線。

 恐らく使わないだろうと思いつつ、サラは手に取る。

「じゃあ、ここで大人しくしているんだよ、じゃじゃ馬ちゃん」

 ルドルフがウィンクして、扉を閉めた。

 ガチャリ、とカギを閉められたことにハッとして、サラはドアノブをガタガタ揺らす。

「おい! 出せ!」

 部屋の内側からはカギが開かないように設計されており、どうやら本当にここから出られないようだ。

「……くそ」

 壊すか。

 だが、壊せばその破壊音でバレるだろう。

 この宮殿には数多くの王族騎士がいる。

 すぐに捕まってしまうし、王族騎士に追われて逃走し続けるというのは面倒だ。

 逃げるならば、気づかれないようにそっと、がいい。

 ため息をつきながら、どうやってここから出るかをサラは思考を巡らせる。

 部屋の中には高級そうな調度品がずらり。

 ベッドなんて天蓋付きだ。

 なんだ、この居心地の悪い空間は。

「サラは……王族だったんだな」

 アルグランドが驚きを隠さず呟く。

「どうやらそうらしいが、私は信じていない」

「ははは。そうか。……サラがもし祈祷師となったら、あの服を着ることになるのか?」

「あー……あのテロテロした服だろ。絶対にいやだ」

 アルグランドは想像してみたようで、クスッと笑っている。

「おい。絶対に似合わないって思っただろ」と言おうと思ったが、サラも想像してみたので言わないことにする。

 確かに絶対に似合わない。

 祈祷師はフード付きの純白のローブを身に纏っている。

 そのローブの下から覗くのは恐らくロングドレス。

 装飾品は華美なものではなく、品があるもの。

 王族の洗礼された女性が着ると、神々しく美しい。

 人々から崇拝される程、神秘的なヴェールに包まれる。

 サラはそんな高貴な女性になる気など全くないし、たとえ王族であったとしても騎士をやめることなど考えていない。

 アルグランドは「……面白いな」と笑っているが、笑い事ではない。

 サラは眉間に皴を寄せ、窓からの脱出を考えようと窓へ向かった。

 こんなところでぐずぐずしている場合ではないのだ。

 ここにいれば永久に閉じ込められる気がして、サラは王族としての自分ではなく、さっさと特務としての自分に戻りたかった。

 サラが窓に近づいて確認すれば、窓ははめ込み式ではなかった。

 どうやらカギを開ければ簡単に開くようだ。

 だが、窓から地上へ飛び降りようとしても、今閉じ込められている部屋はかなり階層が高い。

 飛び降りれない事はないが、着地に失敗すれば骨折するだろう。

 骨折だけで済めばいいが。

 飛び降りれないような部屋を選んで監禁したと考えられる。

 サラは視線をくまなく動かした。脱出するならば、数メートル先のベランダを利用して降りるしかないな。

 まあ、数メートルならば、身体能力的に問題はないし、ベランダ伝えで降りるなら、大きな音もたたないので上手いこと逃げられるだろう。

 サラは扉の方へ視線を向ける。

 よし、誰かが来る気配はない。

「……今のうちに」

 逃げるか、と窓を開けた直後。

「ちょっと、一体何をしているのです?」

 だ、誰か来た!
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