公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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一章 旅路

南の塔①








王都はここ数日冬晴れが続き、今日も青空が広がっていた。
空気は冷たく突き刺すようだが、清々しい朝である。



3日ほどかけて荷解きを全て終え、快適な空間を手に入れたジェイデンとセオドアは騎士団本部のある南の塔へ来るようにユージーンに呼び出されていた。
年越しを間際に控え、塔も慌ただしい雰囲気に包まれている。
もう何日かすれば、年越しの祝日期間へ突入する事もあり、多くの者が仕事納めに忙しい。



「さて、さっさと済ませてしまいましょうか」

寮から南の塔まで付き添ってくれていたユージーンが、呼び出された理由を説明する。

「前にも言いましたが、君たちの騎獣の登録を済ませて頂きたいんです。訓練や授業でもその子たちと組むんでしょう?」

「ええ、北での任務でもそうでした」

肯定の言葉に、ユージーンがうなずく。

「慣れている騎獣を連れてくる生徒は多いですよ。まあ、一角狼というのは珍しいですが。あまり人と馴れ合わない魔獣だと思っていました」

「まだ魔力が少ない時に出会ったので、こいつらが特別なのかもしれないですね」

そう言ってジェイデンがついてきているルーの頭を撫でる。
ルーは嬉しげに喉を鳴らした。

ルーとギートが群れからはぐれていた所に遭遇したのは、二匹が今の犬の姿の大きさよりも小さな頃だ。通常は群れに守られているはずの仔狼が、無防備にキュンキュン鳴いていた。
このままでは森で生き抜けないだろうと保護し、成長してから森へ戻そうとしたが、断固として2匹が拒否したためそのまま騎獣にした経緯がある。

「王都の騎獣は全て登録をする決まりです。未登録の騎獣は魔物と間違われて討伐対象になる事もあります」

南の塔がある騎士団・魔術師団の本拠地には情報漏洩や防衛のために結界が施されているが、範囲内に未登録の魔獣がいることで結界に反応が生じるのだ。さらに、そこから未登録魔獣として警戒されるという。
王都に侵入した魔獣の討伐は騎士団の仕事の一つである。
それを防ぐために急ぎで登録を行う必要があった。

「一角獣は魔力が強いので、すぐに私のところにも報告が来ました」

「先生のところにですか?」

「はい。私は王都防衛の魔術顧問でもあるので」

「え?そうなのですか」

思わず言ったジェイデンだった。

「先生は魔術師だったのですね」

「そうです。私の専門は防衛魔法術ですよ」

ユージーンは対人・対魔物の防御魔法や結界術、隠密に使うような通信魔法、魔物や他国から王国の民を守るための防衛手段を講じる部隊に属していた。
以前は実働部隊に属していたが、引退して教職へついたという。

「学校でも防衛術を教えていますので、授業で会う事もありそうですね」

王都の防衛機構について簡単に教えてもらいながら進み、塔の最上階にたどり着いた。
ユージーンが近くにいた職員へ取り次ぎを頼む。



「お、そいつらが噂の一角狼か」

奥の部屋から出てきたのは、いささか変わった風体の人だった。
服から覗いている両腕と首筋には派手な刺青が細かく刻まれており、ぼさぼさの赤毛は伸び放題で前髪が顔の半分を隠してしまっている。腕には魔術具であるらしい腕輪が何重にも巻かれていた。
わずかに覗く口元が、楽しげに笑みを浮かべている。

「こんなちっちゃくなってても、出してる魔力は変わらないな」

豪放磊落な男の態度に、ユージーンが苦笑いでこの人物の紹介をした。

「リルバ・カルテス。ここの責任者です」

その名前にセオドアが反応する。

「ユージーン先生のお身内の方ですか?」

「はい。従兄弟です」

実直な物腰のユージーンとはあまり似ていない印象を受けたが、2人とも王都で有名な魔術師であった。カルテス家は防衛魔法術に長けており、代々王都防衛の要職についているという。

「リルバは結界術と対魔物の専門家です」

リルバはジェイデンとセオドアの前を素通りし、知らない人間を警戒している様子のルーとギートの前に蹲み込んでいる。
舐め回すように2匹を観察し、その視線が首輪に刻まれている魔術紋で止まった。

「この首輪はどこで?」

見上げてくるリルバの顔は前髪に邪魔をされていて見えない。

「俺の自作ですよ」

セオドアが説明する。
2匹の首輪は魔道具である。革職人に特注した首輪に、セオドアが魔術紋を付与したものだ。
契約魔術はセオドアの得意とする所で、魔物に合わせた魔術紋の研究にも熱心だ。
彼の趣味の魔物狩りはここ最近、単なる魔物との勝負から、その生態調査へと変化を遂げていた。

「ふぅん。ここの契約術式は魔物への負担が少なくなってて効率がいいな」

リルバはルーの首輪を見ながら感心するように言った。
騎獣との契約魔術は魔物への支配を強めるために魔物に苦痛を強いる事も多いが、セオドアが組んだ魔術紋はなるべく2匹たちへの苦痛を減らせるよう工夫したものである。
一見でそれを見抜いたリルバに、ジェイデンもセオドアも驚きの表情を浮かべる。

「後で話を聞かせてもらえるか?まずは、塔の結界への登録を済まそう」

そう言ってリルバは立ち上がった。











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