公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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一章 旅路

王都へ①




「この調子なら明日には王都に着けるな」

北の辺境騎士団の本拠地であるロンダ砦を出て3日経つ。
2人の騎獣の一角狼は、荒地では馬や馬型騎獣よりも早く駆けることができるため、馬車での旅に比べて半分の時間が短縮ができた。
天気にも恵まれ、順調な王都への道中である。


ジェイデンは、走らせていた騎獣の速度を落とし、セオドアに並べながら声をかけた。

「この山を超えたあたりに町があるはずだ。暗くなる前には着いていた方がいいな」

2人が進む街道は山中へと差しかかり、鬱蒼とした樹々が薄暗い影をいくつも落としている。冬の間は夜の訪れが早いとはいえ、まだ正午を超えて間もないというのに辺りは薄暗かった。
足元には冬を迎えて樹々から落ちた朽ち葉が幾重にも重なり、湿った匂いが漂う。

「ああ、そうだな。今日は早めに宿に入ろう。明日には王都なら、今晩はゆっくりしたい」
セオドアは喉の奥で笑って、ジェイデンの言葉に同意する。
ここからは少し早駆けして山を抜けたい。
昼食がわりに干し肉と乾燥杏を食みながら、2人は休憩をすることにした。

「水場が多くて助かるが、この辺りは兎すら見かけないな」
山奥から湧いているらしい清水は、ささやかな音を立てて岩場の隙間を滑り落ちている。
水音や風の音は聞こえるが、周囲に生き物の気配は感じなかった。

「冬だからってのもあるだろうよ。寒くなると獣は減る。ここら辺は小型の魔獣も多いし、魔熊もいる。あいつらは冬眠しないから、冬の間も獲物を探すんだ」

普段は木の実や虫を食べる魔獣も、食糧が乏しい季節は小動物を襲う。さらに中型の魔獣は飢えると人間も襲うため、この山越えは危険だと言われていた。本来なら、傭兵や護衛を手配するはずの道である。
しかし、この2人にとっては慣れた訓練より容易い道程だった。


「そろそろ魔獣の一匹でも出てきてほしいもんだな」

ちょろちょろと流れ落ちる湧き水で自らが喉を潤した後、騎獣に飲ませるために場所を譲ったジェイデンがセオドアを振り返る。

「なんだ」
「いや、変わってないなお前は」
「だから、なんだよ」
「昔から森で魔物ばかり狩っていたなと思って」

小さく笑うジェイデンを訝しげに見返すセオドアが、その言葉に苦笑する。

「いい趣味だろう。鍛錬もできて、金にもなるし一石二鳥だ。ものによっちゃあ、肉も美味いしな」

セオドアの趣味は魔物狩りだ。
冒険者たちが行うような討伐依頼や素材採集を目的にした物ではなく、単純に狩りを楽しむのが趣味なのである。
珍しい魔物を探して戦い、特徴や強さを書き留める。食べられる魔物は味見をし(ーーかなりの確率でまずい)、珍しい素材は売らずに記録して保管する。
本職の研究者も唸るほど魔物に詳しい男だった。

「お前のおかげで禁足地の森にも入ることができたし、感謝してるよ」

セオドアは初めてジェイデンの屋敷を訪ねてから、繰り返し禁足地の森へと足を運んでいた。
北の辺境地は王国の中でも魔物が多いが、長年人が立ち入らぬ禁足地は、独自の生態系を持ち、希少な薬草や魔物が多く生息していた。

「俺は、屋敷に近いところで兎やなんかを狩っていただけだからな。森の奥にあんなに魔物がいたとは知らなくて、お前に聞いたときはよく命があったとぞっとしたよ」

当時を思い出し、苦笑する。
ジェイデンは知らなかったが、屋敷の近くに魔物が近づかないよう、森の途中には魔物除けの薬草が垣のように植えられていた。
その薬草は月下草といい、人と魔物の住処を分けるためによく用いられる。
乾燥させ、練香に加工したものは魔物除けの香となる。


「もしお前が知らずに月下草を越えていたら、今頃はこいつらの腹の中だったかもな」

セオドアの冗談に反応したのか、伏せていた2人の騎獣が顔を上げた。
2人の騎獣は大きな黒い魔狼の兄弟である。
一角狼と呼ばれる彼らには、まだ両手で抱えられほど小さい仔狼の時に禁足地の森で出会った。

自分のことを言われているのがわかるのか、一匹がなんだ?とばかりにジェイデンに鼻先を押し付けてくるのを、両手で抱きながら押しとどめる。

「やめろ、ルー」
ジェイデンが笑いながら、自分の相棒を撫でてやった。

ルーは活発な性格のジェイデンの魔狼である。
セオドアの相棒はギート。

ギートはルーに比べると大人しく、穏やかな性格をしている。
今もギートは、はしゃぐルーを伏せたままチラリと見上げ、次に自分の主人を見つめてゆっくり尾を振った。それに気づいたセオドアが、自分を撫でてくれることを知っているのだ。
セオドアは笑いながらギートの首筋を軽く叩いてやり、そのまま優しく撫でてやった。
二匹は巨体をそれぞれの主人に素直に身を任せている。

「よしよし、お前たち。ここからは急ぐからな。町までは一気に抜けるぞ」

2人は二匹の気が済むまで撫でてやってから、その背に飛び乗った。外套の襟元をしっかりと留める。
主人の言葉を聞いたルーとギートは、額の角に魔力を集め、自らの四肢に早駆けの魔法をかける。

薄暗い山道を、主人を乗せた二匹は駆け上がっていった。

感想 16

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