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「今から服買いに行くぞぉ」

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雪人の案に俺は乗った。

「それ、いいねぇ。お前いいヤツだなぁ」

雪人はビールの缶に視線を落とした。

「何がだ?」

「もうちょっと手伝ってくれよぉ。何からしたらいい? 服からか? 髪からか?」

雪人がこっちを見る。

俺はニヤニヤが止まらない。

「今からか?」

「真琴が寝てるうちに。早く早くぅ」

雪人はめんどくさそうに言う。

「服、着てくる」

「おぅ」

俺は気分がはしゃいでたまんない。

雪人みたいな服か。

真琴、どうなるかな?

どんな顔するかな?

驚くかな?

驚くよな?

雪人は服を着てきた。

「ちょっとコンビニ行ってくるから、待ってろ」

「え? コンビニ?」

「ワックス買ってくる」

雪人は身支度しながら答える。

「ワックス? お前の借りたらダメなのか?」

「俺のは柔らかい髪用だからな。お前は…」

雪人は俺の頭をくしゃくしゃっと触った。

「お前はやっぱり剛毛だから、違う種類が要るだろ」



雪人が俺の髪を弄って、雪人っぽくしてくれてる。

さすが元美容師だぁ。

俺はニヤニヤしながら待ってる。

雪人のクシで雪人が俺の髪を梳いてる。

「まぁ、ガシガシに固めると変だから、こんなもんだろ。鏡見てこい」

「うん!」

鏡の中で俺の頭は雪人っぽくなった。

でもなぁ。

「なぁ、雪人ぉ。黒に染めなくていいのかぁ?」

「髪染めんの時間かかるし、お前黒っぽくねえから」

「これでいいの?」

「いいんじゃねえか?」

よぉし。

「よし、じゃあ雪人、俺ちょっとお金取ってくるね」

「は? 金?」

引き出しに入れてあるんだぁ。

それを1束取り出す。

財布に入れる。

「お前、そんなところに金入れてんのか」

雪人の呆れた声がする。

「よぉし。雪人、今から服買いに行くぞぉ」

「は?」

「早くぅ」



「お前、意外と赤が似合うんじゃねえか? こんな感じの柄とか」

3着目のシャツを持ってきて、雪人が合わせながら言う。

「おぉ、これいいかも。お前と同じじゃないけど」

「お前は首が太いから、こっちの襟の方が似合うな」

「うんじゃこれ」

「あとは、スラックスか。上が黒地に赤だから、焦げ茶がいいか」

雪人が手に持つ。

「いや、違うな。もうちょっと黒っぽく。これか」

持ち替えたのを雪人が持ってきた。

「おぉ、手際いい」

「着替えてこい」

「うん」

俺は試着室に入って、着替えた。



コートも選んでもらって、全部買った。

コートは渋いエンジ。

店を出る。

雪人が俺の前を歩きながら話す。

「次は靴だ。この先にあるから」

「ほぉお」

途中で雪人の携帯が鳴った。

真琴からだった。

「ああ、起きたのか。ちょっと出てる…あとさん…いや、1時間くらいで帰る…ああ。じゃあな」

雪人は無愛想だ。

せっかくの真琴からの電話なのに。



靴も雪人に選んでもらって買った。

「これでいいか? 満足か?」

「あとピアスもつけたぁい」

「どこに?」

「眉ピ!」

「いや、お前の顔だと似合わねぇぞ。お前、目え丸いし」

「えー」

「まあ、どうしても顔に入れるんなら、唇とかの方がいいんじゃねえか? この辺とか」

雪人が俺の下唇をつついた。



左下唇に黒いリングのピアスを入れた。

マンションの下まで来て、俺は雪人に聞いてみた。

「似合ってると思う?」

「雰囲気は、出た。あんまり喋らず、はしゃがなけりゃあ似合ってる」

「マジ?」

うわぁ。

ドキドキする。

「あと、ニヤニヤすんな、落ち着け」

「はぁい」

喋らない、はしゃがない、ニヤけない。

よし。
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