光の騎士

ななこ

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故郷編

11(サラの過去)

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 そこからアルグランドと共に生活が始まった。

 一緒に切磋琢磨していくのかと思いきや。

 訓練の時も、自主トレーニングのときも、アルグランドは、くわあ、とあくびをして呑気に寝ているだけだった。

 ただ、スカルと闘う時だけ。

 少し力を貸す程度には協力してくれた。

 ただ、それだけ。

「おい、何でもっと力を貸してくれないんだ?」

「……面倒だ」

 気怠そうにそう呟いて、ごろんと芝生の上に寝転ぶ。

 こいつ……。

 他の候補生は精霊と協力して力をつけているのに、アルグランドだけは、非協力的だった。

「確かにその気になったら、と言ったが。いつになったらあんたはやる気になるんだ?」

 サラの質問に、ぴくぴく、と耳を動かすだけ。

 こいつ……。

「……もういい」

 別に、どうでもよかった。

 自分一人で、なんとかすべきだと、思っていたから。

 精霊の力なんてなくても、自分は戦えるのだ、と。

「また協力してくんないの?」

 アルグランドの寝そべっている木の根元から離れたら、ひょっこり現れた同期のジャネットがカラカラと笑った。

 サラはため息をつく。

「……そうみたいだ。でも」

「でも?」

「あいつの力を借りなくても、私は戦う」

 深刻そうに呟くサラに、ジャネットは「ふーん」と適当に相槌を打った。

 彼女とは別段仲が良かったわけではない。けれど、お互いがお互い無関心だったため、一緒にいて楽だったというのはある。

 彼女はフラッと現れて、二、三言交えたかと思えば、どこかへ消える。

 別に相談などすることもないし、特別何かを話すということもない。

 その距離感がサラにとってはよかったのだ。

 サラは黙々と一人で体を鍛え、精霊の力を借りなくても、幼いながらも候補生の誰よりも強い戦闘能力を有すようになった。

 ――でも、私は甘かった。



『緊急事態発生。緊急事態発生。ただちにスカルを殲滅せよ』

 騎士養成学校に侵入してきた巨大ムカデ型スカルを討伐する――という設定の訓練だった。

 広い闘技場のような場所で候補生たちはそれぞれの武器を手に、そのスカルに向かって駆ける。

 刃が硬い殻にぶつかる毎に咲く火花。

 長い胴体を斬り落とそうと幾筋も鋭い剣線が煌めく。

 圧倒的に候補生たちの攻撃の方が強力で押しているかに見えた。

 けれど。

 一匹かと思われたスカルが地面から数匹飛び出してきて、候補生を食らう。

 突然の乱入に対応できなかった候補生が怯み、長い胴に押しつぶされ、鋭い毒針に突き刺され――命を落してゆく。

 あっという間に闘技場は苦しみと悲鳴と、無残な死体で凄惨な惨状となった。

「なん、だ? これは……?」

 おかしい。

 ここにいる候補生のレベルとスカルのレベルが合ってない。

 そのせいで死者が出ている。

 くそ、こんなところで死ぬわけにはいかない……!

 サラは必死になってスカルの猛攻を避けていた。

 地面を激しく叩く尾のせいで粉塵が舞い、視界が悪い。

 どこから攻撃が来るのか読めない。

 サラはちらりと観覧席へ視線を向けるが、そこにいたはずの教師がいないことに気づく。

 その代り、こちらを無表情で見下ろす黒い影が一つ。

 見た事のない小柄の男だったが、恐らく奴のせいで助けが来ないらしい。

「サラ、これ、やばくない?」

 サラの背に背を合わせるように立ち、ジャネットが息を荒げる。

「何人生きているんだ?」

「さあ? わかんない」

 ひゅ、と粉塵から現れた毒針が二人を狙う。サラとジャネットがタイミング良く避けた後、ドドド、と地面に突き刺さった。

 一本ではなく、五本の毒針。

 どうやら五体がサラとジャネットを狙っているらしい。

「後ろは任せていいよ」

「……頼んだ」

 粉塵が晴れ、視界が鮮明になれば、おぞましい光景が目に飛び込んできた。

 巨大なスカルがサラとジャネットを取り囲んで、どう獲物を調理しようか楽しそうに眺めているではないか。

 他の候補生たちは気絶しているのか、死んでいるのかはわからないが、動く気配がない。

「絶対絶命のピンチじゃん、これ」

 緊張感のない笑いに、サラはため息をつく。

「何とかなるだろ」

 サラは神経を集中させる。

「行くぞ、アルグランド!」

 反応はなかったが、剣だけはサラの手に現れた。

 今回も協力する気がないらしい。

 まあいい。

 私なら倒せる。

「はあ!」

 サラの気迫の号令がお互いの攻撃の開始の合図となる。

 空気を裂くような強烈な斬撃を幾度となく繰り出すサラとジャネット。

 彼女らの動きは目でとらえることができない程素早く、スカルたちは弾き落とそうと胴を振るがかすりもしない。追いつけないのだ。

 ただその場で攻撃を受け続けるのみ。

 サラが体を捻りながらスカルへ剣を閃かせれば、足が何十本と切り落とされてゆく。

 悲鳴を上げたスカルに。

「終わりだ……!」

 脳天から流星群の如く、一直線に剣が煌めいた。

 だが、突き抜けることはなかった。

 だから絶命などするわけがなかった。

 サラの剣が脳天に突き刺さったまま、スカルは激しく頭を地面に打ちつける。

「くっ」

 サラは振り落とされないように剣にしがみついていたが、他のスカルがサラを叩き落とすように尾で激打した。

「サラッ!」

 尾に強打されたサラは体が嫌な音を立てて、地面を抉るように滑る。

「ぐあ……!」

「サラ!」

 サラに駆け寄ってきたジャネットの背後に迫るスカル。

「ジャネット……後ろ」

 サラは彼女を助けようと手を伸ばすが。

 ジャネットが振り向いた瞬間、伸びてきたスカルの頭にジャネットは頭をかぶりつかれてしまった。

 ぐん、と上まで連れ去られた体は、数秒後。

 首から下がボトリと地面に転がった。

 真っ赤な鮮血がサラの制服を汚した。

「あ……あ……」

 蘇る過去のワンシーン。

「嘘だ……」 

 サラの手は震えた。

「嫌だ……」

 どうして。

「ジャネット……」

 返事はない。

「ジャネットオオオオオオオオオオオオオ!」

 どうして。どうして。どうして……!

「くそがああああああ……!」

 サラは怒りに身を任せて、軋む体を強制的に動かして斬撃を乱れ撃つ。

 けれど、どう攻撃しても当たらない。

 冷静さを欠いた攻撃など、スカルにとって避けるのは朝飯前だったのだ。

「はあ……はあ……」

 どうして。

 失いたくはなかった。

 もう一度強烈な打撃がサラを襲った。

 壁に衝突し、意識が朦朧もうろうとなる。

 ぞろぞろとスカルがサラの周りを取り囲んだ。

「……」

 どうして。

 誰も、助けることができないんだ。

 誰も、守ることができないんだ。

 なぜ、失いたくない人ほど、失ってしまうんだ。

 呼吸が上手くできなかった。

 自分は、なぜ、何もできないんだ。

 強くなるって決めたのに。

 不意に、きらきらと光るものが空へ舞い上がっていくのを目にした。

 あれは、哀しいかな、精霊が消えてゆくときの輝き。

 精霊――。

 そこでようやく気が付く。 

 ああ、そうか。

 私は、一人で倒せると思っていた。

 でも、精霊の力がなければ、スカルは倒せないのだ。

 自分の高慢な態度にも、認識の甘さにも、嫌気がさした。

 その時、不意に不機嫌な声が耳に届いた。

『知っているか。人間と精霊の間には信頼関係が必要なんだ』

「そう、だな……」

『私たちの間にはそんなものは微塵もない。だから、こうなったんだ』

「信頼関係なんて、一朝一夕でできるわけないだろ」

 サラは朦朧とする意識の中で、声の主に反論する。

『そうだな』

「そうだな、じゃない……! じゃあ、どうすればいいんだよ……!」

『ならば、願うんだ』

「ねが、う?」

『自身ばかりの願いだけでなく、もっと慈悲深い、願いだよ。そして、眩しいぐらいの希望を』

 ――願い、希望。

『私たち精霊は、それが力となる。お前の場合、自分勝手な願いばかりで、少しも私の力にならなかった』

 苦しんでいるサラを見下ろすアルグランドの姿も、やせ細り、苦しそうなものだった。

 ああ、そうか。

 精霊と体を共有するということは。

 私の精神が高潔でなければならないのか。

 でなければ、精霊が苦しむのか。

 だから、力を貸せないのだ。

 貸せ、と言っても無理な話だ。

 精霊に無理をさせていたのは、私のほうなのだ。

 たしかに動機や願いは自分勝手なもの。

 でも、それが本当の私の願いであり、強い意志に繋がっているのも事実。

 けれど、自分一人では何もできないことを知った。

 自分一人の力など、たかが知れているのだ、とも。

 サラはゆっくり目を閉じる。

 なあ、アルグランド。

 私は、あんたと共に、生きたい。

 こんなところで死にたくない。

 連れていかれた、姉さんを探したい。

 ――母さん、父さん。

 ジャネットを……助けたかった。

 もう、こんな思いをするのはごめんだ。

 もう、誰も、失いたくない。

 小さな願いかもしれない。

 でも、私にとっては大きな願いだ。

 だから、力を貸してほしい。

 共に、戦ってくれるか、アル――。

 ぱああああ、とサラの体がまばゆく輝く。

 その衝撃で近くまで寄ってきていたスカルを弾いた。

 剣に輝きが増し、簡素だった剣が成長して光の命が吹き込まれる。

 そして、サラ自身が温かい光に包まれているのだと、今になってやっと気が付いた。

 初め、最悪な精霊だと思った。

 でも、それは私の未熟な部分が多かったから、自分自身の光の力が弱まることを危惧していたのだろう。

『その、願い、私も一緒だ。私も死にたくはないからな』

 ふ、と笑う笑みがとても優しく、どことなく嬉しそうだった。

『共に、戦うと誓おう』

 ――サラ。

 サラは剣を握りしめ、スカルに猛スピードで飛翔。

 悲しみの涙は、もう、二度と流さない。

 その涙が、光となって、私の進むべき道を照らすだろう。

 渾身の一撃を。

 光の刃を。

 アルグランドと共に。

 打ち込んだ。


 ✯✯✯


 私たちは、あのときから、少しづつお互いを信頼し始めた。

 辛い時も、苦しい時も、悲しい時も、楽しい時も、一緒だった。

 一緒に笑って。

 一緒に戦って。

 でも、私は君に。

 深い傷を負って、迷惑をたくさんかけた。

 心配もさせてしまった。

 ――アル、ごめんな。

 不甲斐ない主で。

 ――アル、ごめんな。

 共に生きると誓ってくれたのに。

 ――アル。

 君は、最高の相棒だ。

 一緒に戦ってくれて、ありがとう。

 ――なあ、アル。

 できるならば。

 もう一度、君に会いたい。
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