公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

文字の大きさ
5 / 64
一章 旅路

セオドアとジェイデンの出会い③




夢中で手紙を読んでいる子供の傍。
手持ち無沙汰になったセオドアは薔薇の生垣を乗り越え、柔らかな芝生へ足を踏み入れた。そのまま躊躇いもなく先程子供が寝ていたその場所に寝転ぶ。
思った通り、芝生は抜群の寝心地だ。

そのまま空を見上げると、ぐるりと周りに咲いている薔薇がアーチのように視界に入る。


「気持ちいい場所だな」


そう呟き、心地よさに目蓋を落としかけたその時、誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。


「…坊っちゃま、どちらにおいでですか?」

次第に声が近づくと、子供が生垣を越えてきた。勢いよく飛び込んできた子供を受け止めてやりながら、視界の奥に白髪の老人が近づいてきているのが見えた。

「なんだ、呼んでるんじゃないのか」

やっぱり、この子供が坊っちゃまなのかと妙に納得した気分でいるセオドアとは対照的に、険しい顔で子供ーージェイデンは表情を引き締める。


「きて!」
いきなり身を翻したジェイデンに驚くセオドアの腕を引き、さらに奥の樹の影まで引っ張っていく。
「いいから、ついてきて」
「おい!ちょっと待てよ。…ついていくから、腕を離せ!」

庭園を突っ切り、近い低木が生い茂る横を通り抜けたあたりで、セオドアは我慢できずにその腕を振り払った。その周囲は森との境目に近付いたせいか、薔薇園よりも薄暗い。

「悪いな」
乱暴に外した腕をさすりながら、大人気なかったかとセオドアは謝った。

振り払われた腕をじっと見下ろしてから、ジェイデンはセオドアを見つめた。
海の色のような碧い眼だ。
金色の巻き毛は、薔薇園をかき分けた時にぼさぼさに乱れている。よく見ると、毛先は素人がハサミで切ったようにギザギザとしている。

「お前、公爵家のお坊ちゃんなんだろ?どうしてそんな格好してるんだ」

奇妙なのは服だけではなかった。
なまじ元の顔立ちが整っている分目立たないが、手足は汚れ、先ほど自分の腕を掴んだ手のひらは硬かった。
「髪もそれ、もしかして自分でやったのか?」

見下ろす目線を避けるように、金色の頭が俯いた。ギュッと服の端を握り、振り絞るように声を出す。

「さっきの。代官の手紙は本物なのか?」
真剣な眼差しに、セオドアはどういうことだと首を傾げた。
「代官は、12になったら予備学校の寄宿舎に入れると書いていた。父上にも確認して、俺の意思を尊重するようにと言われたと」
「ああ、そう聞いている。ここでは、12になると予備学校に入ることは義務だ。北は魔物が多い。騎士にならない奴でも、貴族なら予備学校で基礎を習う。有事の際に使える駒は一つでも多い方がいいからな」

北の常識である。
貴族でなくても、一定量以上の魔力のある平民にも課されている義務だ。

「予備学校は、義務だからな。学費は誰からも取らない。平民も、貴族からもだ」

その言葉に、ジェイデンがはっと顔を上げる。

「それは本当か?」
「こんな嘘言って何になる。家が遠方のやつとか、家庭の事情がある奴には寄宿舎も用意されてるぞ」

当たり前のように言うセオドアと対照的に、ジェイデンの顔が紅潮する。声は怒りに震えている。

「執事は、俺には学校に入る資格がないと言った。伝書鳩も入学届けを運んでこないから、そうなんだと信じていた…」
「そんなはずあるか。むしろ貴族なんだから、入学は絶対だ。俺の同級生には病弱すぎて主治医付きで寄宿舎に住んでたやつもいるぞ。体が弱くても、入学は逃れられない」


そう続けたセオドアの言葉に、眼を見張ったジェイデンの苛ついた唸り声が周囲に響いた。
感想 16

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 書きたかったことが書けた感じです。 S S 不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。 この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。 番外編 『僕だけを見ていて』 ・・・ エリアスはマクシミのことが大好きなのです。なんか、甘めの話を書いてみたくなりました。 『ホワイトデー♡小話』(前後編です) ・・・ エリアスからのプレゼントのお返しをするマクシミのお話です。 ホワイトデーなので、それっぽく書いてみました。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます