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一章
11、手がかり
しおりを挟むジンとフィオナとセドリックは死んだ男の服の中を探していた。
「つーか臭え、この服。こいつ、絶対に洗濯してねえな」
「ハンターだから、たぶんすぐに汚れるんだろ」
「えー……そんなもんなのか? 絶対に一週間は着っぱなしだろ、これ」
セドリックとジンがそんな会話を繰り広げながら、探ること数分。
「ないな……服には付けてないのかも??」
表面にも裏側にもない。ポケットの中でさえも見てみたが、ないのだ。
「そうね。もしかしたら体のどこかにつけているのかも」
そう言いつつ、フィオナは何の躊躇いもなく男の服を脱がしている。
「なあ、さっきはごめん」
一体何のこと、と首を傾げたフィオナだったが、何かを思い出したのか「ああ、あのこと」と目を伏せる。
「別にいいわ。不可抗力だったし」
そっけない返答は、どことなく冷たい。
俺、嫌われているのだろうか。でも、そうでないことを願いたい。なぜならば、彼女じゃなくても嫌われているというのは正直気まずいからだ。
実力世界の魔法騎士団ではある程度は仕方ないと思っていたし、我慢していたが、できればGHOSTにいる人たちとは上手くやっていきたいと思っているのだ。みんな犯罪者だけど、人は良さそうだからだ。
もしかして、死体を探るというこの状況をあまりよく思っていないのではないのかもしれない。
「なあ、大丈夫か?」
「何が?」
「いや、死体とか、男の人の裸とか見るの……嫌なんじゃ……」
だからそんなにも不機嫌なのでは。そう思ったが、彼女にとってはそれが通常だった。
「え? どうして? 別に何とも思わないわ」
そう言いながら、フィオナは男のズボンに手をかける。
「え、ちょっ……!」
ジンはその手を思わず掴んでしまった。細くて白い手首だ。力を入れたら折れてしまいそうなぐらい、華奢なのだ。
初めて見たときも思ったが、彼女はこの男を表情も変えず引きずっていたけれど、どこからそんな力が出てくるのだろう。
「何? 離してくれる? 脱がさないとわからないでしょ?」
冷静な返答に、ジンは慌ててその手を離した。
「ああ、ごめん。でも、下は……ちょっと待って。とりあえず、上半身を見てからにしない?」
「……いいけど」
セドリックは紋章を探すフリをしながら、二人の会話を盗み聞いていた。その顔は少しだけニヤついていた。
正直、ジンは彼女に男の股間を見て欲しくなかった。だから、咄嗟に掴んでしまった。痛かったかもしれない。そんな事を考えながら、ジンは上半身に紋章がありますように、と願いつつ観察した。すると、ハカセが預ったイヤリングと同じ模様のピアスがへそにくっついているではないか。
「あった!!」
かなり小さい物で、これはよく見なければ分からない。
「という事は、こいつもレガーロっていう組織の一員なんだな」とセドリックがへそピアスをじっと見つめている。
「……どうかしたのか?」
あまりにも深刻な表情をしているセドリックだったが、「いや、何でもねえよ」と首を振った。
♦♦♦
事務所に戻れば、エルメスはどこかへ行ったらしい。
「やっぱりあの男もレガーロの一員だったみたいだ」
「そう。じゃあ、そのアジトを探さないといけないわね。レガーロのアジトに盗まれた物があればいいけれど、もし、闇市に出品されてたら潜入しないといけないだろうからって、エルメスちゃんから通行証を預ったわ。ジン君はもう持っているわよね。じゃあ、フィオナちゃんに」
「え、ありがとうございます」
「無くしたらダメよ? エルメスちゃんに私が殺されちゃうわ!」
「エルメスさんはそんなことしませんよ」
そうフィオナが冷たくあしらう。彼女はハカセにも冷たかった。
そういえば、エルメスさんも通行証持ってたんだな。まあ、利用しているって言っていたし、持ってても不思議じゃないのか。
すると「え? あれ? 俺のは?」とセドリックが首を捻るが、ハカセが「あ」と声を上げる。
「ハンターの誰かが持っているでしょ。それを奪えばよろしい。うん、問題なし!」
なんていう事を言っているんだ、この人は。でも正直ジンもヘンリーから奪ったといえばそうかもしれない。それに今の所はそれしか方法がない。だからか「ま、それもそうだな」とセドリックが納得した。
「じゃあ、レガーロのアジトを探さないとね。……うーん、どうしましょ」
「そんなの簡単じゃねえか。俺のレオにそのイヤリングの匂いを嗅がせてこの持ち主を探せば、アジトが見つかるってことだろ」
「なるほど。って、レオって誰?」というジンのとぼけた質問に、「決まってんだろ」とセドリックが肩眉を上げる。
「俺の召喚獣――フェンリルだよ」
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